上 下
29 / 59

28話 クレマンの友人2

しおりを挟む


 学園の敷地しきちにはいり、女子学園生が講義を受ける、学舎がくしゃ近くまで来ると… ミレイユは話がしたくて、人の気配がない学舎のわきへ、クレマンをつれて行く。


「ねぇ… さっきはお友だちに、なぜあんな態度をとったの?」
「ギヨームのことだね?」

「ええ… いつものクレマンなら、あんなにとげのある言いかたは、しないでしょう?」
 たぶん… 私を守るために、クレマンはギヨームにあんな言いかたを、したのだと思うけれど…? クレマンは後で、困らないかしら?!

「今まで僕は… 広く浅く、どんな相手にも好かれるように、公平に付き合うのが、1番平和でいられる方法だと、思っていたんだ」

「……」
 確かにそんな感じだったわ? クレマンは誰にでも優しくて、親切で… あまり怒ったことが無くて… 私はそんな、春の日差ひざしのような、クレマンのおだやかさを好きになったから。

「でも、ギヨームが『僕とパトリシアが浮気をしている』と、勝手に思いこみ、間違ったうわさを流していると、他の友人に警告されたんだ!」
 悔しそうな表情で、クレマンはきすてるように語った。
 ミレイユもまさかの話に、ハッ… と息をのむ。

「…あの人が…っ?!」

「あいつはそうやって、人のことを面白おかしく大きくして話す、悪いくせがあるやつなんだ! だから僕は浮気はしていないと、その時ギヨームに、はっきりと否定したし… 実際にギヨームがうわさを流すところを、見たわけではないし… 半信半疑はんしんはんぎだった」

「……」
 クレマンの話が本当なら… 私が感じていたみじめさは、あのギヨームという人が、最初に引き起こしたことになるわ?!

「僕もまさか本当に、そんなことをされるとは思わなかったから… でもさっきのギヨームの態度で、確信したよ! あいつは本当に、僕とパトリシアの間違ったうわさを、流したやつだと!」

「なぜ、そう思ったの?!」
 ミレイユは思わず、クレマンの手をギュッ… とにぎりしめた。

「パトリシアが頻繁ひんぱんに僕をたずねて、男子学園生が講義を受ける、学舎がくしゃのほうに来ていた時… ギヨームは何かとパトリシアに、話しかけていたんだ…」
 女子学園生に友人のいないパトリシアは、容姿の良さから男子学園生には人気があり、好んでクレマンの友人たちとも話をしていた。

「2人は知りあいだったの?」

「いや… 彼女が僕をたずねて来た時に、紹介した… だから僕は『ギヨームも美人のパトリシアにれたのか?』 なんて、のんきに考えていたんだ」
 どちらにしても、パトリシアは元婚約者の子を妊娠していたから、クレマンはギヨームの行動が、後で困ったことになるとは思いもしなかった。

「パトリシアが本当に好きなら… ギヨームはもっと、パトリシアのことを心配するはずだわ…?」
 ああ… 嫌だ! ゾッ… とするわ?! そんな人が、こんなに近くにいたなんて……

「うん… 僕もさっきそれに気づいて… ギヨームは今回の醜聞しゅうぶんさわぎ事態を、楽しんでいるように見えたよね?!」
 クレマンは他の友人にされた警告が、真実だとわかった。

「それで、あの人を追い払ったのね?」

「うん… これ以上、あのクズ野郎の視界にミレイユを、さらしたくなかったから…! また、変なうわさを流されたら、僕は…」
 ギュッ… とこぶしをにぎり、クレマンは怒りをあらわにする。

 クレマンの中で、すでにギヨームは友人ではない。
 他人をおとしめて楽しむような… そんな思考の持ち主を友人にしていた自分のおろかさが、クレマンは辛かった。

「あんなやつとまで、友好的に付き合おうとしていた自分が、なさけないよ!」
 クズ野郎には… クズ野郎に相応ふさわしい対応をしなくては、他の善良ぜんりょうな友人たちに対して不公平だと、クレマンは考えをあらため、気持ちを引き締めた。

「それにしても… 怖いわね?」
「うん… だから、なるべく君と一緒にいたいんだ!」
「わかったわ…」

「……」
 クレマンはホッ… とため息をつき笑った。

 ミレイユもクレマンの笑みにつられて、微笑む。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...