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42話 陰口
しおりを挟む両親の許可をもらい、ミレイユも週に数冊ずつ課題図書を読み論文を学園長に評価してもらうようになると… そばで見ていた友人のネリーまで、自分もやると言い出した。
「だって…! ミレイユもクレマンやドミニクのように勉強を始めてしまったから、私だけが仲間外れになってしまうでしょう?」
ミレイユが父と兄、クレマンに感じていた気持ちに近い感情をネリーも持ったようだ。
「ごめんなさい、ネリー! 私… そこまで、考えていなかったわ?!」
「もう… 謝らないで、ミレイユ…! あなたは悪いことをしているわけではないのだから… ね? でも最初に相談してくれたら、一緒に始められたのに? 寂しかったわ?!」
ネリーはほんの少し、拗ねている。
「ああ… そうね、ネリー! 今度から気をつけるわ!」
正直にいうと… クレマンやドミニクのように、学園に入学した年から、『領地運営』を学んでいるわけではないから、1人で始めるのは不安があったけれど… ネリーが一緒なら心強いわ!
ミレイユは苦笑しながらも、ネリーが親友で良かったとあらためて思う。
「でもミレイユ、私が一緒にお勉強を始めることは… 私の両親には秘密にしたいの!」
ネリーの両親も、ミレイユの母親と同じように女の子が勉強にのめり込むことを、良いと思わない考えかたをする人たちなのだ。
「ええ、わかったわ! ネリーのお部屋に遊びに行った時、気を付ければ良いのよね?」
「ふふふっ…」
食堂のはしにあるテーブルについて、昼食をとりながらミレイユとネリーがそんな話を、ヒソヒソとしていると…
「それって… 僕たち男子が、聞こえないフリをした方が良い話?」
向かいがわに座るクレマンとドミニクの耳に、ミレイユとネリーのヒソヒソ話が届いたらしく声をかけてきた。
「ええ… 大丈夫よ、クレマン」
ネリーは自分の両親が、娘にあまり勉強をさせたがらないことを、クレマンとドミニクに説明する。
「ふ~ん…? 僕は妹たちがミレイユやネリーのように、たくさん学んでくれたら、大歓迎だけどね? 『領地運営』 なら、特に学んでほしい科目だよ?! 基礎だけとは言わず、応用編まで是非とも学んで欲しいぐらいさ!」
ドミニクはサンドイッチをモリモリと食べながら話す。
「それはどうして?」
ドミニクが何やら力説するのが不思議で、サンドイッチを食べる手を止めて、ミレイユはたずねた。
「うちは、父上がケガで動けなくなってからは、母上がずっと領地の面倒を見て来たから… 今は兄上もやっているけどね」
貧乏な男爵家次男のドミニクは、ケロリと言った。
「まぁ…」
ドミニクのお母様は、お父様の代わりに頑張っているのね?! だからドミニクは、妹さんたちがお嫁入りする時の持参金のことまで考えて…? 同じ年なのに、本当に立派だわドミニクは!
ミレイユの脳裏にクレマンに紹介されて、初めてドミニクと出会った時のことが浮かぶ。
『僕は貧乏な男爵家の次男だし、それに妹たちの持参金の問題もあって… 学園を卒業したら、僕は実家を頼れないから』
プライベートな話は、貴族の礼儀でドミニク自身が話すまでは、あえて聞かなかった3人の友人たちは… ドミニクの家、メリダン男爵家の事情を初めて知った。
プライドの高い貴族たちに、バカにされかねない家庭の事情を、話したということは… ドミニクも3人なら信用できると判断したのだ。
「そうか… そうだよな?! どこの貴族でも、災難がいつふりかかるかわからないし… ミレイユとネリーのように女性が準備しておくのも、良いことだよな?!」
クレマンもモリモリとサンドイッチを食べながら、ドミニクを尊敬の眼差しで見つめ大きくうなずく。
4人が仲良く論文の書き方について、話し合っていると…
近くのテーブルにいた誰かが、チッ…! と忌々しそうに舌を鳴らした。
「クレマンの奴… ファーロウ家の娘に媚びを売ってやがる! 情けなくて見ていられないな?!」
舌を鳴らした不躾な誰かは、わざと周囲に聞こえるように大きな声で陰口をたたく。
「?!」
舌を鳴らした誰かの陰口がミレイユの耳に入り、ハッ… と息をのむ。
向かいがわに座るクレマンや、ドミニクにも聞こえたらしく、サンドイッチを食べるのをやめて、2人はパッ… と顔を上げた。
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