54 / 55
52話 愛した理由 ジョナサンside
しおりを挟む
ファゼリー伯爵邸を追い出されたジョナサンが、セイフォード男爵邸で暮らすようになると… 当然のことだがアリアーヌと顔を合わせる機会が何度もあった。
そのたびに…
「キャアァァァ―――ッ…!!」
痣が消えないジョナサンの顔を見たアリアーヌは、怯えてさけび声をあげた。
「アリアーヌ…っ?!!」
ああ、クソッ…! 兄上のせいだ! 繊細なアリアーヌはきっと怖がると思っていた。 …だからまだ顔を見せたくなかったのに!
「嫌っ! ジョナサン… あなた、何てひどい顔なの?!」
「ごめんよ、きっとすぐに治るから」
かわいそうに… 優しくて繊細なアリアーヌは人のケガを見ただけで、傷ついてしまうんだな? 僕が注意しないと。
苦笑を浮かべてジョナサンは謝った。
ジョナサンの考えを裏切り、エドガーに殴られた痣が顔から消えても… アリアーヌは怯え続けた。
「おはよう、アリアーヌ」
いつもは昼近くまで寝室から出て来ないアリアーヌに、朝から会えるなんて… 今日は幸運だ!
「お… おはよう、ジョナサン…」
朝食室で顔を合わせると、アリアーヌはサッ… と顔をそむけてジョナサンの顔を見ないようにする。
「…まだ、この顔に見なれないんだね?」
ジョナサンは自分の鼻に触れた。
エドガーに殴られて折れた鼻は、完治しても曲がったままになってしまったからだ。
そのことが、繊細なアリアーヌには耐えられないのだ。
「ごめんなさい… ジョナサン…」
おどおどと謝るアリアーヌ。
「気にしてないよ」
だけど… 僕が男爵邸へ来て男爵について回り、領地運営を学ぶようになってからは、1度もキスをさせてくれない。
ジョナサンがキスをしようとすると、アリアーヌは顔をそむけるようになった。
それどころか… 鼻が曲がったジョナサンの顔を、なるべく見ないようにしているのがわかる。
待ちに待ったジョナサンとアリアーヌの婚姻の儀がおこなわれた。
女神を祀る祭壇の前でも… アリアーヌは誓いのキスをこばんだ。
「……っ!」
もしかしてアリアーヌは… 僕を愛した理由は、顔だったのか? 僕自身ではなく…… 僕の容姿を愛していたのか?! まさか… そんなっ!!
誓いのキスをこばまれて、ジョナサンは初めてそのことに気づき、顔を強張らせる。
だが、ジョナサン自身も… アリアーヌの『妖精姫』と呼ばれる、無邪気で清らかな美しい容姿に惹かれたのだから同罪である。
鼻の骨が曲がり、以前とは容姿が変わってしまったジョナサンを… アリアーヌがうっとりと見つめ、キスをねだることは無くなった。
初夜の時間となり、ジョナサンが寝室へ入ろうとすると… 泣きわめくアリアーヌの声が扉の向こうから聞こえ、ピタリッ… と立ち止まった。
ジョナサンは扉を少し開けて、アリアーヌと男爵夫人の話を盗み聞く。
「アリアーヌ… あなたは愛するジョナサンと結婚したのでしょう? ね?」
「怖いわ…! 嫌よっ… 絶対に嫌っ…! お姉様は? ジュリーお姉様が代わりに初夜をすればいいのよ! 優しいお姉様ならきっと、私を助けてくれるわ!」
アリアーヌは身体をブルブルと震わせながら、男爵夫人に縋りつき泣きじゃくっている。
「ジュリーも立派にエドガーと初夜を迎えたのよ? あなたも愛するジョナサンとなら、きっとジュリーのように素敵な初夜を、迎えられるはずだわ」
男爵夫人はアリアーヌをなだめようとするが…
「嫌っ…! もう彼を愛してないわ! だから初夜は出来ない! 嫌よっ…! 愛してないの、ジョナサンを愛してない!!」
「アリアーヌ…」
「……」
やっぱり……!
ジョナサンはそのまま静かに扉を閉めて、寝室を離れた。
アリアーヌの本心をはっきりと聞き、ジョナサンの愛情も冷めてしまったのだ。
そのたびに…
「キャアァァァ―――ッ…!!」
痣が消えないジョナサンの顔を見たアリアーヌは、怯えてさけび声をあげた。
「アリアーヌ…っ?!!」
ああ、クソッ…! 兄上のせいだ! 繊細なアリアーヌはきっと怖がると思っていた。 …だからまだ顔を見せたくなかったのに!
「嫌っ! ジョナサン… あなた、何てひどい顔なの?!」
「ごめんよ、きっとすぐに治るから」
かわいそうに… 優しくて繊細なアリアーヌは人のケガを見ただけで、傷ついてしまうんだな? 僕が注意しないと。
苦笑を浮かべてジョナサンは謝った。
ジョナサンの考えを裏切り、エドガーに殴られた痣が顔から消えても… アリアーヌは怯え続けた。
「おはよう、アリアーヌ」
いつもは昼近くまで寝室から出て来ないアリアーヌに、朝から会えるなんて… 今日は幸運だ!
