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28話 おじさんが……
しおりを挟む毎年、豪華に開かれることが有名な夜会なら… 元婚約者がブリンクロウ侯爵家に来ていてもおかしくはなかった。
「何だと… レオニーだって?! 彼女があの、『カマキリ令嬢』なのか?!」
「……っ?!」
学園生時代、私を苦しめ侮辱した忌まわしい言葉で、私の気をひいた相手の顔を見る。
相手の身長は… 女性にしては背が高い私と同じぐらいだが、頭が薄くなりかけていて、お腹は大きくでっぱり小太り。 顔もまん丸で…… 一瞬、誰だかわからなかった。
…だが、傲慢な口調には覚えがある。
「フ… フレデリック様……?」
婚約解消をしてから2年半の間に、この人に何があったの? 男性って、成人するとこんなに老けて見えるモノなのかしら?! フレデリック様より年上のお兄様の方が若く見えるわ?!!!
私は婚約解消のせいで増々、社交活動から遠ざかり、本の世界へ引きこもっていたから… 別れた後のフレデリック様とは1度も会ったことがなかった。
「何だ! 本当にレオニーじゃないか! ずいぶん綺麗になったな?」
「お… お久しぶりです。 フレデリック様…」
嫌だ、この人… 顔が赤いわ! まだ舞踏会のダンスも始まっていないのに。 もう酔っているの?
私は戸惑い、フレデリック様におどおどとした対応をしてしまう。
目の前にあらわれた、見た目がすっかり(おじさんに)変わってしまった男性が、自分の元婚約者フレデリック様だと気づき… 私は予想外の出来事のせいで呆気に取られていたのだ。
相手の変貌ぶりに、呆然としていた私の動揺を感じ取ったお兄様が、フレデリック様との間に割って入り、代わりに対応してくれたが… 言い争いになった。
お兄様はずっと、浮気をして私を深く傷つけたうえに、婚約を解消したフレデリック様を… 私以上に憎んでいたからだ。
「何なんだ、お前は! 僕はレオニーに話しかけているんだ、邪魔をするなリュシアン!」
「酔っぱらって、図々しく妹に絡むのは止めてくれ。 婚約者だった頃ならともかく… 今はお互い、別の相手と結婚しているのだから」
酔っていて理性が働かないらしく、フレデリック様は些細な嫌味に激怒して、リュシアンお兄様につかみかかって来た。
「お前には関係無いだろう? 僕はレオニーに用があるんだ!」
「話にならないな、フレデリック。 少しは大人になったかと思ったが… 以前より子供に退行したみたいだな?」
先にケンカを売った側のお兄様は、フレデリック様を冷笑し、辛辣な言葉を投げつける。
さらに激昂したフレデリック様は上着を放すと、今度はお兄様の首に手をのばし締めようとする。
「このっ…! お前は引っ込んでいろ、リュシアン。 レオニーは僕と話したがっているんだ!」
「こっ… こんなに君が… 酒癖が悪いとは… 知らなかったぞ」
お兄様は自分の首をしめようとする、フレデリック様の手をつかみ抵抗する。
「やっ…! フ… フレデリック…様…?! どうしましょう… 誰か… 誰か助けて! お兄様を誰か……!!」
いったい何なの? 婚約していた頃も、フレデリック様は私の話をまともに聞く人ではなかったけれど。 男爵位を継いでいたお兄様には、礼儀正しく接していたのに。 見た目だけではなく、中身まで別人のように変わってしまったの?!
目の前でケンカが始まり怯える私の背中を、誰かがトントンッ… とたたいた。
アッ… という間の出来事だった。
突然、どこからかベルナール様があらわれ、つかみ合う2人の側へ行くと… 有無を言わさずフレデリック様の襟をつかみ、後ろに引き倒した。
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