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55話 平穏な日々
しおりを挟む嵐のような夜会から数日後。
ミレイユのファーロウ家、クレマンのオルドリッジ子爵家、そしてジョゼフのアルブライトン公爵家の3家が集まり話しあった。
そこで… 『醜聞になることだけは、避けたい』と、それぞれの意見が一致する。
「我がアルブライトン公爵家は、ミレイユ嬢に慰謝料を支払い、ジョゼフ本人は学園を即日退学させ、公爵家の遠縁にあたる、西方の田舎に領地を持つ男爵家へ婿養子に出すと約束しよう」
さすがに大きな権力を持つ、4大公爵家でも… 王家からも信頼される王立騎士団の騎士団長が、つけ込む隙の無い証拠をそろえて出したため、簡単ににぎりつぶすことも出来ず、アルブライトン公爵は迷わず息子のジョゼフを切りすてた。
ミレイユの父も、クレマンの父も… 今後、ジョゼフが2人に関わることがないようにと、条件をつけ同意する。
こうして速やかに、ミレイユを暴行し醜聞で陥れようとした、ジョゼフの処分が決まったが……
ミレイユはジョゼフに襲われた時に負った心の傷が原因で、ファーロウ家から外へ出ることを、怖がるようになっていた。
それでもクレマンがむかえに来るため… ミレイユは不安を感じながらも毎朝、クレマンに手を引かれオルドリッジ子爵家の馬車に乗り込む。
「今朝もミレイユは可愛くて綺麗だね!」
馬車の中でもクレマンはミレイユの手を離さず… ずっとにぎったまま、手の甲に何度もキスを落とす。
そして満面の笑みを浮かべて、甘い言葉でミレイユを誘惑するのだ。
「////////っ?!」
「朝からミレイユに会えて、今日も何か良いことがありそうだな~?」
「もう、クレマンやめてぇ…! 恥ずかしいわっ……!」
クレマンの手の中にある手はそのままにして… ミレイユはもう片方の手で、照れて熱くなった顔を、パタパタとあおぐ。
「でも、仕方ないよね? 僕はミレイユが好きだから、どれだけ我慢しても、結局最後には可愛いと言ってしまうんだから?」
嬉しそうに微笑みながら、クレマンは長い睫毛を伏せて… またミレイユの手にそっとキスを落とす。
夜会で2人が喧嘩騒ぎに巻き込まれてから、クレマンは増々変わった。
「あなた、本当に変わったわね?! 困るわクレマン……?」
クレマンはこんなに情熱的な人だったかしら?! 以前は穏やかな春の日差しのような人だったのに…?! これでは真夏の太陽だわ!! 顔からとけてしまいそう?! こんなに熱い愛情表現をクレマンがするから… 本当に私ったら、照れてしまうし…?! でも、そんなクレマンもちょっと良いなぁ~? と… 思っていたり… するけど? やっぱり恥ずかしい~…?!
「確かに僕は変わったかなぁ? 前よりもずっと、ミレイユが好きになってる自覚があるし…… でもそこはミレイユに、慣れてもらわないとね?」
ミレイユの心の内がわかっているのか、クレマンはニヤニヤと笑う。
「もう! 誰かに見られたら… 醜聞になってしまうわ?!」
「大丈夫だよ…? だって僕は紳士らしく、キスをするのは君の手だけだしね?」
「もう、クレマン… あきれたわ?!」
ケロリと言ってのけるクレマンに、思わずミレイユもつられて笑ってしまう。
「それよりもミレイユ… もうすぐ学園に着くよ?」
「ああ、ええ……」
ミレイユは笑うのを止めて、クレマンの胸にしがみついた。
クレマンは長い腕でギュッ… とミレイユを抱きしめる。
「ネリーや友だちのそばから、離れてはだめだよ? ミレイユ、絶対に1人にならないで!」
「うん、わかっているわクレマン…」
「お昼になったら、女子の学舎までむかえに行くから…? 僕が行くまで待っていて!」
ミレイユの耳元でクレマンが囁いた。
「大丈夫よクレマン、今日のお昼は食堂で待っていて…?! ネリーや他のお友だちと一緒に、あなたの元へ行くから… そんなに私を過保護にしないで?」
あの夜会からクレマンは… お父様やルドヴィクお兄様よりも、私を過保護にあつかうようになった。
「本当に大丈夫?」
「あなたがこうして、私を不安から守ろうとしてくれるから… 大丈夫よ? それに私は、いつまでも怖がっているような弱虫ではないわ?」
本当はまだ、昼間の学園でも襲われるのではないかと、恐怖でいっぱいになる時があるけれど… でもクレマンに心配されると、いつまでも弱々しい私を、見せたくないと思うの。
「クレマン、あんなことに、負けてはいられないわ?!」
私も強くならないと!!
「そうだね、ミレイユ!」
夜会の夜以来、毎朝の日課となった抱擁を解くと… ちょうど馬車は学園の正門前で止まった。
2人は順番に馬車から下りて一緒に学舎へと向かう。
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