婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された

みみぢあん

文字の大きさ
上 下
44 / 55

42話 婚姻の儀3 エドガーside

しおりを挟む
 ジュリーの父、セイフォード男爵が祭壇さいだん前まで来ると… 老齢ろうれいの女性神官が一歩前に出て、厳しい口調で説教を始めた。

「セイフォード男爵。 神聖な婚姻こんいんの儀式の最中に怒鳴り声をあげて、中断させるとは… これは女神様への冒涜ぼうとくですよ?」
 怖気おじけづいた参列者たちの中には、抗議の声をあげる者はいなかったが… 神官だけは毅然きぜんとした態度で男爵に注意する。

「男爵家当主の私が、許可を出していない結婚を、娘が勝手にしようとしているのだから! 儀式を止めるのは当然だ!!」

「セイフォード男爵!」

「これは男爵家内の問題だから、神官殿は黙っていてくれ!」 
 男爵はジュリーに手をのばす。 

「嫌よ、お父様っ…!」

「ジュリー…!」
 ここまで大騒ぎをするほど、男爵がジュリーに執着しているとは?! もっと人の目を気にする人だと思っていたが… 大きな誤算ごさんだった。

 エドガーはおびえるジュリーの前に立ち、自分の背中でジュリーを守り男爵の手をはばむ。

「ファゼリー伯爵! 娘への求婚はさっき断ったのを忘れたのか?」 

「先ほどは男爵に言い忘れましたが… 先にジュリー嬢から私の求婚を受け入れると、良い返事をもらっていました」

 男爵はしつこくエドガーの背中に隠れるジュリーに手をのばした。
「伯爵位を持つ者が、こんな小賢こざかしい手段を取るとは… さぁ、ジュリー! 屋敷に戻りなさい!」

「嫌です…っ! 今までのようにお父様の命令を、聞きたくありません」 
 ジュリーは震える手で、エドガーの背中にしがみついた。
  
「男爵、これはジュリー嬢の意志です。 王都の貴族管理局も私たちの結婚の許可を出しています! いくらあなたが父親でも… 王国法で守られている、成人したジュリーの結婚をする権利を、おかすことはできませんよ?」
(貴族管理局→出生、婚姻、死亡の届出など、貴族籍関係の管理をする王国の機関)

 エドガーは正論で男爵を説得しようとしたが… 興奮した男爵は聞く耳を持たなかった。

「ジュリーは私が育てた、私の娘だ!」

「セイフォード男爵、あなたにはもう1人アリアーヌという娘がいるのを忘れたのですか? それにもうすぐ、私の弟ジョナサンがあなたの息子になるのですよ?」

「そんなことは関係ない! ジュリーは男爵家を守るために、私が一から厳しく仕込んで育て上げた… 私の立派りっぱな後継者だ! 甘やかされて育った、ジョナサンなどとは比べ物にならない!」

「男爵…」
 これは困ったぞ? ジョナサンに関しては否定できない。

 不謹慎ふきんしんにもエドガーは、胸の中で笑ってしまう。
 当のジョナサン本人が祭壇広間の入り口で、あわてた様子でこちらをながめているのが、エドガーの視界に入る。

「……」
 ジョナサンのやつめ! 恐らく私が伯爵邸へ送った使いの報告を聞き、ジョナサンは男爵邸へ行き… 私たちが婚姻の儀を秘密裏に進めていたことを、男爵に漏らしたのだろう。
 クソッ…! 予定通りの事後報告となっていれば、もう少し穏便おんびんに事を運べたはずなのに… 結局は参列者たちの前で、男爵を説得しなければならなくなったぞ?

「何をグズグズしている、ジュリー! 帰るぞ!」
 エドガーのすきねらい、男爵はふたたび手をのばして、ジュリーの手をつかもうとする。

 だが、咄嗟とっさにジュリーが身体を引き… 男爵はジュリーの手ではなく、花嫁の長いベールをつかんで引っ張った。
「やめて…っ! お父様…っ…」

 エドガーが男爵の手首をつかみ、ギリギリとめ付け、ジュリーからベールをはぎ取るのを阻止そしした。
 
「男爵! 花嫁のベールを取るのは私の役目です」
 クソッ…! 怒りで頭に血がのぼった男爵は、人前でジュリーをはずかしめても平気なのか?!


「旦那様…! もう、止めて下さい! あなたは娘の幸せを、ご自分の手でつぶす気ですか?! 恥ずかしくないのですか?!」
 美しい花嫁姿の娘を見ても、ほこらしいとめるのではなく… 自分に服従ふくじゅうさせようと、乱暴に手を出す夫に、男爵夫人は耐えられなくなり、声をあげた。


「今さら何を言っているのだ! 貴族に生まれたのだから、家を守るために個人の幸せなど後回しにして、当然ではないか!」







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...