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35話 物思う
しおりを挟むミレイユをむかえに来たクレマンは馬車に2人で乗り込んだとたん…
「失礼!」
…と言いながら、大きなあくびをした。
クレマンの顔をよく見ると、目が赤く充血して寝不足なのが、ミレイユにも一目でわかった。
「眠そうね、クレマン…?」
「ああ… うん、昨夜はおそくまで本を読んでいたから」
「そうなの…?」
「はははっ…! 最初の1冊めの課題だから、はり切りすぎたよ… 目がショボショボする… 気をつけないと!」
目をパチパチと、まばたきをくり返しながらクレマンは、カラカラと笑った。
「……」
クレマンも… お父様やルドヴィクお兄様のように、高い知性を身につけてしまうの? 別の世界を見ているような… 私には理解し難い男性に、あなたも変わってしまうの?!
心から尊敬し愛してはいるけど、密かに兄ルドヴィクと父に、劣等感を持っているミレイユとしては、複雑な気分だった。
そんな気持ちを… 以前、母親に相談したら…
『ルドヴィクお兄様とお父様はズルイわ?! 私だけ意味が分からない話をして… また、楽しそうにしているもの!』
『ミレイユは女の子だから、殿方のお話がわからなくても良いのよ?』
母にそう言いふくめられ、ミレイユはずっと不満だった。
「……っ」
私が結婚する男性は、お父様やルドヴィクお兄様のような人ではなくて… もっと気持ちがわかり合える人が、良いと思っていたわ。
だから、出会ってからすぐに、気持ちがわかり合えたクレマンは… 私にとって理想の男性だと、思っていたのに……?
向かいがわで馬車にゆられながら、小さな子供のように、眠そうに目をこするクレマンに… ミレイユは『私が選んだ男性は完璧だったはずなのに?』と苦笑する。
「今、ちょうど講義を受けている内容の本だったから… 読むのは意外と面白かったよ…? 読み始めたら、止まらなくなってしまって……」
馬車にゆられ眠気に襲われたクレマンは、ミレイユの前で口を手のひらでおさえ、何度もあくびを我慢していた。
「あまり、無理はしないでね?」
文官の試験を受けるために自分を高めて、私との婚約を維持しようと努力するクレマンに… 今のままでいて欲しいと思うのは、傲慢だとわかっているけれど… でも… やっぱり、複雑だわ…?
「心配してくれて、ありがとう… ミレイユ!」
「うん…」
それとも…? クレマンは成長しようと頑張っているのだから… 私もクレマンに置いて行かれないように… 変わらなければ、いけないのかしら?
今にも眠ってしまいそうな、クレマンを見つめながら… ミレイユは考えこんだ。
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