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43話 陰口2
しおりを挟むいつもの仲の良い4人で、昼食の時間を楽しんでいると… 近くのテーブルから、悪意の籠った言葉を投げつけられた。
「クレマンの奴… ファーロウ家の娘に媚びを売ってやがる! 情けなくて見ていられないな?!」
ミレイユはハッ… と息をのみ、隣に座るネリーの顔を見ると… ネリーもミレイユを見た。
「……っ?」
「……?!」
すぐに悪態をついた主が誰か… 確かめようとするほど、女子2人はずぶとくなかったため、動きを止めて身体を強張らせる。
だがクレマンとドミニクは、サンドイッチを食べるのをやめて、顔をあげると声の主を見つけてにらみつけた。
「ジョゼフ! 婚約者のミレイユを、僕が心から尊敬しているから出た、正直な言葉を… 君の歪んだ醜い価値観で曲げないでくれるか?」
とても丁寧だが、クレマンはとても失礼な内容でアルブライトン公爵家の次男、ジョゼフに抗議した。
ジョゼフは鼻で笑い、クレマンに言い返す。
「歪んでいるのはお前の方だ、クレマン! 最近は講義室の幽霊みたいな奴と、一緒にいるかと思えば… 今度は、男の真似をする生意気な婚約者をほめて媚びを売って! そんなんで惨めにならないのか?!」
「ジョゼフの言う通りだ、クレマン!」
「ああ、本当に見ているこっちが、恥かしくなってくる!」
同じテーブルに着く、ジョゼフの友人2人が嘲り笑いながら… ドミニクを見て、順番にミレイユとネリーを見た。
「な… なんて、嫌な人たちなの…っ?!」
隣から、ネリーの怒りに耐えかねてもれた声が聞こえ…
ミレイユも黙っていられなくなり、ななめ後ろの席に座るジョゼフたち3人を、クレマンと同じようにキッ…! とにらみつけた。
「私たちの話を盗み聞きするような、不作法な人たちの方が、ずっと情けなくて惨めに見えるわ?!」
ドミニクが家庭の事情を打ち明けてくれたから… 私たちは価値のある、素晴らしい話をしていたのに?! なぜ、関係ない人達が邪魔をするの?!
今までのミレイユなら、黙りこんで怯えていたところだったが… ジョゼフの暴言に腹をたて、しっかりと言い返した。
ミレイユは学園長の指導を受けながら、男子学園生たちと同じ科目を学び、何度かクレマンと議論を戦わせてみたりしている。
そんな毎日をすごすうちに、以前のミレイユには無かった、自信と強さが自然と芽生えて来たのだ。
「なんだと、こいつ… 生意気な…っ?!」
薄ら笑いを浮かべていたジョゼフは… ミレイユに盗み聞きしたと指摘され、顔を赤くして怒り出す。
「紳士なら… 私たちの話がたまたま聞こえても、黙って聞かないようにするはずなのに…?!」
この人は盗み聞いたうえに、私たちの話に勝手に割り込んで… 本当に失礼だわ?! 何がしたくて、こんな嫌がらせをするのかしら?!
「この…っ!!」
ジョゼフがガタッ…! と椅子を蹴倒しながら、立ちあがる。
クレマンも勢いよく立ちあがると、自分の席を離れてミレイユとネリーを隠すように、ジョゼフの前に立つ。
「ジョゼフ! 君は東方の国の有名な教訓で、“やぶ蛇”…という言葉を知らないのか?!」
(やぶ蛇→余計な手出しをして、かえって災いを招くこと)
すらりと高い身長をいかして、クレマンは頭半分背が低いジョゼフを威嚇するように見下ろした。
「な… なんだと?! 何が言いたいんだ、クレマン!」
クレマンを見あげることに屈辱を感じているのか、ジョゼフの手が震えていた。
「ああ… クレマン、もしかしてあの話を確かめたのか?!」
それまで黙っていた、ドミニクがのんびりと口をはさんだ
「うん…! ジョゼフが誰かに課題図書を読むのを任せて、かわりに論文まで書かせたという話だ!」
クレマンはニヤリッ… と笑って、ジョゼフを見た。
近隣国との外交問題について書かれた本に、東方の国の『藪をつついて蛇をだす』という教訓を使って、いくつかの問題を説明した章があるのだ。
その課題図書をジョゼフも読んでいれば、すぐに意味を理解できたはずだった。
「そこにいるジョゼフは、そうやって自分で課題をやらずに人にやらせて、不正をしたせいで、学園側から論文の評価を拒否されたらしいよ?」
ドミニクはモグモグと再びサンドイッチを食べながら、ミレイユとネリーに暴露した。
「あら、あら、あら、あら…!」
「恥ずかしい?!」
ミレイユとネリーは2人そろって、ジョゼフを軽蔑の眼差しで見つめた。
「クソッ…!」
ジョゼフは逃げ出すように、あわてて食堂を去った。
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