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13話 悪夢2 ベルナールside 

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 悪夢にうなされる私を心配して見守り、気をきかせて起こしてくれたレオニーの優しさがじわりと心に染みる。


「ごめん… 少しばかり激し過ぎたね?」
 明け方の情交じょうこうで疲れ果て、ぐっすりと眠る優しい妻レオニーの寝顔にキスを落とし… しみじみと思う。

「仕事で嫌なことがあったから、君の優しさに甘えてしまったよ…」

 昨夜、悪夢から目覚めたばかりで、私はちょうどのどかわきを感じていた。
 私が何も言わなくても… 君は私に水を飲ませようと、ベッドから飛び出て大急ぎでカップに水を注いで手渡してくれた。

「私は本当に、良い妻を選んだな… 心から私の選択は正しかったと思う。 レオニーを妻にした自分をめてやりたいよ」

 ベッドを出ると窓にかかるカーテンを半分だけ開き、薄暗い室内に清らかな朝の陽ざしを入れる。

 
「ああ! 昨夜の… 北方辺境騎士団にいた時の記憶を、久しぶりに悪夢で見た原因を思いだした」

 窓際に立ち、レオニーのために購入した新居から、王都の街並みをながめていると… 不意に気付く。

「そうだ。 私の目の前で麻薬エフティヒアを飲む、アンヌ女狐の姿に刺激されたからだ…」 
 隣にいたレオニーが途中で起こしてくれたから、夢の中で自分が殺されることは無かったが。
 あの記憶を夢で見ると… 毎回、必ずと言っていいほど、私は同僚に背中から刺されて殺されるのだ。



 学園の騎士課を優秀な成績で卒業した時… 私は自意識過剰じいしきかじょう傲慢ごうまんな若造だった。


「ベルナール、学園を卒業してすぐの見習い騎士が、北方辺境騎士団へ行くのはあまりにも無謀むぼうだ! 王立騎士団に進路を変えなさい」
「そうよ、ベルナール… お父様の言う通りだわ」

 両親や親戚、学園の恩師たち。
 私のことを心配した周囲の人たちの忠告を無視して、王国でもっとも苛酷かこくで危険だと言われる、北方辺境騎士団へ入団した。

「父上、母上、オレなら大丈夫です。 簡単に死んだり大ケガを負ったり… そんなマヌケではありませんよ」
 学園での高評価という薄っぺらい経験が… ほとんど根拠こんきょのない自信を私にあたえ、傲慢ごうまんな若造を危険な北方へと向かわせた。

 北方辺境騎士団とは… 王国の中でも特に魔獣被害が多発する北部地域で、魔獣を駆除くじょするのがおもな役目の騎士団である。

「人間を相手にする、王立騎士団や近衛騎士団などとは比べ物にならないほど、命の危険にさらされる! ベルナール君、せめて経験を積んで『騎士爵』を得てから行きなさい」

 『騎士爵』とは、まずは騎士団で見習い騎士として経験を積む。
 それでようやく受験資格を得て、騎士試験を受けて合格すると、国から1代限りの爵位『騎士爵』が与えられる。 

「先生、『騎士爵』は北方辺境騎士団で取るつもりです! オレの剣技がどこまで通用するのか、早く確かめたいし… それに剣の腕をみがくなら実戦が1番でしょう?」


 殺すか、殺されるか。 突発的に出現する魔獣との、凄惨せいさんな殺し合い。
 北方辺境騎士団で悪夢のような光景をいくつも見た。

 それも悪夢のような光景は、襲撃してくる魔獣との戦場にだけ、あるのではなかった。

「おい、新入り! お前はあんまりフィリップに近づくなよ」
「なぜですか、隊長?」
「あいつは『エフティヒア』で頭がオカシクなっているからだよ」

「エフティヒア…?」
 それは確か…
 
「隣国から流れて来る麻薬だよ。 お前もまともな人間でいたければ、辛くても麻薬エフティヒアには絶対に手を出すなよ?」
「麻薬ですか?! そんな物、違法ではありませんか!」
「ああ、もちろん麻薬エフティヒアは王国では違法だ」
「だったらなぜ… フィリップさんは罰せられないのですか?」 

 毎日のように北部地域のどこかで発生する、魔獣との血なまぐさい戦いの中で騎士たちの半数が精神を病み、麻薬エフティヒアに手を出していたからだ。

「フィリップみたいな騎士を、罰して監獄へ入れたら… 北方で戦う騎士は半数以下に減るだろうな」
「そんな、バカな…!」
「バカな話だが… ベルナール、これが危険な北方で戦い続ける、騎士たちの現実なんだよ」

 麻薬エフティヒアが切れると禁断症状で妄想もうそうとらわれ、獣のように暴れては、味方の騎士を『魔獣』と間違えて襲う。

 そんな騒ぎが毎日のように騎士団内で起きていたが… 周囲の者たちもエフティヒアに手を出していため、暗黙の了解で口を閉じた。

 仲間に背中から刺されるのではないかという、不安の中で魔獣と戦い、危険な職務をまっとうしなければならない。

 国王陛下の側近をつとめる叔父に、北方の地獄のような現状を伝えると… 麻薬エフティヒアを流通させている組織の捜査をする第4騎士団に誘われた。


 そして私は4年間を過ごした、北方を去ることに決めたのだ。




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