「お… おはよう、ジョナサン…」
朝食室で顔を合わせると、アリアーヌはサッ… と顔をそむけてジョナサンの顔を見ないようにする。
「…まだ、この顔に見なれないんだね?」
ジョナサンは自分の鼻に触れた。
エドガーに殴られて折れた鼻は、完治しても曲がったままになってしまったからだ。
そのことが、繊細なアリアーヌには耐えられないのだ。
「ごめんなさい… ジョナサン…」
おどおどと謝るアリアーヌ。
「気にしてないよ」
だけど… 僕が男爵邸へ来て男爵について回り、領地運営を学ぶようになってからは、1度もキスをさせてくれない。
ジョナサンがキスをしようとすると、アリアーヌは顔をそむけるようになった。
それどころか… 鼻が曲がったジョナサンの顔を、なるべく見ないようにしているのがわかる。
待ちに待ったジョナサンとアリアーヌの婚姻の儀がおこなわれた。
女神を祀る祭壇の前でも… アリアーヌは誓いのキスをこばんだ。
「……っ!」
もしかしてアリアーヌは… 僕を愛した理由は、顔だったのか? 僕自身ではなく…… 僕の容姿を愛していたのか?! まさか… そんなっ!!
誓いのキスをこばまれて、ジョナサンは初めてそのことに気づき、顔を強張らせる。
だが、ジョナサン自身も… アリアーヌの『妖精姫』と呼ばれる、無邪気で清らかな美しい容姿に惹かれたのだから同罪である。
鼻の骨が曲がり、以前とは容姿が変わってしまったジョナサンを… アリアーヌがうっとりと見つめ、キスをねだることは無くなった。
初夜の時間となり、ジョナサンが寝室へ入ろうとすると… 泣きわめくアリアーヌの声が扉の向こうから聞こえ、ピタリッ… と立ち止まった。
ジョナサンは扉を少し開けて、アリアーヌと男爵夫人の話を盗み聞く。
「アリアーヌ… あなたは愛するジョナサンと結婚したのでしょう? ね?」
「怖いわ…! 嫌よっ… 絶対に嫌っ…! お姉様は? ジュリーお姉様が代わりに初夜をすればいいのよ! 優しいお姉様ならきっと、私を助けてくれるわ!」
アリアーヌは身体をブルブルと震わせながら、男爵夫人に縋りつき泣きじゃくっている。
「ジュリーも立派にエドガーと初夜を迎えたのよ? あなたも愛するジョナサンとなら、きっとジュリーのように素敵な初夜を、迎えられるはずだわ」
男爵夫人はアリアーヌをなだめようとするが…
「嫌っ…! もう彼を愛してないわ! だから初夜は出来ない! 嫌よっ…! 愛してないの、ジョナサンを愛してない!!」
「アリアーヌ…」
「……」
やっぱり……!
ジョナサンはそのまま静かに扉を閉めて、寝室を離れた。
アリアーヌの本心をはっきりと聞き、ジョナサンの愛情も冷めてしまったのだ。
457
お気に入りに追加
1,151
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか、では死にますね【完結】
砂礫レキ
恋愛
自分を物語の主役だと思い込んでいる夢見がちな妹、アンジェラの社交界デビューの日。
私伯爵令嬢エレオノーラはなぜか婚約者のギースに絶縁宣言をされていた。
場所は舞踏会場、周囲が困惑する中芝居がかった喋りでギースはどんどん墓穴を掘っていく。
氷の女である私より花の妖精のようなアンジェラと永遠の愛を誓いたいと。
そして肝心のアンジェラはうっとりと得意げな顔をしていた。まるで王子に愛を誓われる姫君のように。
私が冷たいのではなく二人の脳みそが茹っているだけでは?
婚約破棄は承ります。但し、今夜の主役は奪わせて貰うわよアンジェラ。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
理想の妻とやらと結婚できるといいですね。
ふまさ
恋愛
※以前短編で投稿したものを、長編に書き直したものです。
それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。
「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」
ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。
「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」
「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」
エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。
どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。
「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」
「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」
「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」
などなど。
あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。
「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」
と、呆れたように言い捨てた。
始まりはよくある婚約破棄のように
メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
5度目の求婚は心の赴くままに
しゃーりん
恋愛
侯爵令息パトリックは過去4回、公爵令嬢ミルフィーナに求婚して断られた。しかも『また来年、求婚してね』と言われ続けて。
そして5度目。18歳になる彼女は求婚を受けるだろう。彼女の中ではそういう筋書きで今まで断ってきたのだから。
しかし、パトリックは年々疑問に感じていた。どうして断られるのに求婚させられるのか、と。
彼女のことを知ろうと毎月誘っても、半分以上は彼女の妹とお茶を飲んで過ごしていた。
悩んだパトリックは5度目の求婚当日、彼女の顔を見て決意をする、というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる