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15話 王都にて…2 エドガーside

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  王太子マクシミリアンは王妃(王太子の実母)に不意を突かれ、側妃候補の令嬢たちとお茶会をセッティングされた。
 直前でそれに気づいたマクシミリアンは急用ができたと理由をつけて、お茶会には参加しないで逃げ出して来たらしい。

 国王は近いうちに『王位を王太子に譲位じょういする!』と宣言をしている。   
 マクシミリアンが王位についた時に合わせ、現王妃と重臣たちは側妃を選抜しめとらせようとしているのだ。


「いやぁ~ 本当に恐ろしかった! 久しぶりに母上からお茶に誘われて王妃宮に行ってみると、令嬢たちがずらりと並んでいて… 男は私だけだった」
 王妃の側近たちに追われ、振り切るためにエドガーの執務室に隠れようとマクシミリアンはコソコソと室内の様子をうかがっていて…
 ついでにエドガーと同僚ブリュノの話を、盗み聞いたのだ。

「ああ… それは間違いなくお見合いですね。 お気の毒に」
 妃殿下と結婚されて5年が過ぎても生まれたお子様が王女様1人では… まわりの者たちが心配するのも無理はない。
 だが、忙しい公務のせいで妃殿下は2度も流産しているから。 けしてこの先、望みが無い訳ではないのに。

「そうなんだ、エドガー。 あんなに恐ろしい光景は10年ぶりだよ」
 10年前に妃殿下とマクシミリアンは初めて対面した。
 政略結婚だったが王太子夫妻は誰が見ても相思相愛だ。
 だからこそマクシミリアンは側妃を受け入れたくないのだろう。

「マクシミリアン殿下… そんなにお嫌なら私に紹介して下さいよ」

「そうかブリュノ! 今すぐ王妃宮のお茶会にお前が参加しろ。 私の代理で行ってこい」
 ブリュノがうらやましそうに願いを口にだすと、王太子は軽いのりで命令した。
 もちろん2人は冗談を言い合っているのだ。


 エドガーは2人に同情しつつ苦笑した。

「おやおや……」
 わたしの周囲はみんな後継者問題で悩んでいるのだな。 私も本当ならとっくに妻をめとり、子供の1人か2人はいてもおかしくないのだが……

 エドガーが王太子の側近となったばかりの頃、ファゼリー伯爵家の金庫に保管してあった書類の情報が流出する事件があった。

『申し訳ございません、エドガー様! 執務室の清掃を担当していた者が金庫の場所をさがし出し、外部の人間をまねき入れたようです』

『外部の人間を招き入れただと?!』
 執事の話にエドガーは驚愕きょうがくした。
 
 調査してみると王太子マクシミリアンの政敵であり、腹違いの兄の第1王子(側妃が生母)派が送ったスパイが、伯爵邸の使用人の中にまぎれ込んでいたのだ。

 安全だと思っていた自宅に敵がいたと知り、エドガーはその時、心底ゾッ… とした。
 …そしてエドガーはそういう恐ろしい世界へ自分は足をみ入れたのだと、初めて自覚したのだ。

「……」
 あの時の私はまだ若く未熟だった。
 だから学園で知り合い付き合っていた令嬢と婚約寸前まで話が進んでいたが… 妻を危険にさらすのではないかと結婚することが怖くなり、すべて白紙に戻して彼女と別れた。

 だが、今なら……?


 エドガーが今まで独身を通していたのは… ジョナサンが言うようにエドガーに言い寄るたくさんの令嬢たちに目移りしていたからではない。




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