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37話 エドガーは恥知らず3

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 ジュリーとエドガーを祝福する雰囲気の中… 男爵夫人だけが表情を曇らせた。


「エドガー… 男爵はおそらく、あなたたちの結婚を許可しないわ…」

「叔母上、その話なら昨日ジョナサンから聞きました」
 ニコニコと甘い笑顔を振りまいていたエドガーが… 王都で王太子の側近を務めている時のように、キリッ… と凛々りりしい姿に切り替わる。

「それで… 何か考えはあるの?」
 エドガーに男爵夫人は心配そうにたずねた。

「……!」
 あ! 私もそのことが、心配だわ。 お父様から男爵家に残れと言われた時は、『嫌だ』と答えたけれど… でも、家の助けが無い状態でとつぎ先を見つけることは、不可能だと私にもわかる。
 だから… きっとお父様の言う通りになると…… 正直、結婚はあきらめていた。 
 でも、エドガーが私を欲しいと言ってくれるなら、喜んでとつぐわ!

 ジュリーも心配顔でエドガーを見あげると…
 キリッ… としていたエドガーがジュリーの視線に気づき、また甘い笑みを浮かべる。

「実は… あまり使いたい手では、なかったのですが… 男爵にはすべて事後承諾じごしょうだくということで、進めてみてはどうでしょうか?」

 通常通り、エドガーは求婚の許可を男爵に申し込むが、それで本当に男爵が、許可を出さなかった場合のことである。

「あらあらっ! エドガー… あなた、本気でジュリーをさらう気なのね?」

「ええ、まぁ…… 先ほども言いましたが、すべて書類は整えてありますから、それも可能なのです」
 エドガーはポンッ… ポンッ… と内ポケットに書類を入れた上着の胸をたたく。 

「ど… どういう意味?」
 いまいち話の意味が理解できずにいるジュリーは、2人の会話に口をはさんだ。

「私の胸ポケットには神殿で『婚姻こんいんの儀』をとり行なってもらうための申請書もあるんだよ。 これがあれば、今すぐにでも結婚できるだろう?」
 貴族せきに入っている、貴族同士の結婚では… 神殿へ提出する申請書は、王国が2人の結婚に許可を出したという、証明でもあるのだ。

『婚姻の儀』を行った後は、神殿が婚姻証明書を発行し、王国の貴族籍を管理する機関へ提出し、結婚が無事成立するという仕組みである。

「……そんなモノまであるの?」
 だって、婚約解消前…… 私の結婚のためにお父様が、その申請書を王都から取り寄せようとしたら、確か数ヶ月かかったのよ? すごいわエドガー! いったい、どんな魔法を使ったの? あなたは本当に仕事が早くて完璧なのね。
 素敵…!!!

 キラキラとジュリーが瞳を輝かせている横で、男爵夫人とエドガーはサクサクと話を進めて行く。

「良いわ。 その手で行きましょう」
 男爵夫人はテキパキと、その場に集まっていた使用人たちに指示を出す。

「ありがとうございます叔母上」
 エドガーはニヤリ… と笑う。

「エドガー、あなたは男爵に求婚の許可を申し込む時間を、なるべく長く引き伸ばしてね。 その間に、私が準備をしておくから」

「叔母上が味方になってくれるのなら、こんなに心強いことはありません」

「…ちょっと、待って? あ… あの… もしかして、今から『婚姻の儀』をする気なの?」
 あわててジュリーは割って入った。
 すでに窓の外はが落ちて暗くなっている。

「急なことだから、『婚姻の儀』は地味になってしまうけれど… その代わりファゼリー伯爵夫人のお披露目ひろめは、日を改めて盛大にやろうジュリー」

「大丈夫よ… あなたの花嫁衣装は、私のクローゼットにしまってあるから」
 自分の結婚が流れてしまった娘の目に、着るはずだった花嫁のドレスを触れさせないよう、気づかった男爵夫人はドレステーラーから密かに受け取っていたのだ。

「あ… 私のドレス?!」
 いろいろあったから、ドレスのことなんて、すっかり忘れていたわ… でもあのドレスは何度もデザイナーと話し合い、私に似合う『白』をさがして… 外国の生地で少し金色がかった『白』を見つけて大喜びした。
 あの綺麗なドレスを… 私は着れるのね?

「それに… ほら! 花嫁のブーケもここにある… それも『奇跡』、『神の祝福』と呼ばれる青いバラのブーケよ?! なんて素敵なの、ジュリー!」
 男爵夫人はジュリーの手にある青バラと白バラの花束を指さした。


「……」
 まさに『奇跡』だわ!






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