上 下
56 / 59

55話 平穏な日々

しおりを挟む

 嵐のような夜会から数日後。

 ミレイユのファーロウ家、クレマンのオルドリッジ子爵家、そしてジョゼフのアルブライトン公爵家の3家が集まり話しあった。
 そこで… 『醜聞しゅうぶんになることだけは、けたい』と、それぞれの意見が一致いっちする。


「我がアルブライトン公爵家は、ミレイユ嬢に慰謝料を支払い、ジョゼフ本人は学園を即日そくじつ退学させ、公爵家の遠縁にあたる、西方の田舎に領地を持つ男爵家へ婿養子むこようしに出すと約束しよう」

 さすがに大きな権力を持つ、4大公爵家でも… 王家からも信頼される王立騎士団の騎士団長が、つけ込むすきの無い証拠をそろえて出したため、簡単ににぎりつぶすことも出来ず、アルブライトン公爵は迷わず息子のジョゼフを切りすてた。

 ミレイユの父も、クレマンの父も… 今後、ジョゼフが2人に関わることがないようにと、条件をつけ同意する。


 こうしてすみやかに、ミレイユを暴行し醜聞しゅうぶんおとしいれようとした、ジョゼフの処分が決まったが……
 ミレイユはジョゼフに襲われた時に負った心の傷が原因で、ファーロウ家から外へ出ることを、怖がるようになっていた。

 それでもクレマンがむかえに来るため… ミレイユは不安を感じながらも毎朝、クレマンに手を引かれオルドリッジ子爵家の馬車に乗り込む。 


「今朝もミレイユは可愛くて綺麗だね!」
 馬車の中でもクレマンはミレイユの手を離さず… ずっとにぎったまま、手の甲に何度もキスを落とす。
 そして満面の笑みを浮かべて、甘い言葉でミレイユを誘惑するのだ。

「////////っ?!」
「朝からミレイユに会えて、今日も何か良いことがありそうだな~?」

「もう、クレマンやめてぇ…! 恥ずかしいわっ……!」
 クレマンの手の中にある手はそのままにして… ミレイユはもう片方の手で、照れて熱くなった顔を、パタパタとあおぐ。

「でも、仕方ないよね? 僕はミレイユが好きだから、どれだけ我慢しても、結局最後には可愛いと言ってしまうんだから?」
 嬉しそうに微笑みながら、クレマンは長い睫毛まつげせて… またミレイユの手にそっとキスを落とす。

 夜会で2人が喧嘩けんか騒ぎに巻き込まれてから、クレマンは増々変わった。

「あなた、本当に変わったわね?! 困るわクレマン……?」
 クレマンはこんなに情熱的な人だったかしら?! 以前は穏やかな春の日差しのような人だったのに…?! これでは真夏の太陽だわ!! 顔からとけてしまいそう?! こんなに熱い愛情表現をクレマンがするから… 本当に私ったら、照れてしまうし…?! でも、そんなクレマンもちょっと良いなぁ~? と… 思っていたり… するけど? やっぱり恥ずかしい~…?!

「確かに僕は変わったかなぁ? 前よりもずっと、ミレイユが好きになってる自覚があるし…… でもそこはミレイユに、慣れてもらわないとね?」
 ミレイユの心の内がわかっているのか、クレマンはニヤニヤと笑う。

「もう! 誰かに見られたら… 醜聞になってしまうわ?!」
「大丈夫だよ…? だって僕は紳士らしく、キスをするのは君の手だけだしね?」

「もう、クレマン… あきれたわ?!」
 ケロリと言ってのけるクレマンに、思わずミレイユもつられて笑ってしまう。 

「それよりもミレイユ… もうすぐ学園に着くよ?」

「ああ、ええ……」
 ミレイユは笑うのを止めて、クレマンの胸にしがみついた。
 クレマンは長い腕でギュッ… とミレイユを抱きしめる。
 
「ネリーや友だちのそばから、離れてはだめだよ? ミレイユ、絶対に1人にならないで!」
「うん、わかっているわクレマン…」

「お昼になったら、女子の学舎がくしゃまでむかえに行くから…? 僕が行くまで待っていて!」
 ミレイユの耳元でクレマンがささやいた。

「大丈夫よクレマン、今日のお昼は食堂で待っていて…?! ネリーや他のお友だちと一緒に、あなたの元へ行くから… そんなに私を過保護かほごにしないで?」
 あの夜会からクレマンは… お父様やルドヴィクお兄様よりも、私を過保護にあつかうようになった。

「本当に大丈夫?」

「あなたがこうして、私を不安から守ろうとしてくれるから… 大丈夫よ? それに私は、いつまでも怖がっているような弱虫ではないわ?」
 本当はまだ、昼間の学園でも襲われるのではないかと、恐怖でいっぱいになる時があるけれど… でもクレマンに心配されると、いつまでも弱々しい私を、見せたくないと思うの。

「クレマン、あんなことに、負けてはいられないわ?!」
 私も強くならないと!! 

「そうだね、ミレイユ!」


 夜会の夜以来、毎朝の日課となった抱擁ほうようを解くと… ちょうど馬車は学園の正門前で止まった。
 2人は順番に馬車から下りて一緒に学舎がくしゃへと向かう。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

処理中です...