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10話 誤解 クレマンside

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 クレマンとミレイユの、険悪なやり取りを見ていたパトリシアが… いきなりかん高い声でさけぶように、2人の会話に割って入った。


「クレマン! 優しいあなたに、こんな薄情な人は… 相応ふさわしくないわ!」

「パトリシア…?」
 はぁ?! 急に何を言い出すんだ、パトリシアは?! 

 自分にしがみつくパトリシアを、クレマンはまゆをひそめて見下ろした。

「だってそうでしょう? さっきからミレイユさんは、ずっとあなたをめてばかりだもの?! 婚約者なのに… あなたのことを、愛してないのよ?!」

「パトリシア?!」
 ミレイユが僕を責めるのは… ミレイユが僕を愛しているから、言っているのに決まっているじゃないか?! 愛してなければ、物静かな性格のミレイユが、こんなに感情的になったりしないさ!!
 ああ、パトリシア! お願いだから… これ以上、ミレイユを刺激するようなことは、止めてくれ!

 しがみついて来るパトリシアの両肩をつかんで、クレマンは自分から引き離す。 

「私の方が、ずっとクレマンを愛しているわ! だって、子供の頃からずっと好きだったから!!」
 ぽろぽろと大粒おおつぶの涙をこぼしながら、パトリシアはうったえる。

「だから… それは…っ! 今ここでする話ではないだろう?!」
 その話は、僕とミレイユが婚約した時に、妹としか思えないからと… ハッキリ断っただろう?!
 あの後、すぐにパトリシアの婚約が決まって、僕はホッ… としていたのに。
 結局、婚約破棄になって… 僕は責任を感じてしまい、パトリシアを突き放せずにいたけれど……
 
 クレマンは最初から、パトリシアの気持ちを知っていたのだ。

 
 パトリシアとクレマンの会話を聞いていたミレイユが、ハッ… と息をのむ。
 ミレイユは自分の唇に手をあて、クレマンに疑いの目を向けて来た。

 パトリシアにイライラして、不用意にいた自分の言葉が… ミレイユの疑いを誘ってしまったことに、クレマンは気づく。

「待ってくれ! 違う、ミレイユ! 僕たちはけしてやましい関係ではないから!!」
 パトリシアが僕を好きだと知っていて… 僕が婚約者のミレイユよりも、パトリシアを優先していたのだから…! 
 ミレイユが、僕の浮気を疑うのは無理もないけれど… でも違うんだ! 本当に僕は、何もやましいことはしていない!! 

「もう… 止めて、クレマン! 今は何も聞きたくないわ!」
 ミレイユの大きな瞳に涙が浮かぶ。

「待ってくれ、ミレイユ…っ」
 ああ、クソッ…!! ミレイユを泣かせてしまった! どう説明すれば… 良いんだ?!

「クレマンと別れて下さいミレイユさん! 愛しあう私たちを引きこうとしているのは、あなたの方です!」
 ミレイユに婚約解消をせまるパトリシア。

「パ… パトリシア!」
 クレマン自身も激しく動揺し、あせっている時に… かん高い声で従妹パトリシアが、またも口を出して、混乱を大きくした。


「好きにすれば良いわ!!」
 ミレイユはクレマンの顔を2度と見ること無く、その場を走りる。

「あっ! 待ってくれ、ミレイユ―――ッ!!」
「嫌よ! 行かないで、クレマン!」

「放してくれ、パトリシア!!」
 あわててクレマンは、ミレイユの後を追おうとするが… パトリシアがギュッ… と服をつかみ、しがみついて来る。 

「愛しているの!! ずっと昔から愛していたわ!! あんな人を追わないで、お願いクレマン!!」

「パトリシア、放せ―――っ!! クソッ…!」 
 パトリシアにしがみつかれて、クレマンはミレイユを追うことが出来なかった。
 

 泣きじゃくるパトリシアを馬車に押し込み、家に帰すと… あわててクレマンはミレイユに会って誤解を解こうと、ファーロウ家へゆくが、ミレイユは体調をくずしてしまったため、会わせてもらえなかった。




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