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47話 ファゼリー伯爵夫妻

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 婚姻こんいんの儀を終え、ファゼリー伯爵夫妻となったジュリーとエドガーは… 参列者たち1人、1人と言葉をわし、お礼の言葉を伝えて結婚式をしめくくった。

 その後エドガーは、急な儀式の要請ようせいだったのにも関わらず、こころよく引き受けてくれた老神官に、感謝の気持ちをそえて、神殿に多額の寄付をすることを約束する。


「あの、神官様… アリアーヌの婚姻こんいんの儀式も、どうかお願いします」

「ジュリー嬢… いえ、ファゼリー伯爵夫人、神官という立場にいる私から見ても、あなたは本当に人がいですね…」
 目尻のシワを増々深くして、老神官は笑った。

「神官様…」
 ううっ… お人好しと言われてしまったわ。

「私はアリアーヌ嬢とジョナサンきょうが、自分たちが犯した罪を認めて、心から誠意をもってあなたに謝罪すれば、婚姻の儀式をとり行うことに、何の文句も無いのです」

「謝罪なら、2人に何度もしてもらいましたよ」
 ジュリーは首をかしげる。

「口先だけの謝罪ではダメなのですよ」

 老神官のもとへ、ジョナサンとアリアーヌは別々に事情の説明をしに来た。
 2人とも自分たちが、いかに愛しあっているかと… 老神官にそんな言い訳ばかりをした。
 そしてジュリーがジョナサンを愛していないから、婚約解消は仕方ないと… 結局、最後はジュリーのせいにしたのだ。

 政略結婚で結婚前から愛しあっているカップルなど、滅多めったにいないと独身の神官でもわかる。
 ジュリーがジョナサンを愛していないのも、普通にあることだった。


「……」
 妹のアリアーヌは昔から私にゆずられることが、当たり前になっているから、本当に悪いとは思っていないでしょうし。 ジョナサンは、私が嫌いだから… 自分よりも私が悪いと言うでしょうね。

 何も言えなくなり、ジュリーは思わず黙り込む。
 

「神官殿の言う通りです。 私もジョナサンの言い分に腹が立って、こぶしで説明してやりましたから」
 ジュリーの隣に立つエドガーが、神官ににぎりこぶしを見せてニヤリッ… と笑う。

「ああ、だからジョナサンきょうはあんな姿なのですね」
 老神官はチラリッ… と視線をエドガーから、包帯ほうたいをグルグルと顔に巻いたジョナサンへうつす。

 居心地いごこちが悪そうに、そわそわとジョナサンは伯爵夫妻が老神官と話し終えるのを待っている。

「弟も少しは考えを、あらためたのではないかと思いますが…」

「ふふふっ… そうですか? 仕方ないですね。 これ以上、ジュリー嬢… いえ、ファゼリー伯爵夫人を困らせたくはありませんから、婚姻こんいんの儀をおこないましょう」

「ありがとうございます、神官様」
 ホッ… と安心し、ジュリーは笑った。


 あまり王太子いっこうを、待たせるわけにもゆかず… ジュリーとエドガーは話を切り上げ、ジョナサンを連れてファゼリー伯爵邸へ帰宅することにした。

 ジュリーは実家のセイフォード男爵邸へ、ウエディングドレスを着替えに1度戻ろうと思っていたが…
「さすが、お母様だわ! 手際が良いわね」

 いつの間にかまとめてあった、3日分のジュリーの荷物が、ファゼリー伯爵家の馬車に積んであった。



 ガタッ… ゴトッ… とジュリーは馬車にゆられながら、隣に座る夫のエドガーと仲良く手をつなぎ…
 ふと… 母が神殿をりぎわに、自分へかけた言葉を思い出す。

『幸せになりなさい、ジュリー…!』

「……」
 ええお母様、そうするわ! 私、頑張ってエドガーと2人で幸せになるわ!

 空色の瞳をキラキラと輝かせて、ジュリーはエドガーを見あげた。
 視線に気がついたエドガーも、おだやかな金色の瞳でジュリーを見下ろす。



 誰が見ても相思相愛そうしそうあいだと分かる2人の姿を、一緒に馬車に乗るジョナサンが、向かいがわの座席からジッ… と見つめていた。





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