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6話 パトリシア

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 家からむかえに来た馬車に乗るため、正門に向かうとちゅうで… ミレイユの隣を歩いていたクレマンは、突然あらわれたパトリシアに、呼び止められた。


「クレマン、ひどいわ…!! 私を1人ぼっちにするなんて!」
 かしの木のかげに立っていたパトリシアが、飛びだしてきて… ミレイユの隣にいたクレマンにかけ寄る。

「キャッ…!」
 パトリシアに、ドンッ…! と肩にぶつかられた小柄こがらなミレイユは、数歩ぶんはじき飛ばされた。

 そのすきにパトリシアは、クレマンにガッチリとしがみつく。

「パトリシア…?! 先に帰ったんじゃなかったのか?! どうしてここに、いるんだ?!」
「クレマンがいないから… 私… とても不安になって… 1人で帰れなかったの…!」
「ああ、ごめんよ… 少しだけミレイユと、話をしていたんだよ!」

「あなたまで、私を裏切ってどこかへ行ってしまったかと思ったわ?!」
 泣きながらパトリシアはクレマンにうったえた。

「……っ!」
 いったい… 今のは何なの?! 信じられない!

 パトリシアに体当たりされて、痛む肩を押さえながら、ミレイユは言葉を失い唖然あぜんとしてしまう。

「バカだね、パトリシア! 僕がそんな薄情なことを、するわけがないだろう?」
 クレマンは従妹の背中をトンッ… トンッ… とたたき、優しい声でなだめる。
 肩を痛めたミレイユのことなど、クレマンは気にする素振そぶりも見せない。

「そうね、私ったら… ごめんなさい、クレマン!」
 まるでキスをねだるように、クレマンの胸の中で顔をあげたパトリシアは… 驚愕きょうがくして呆然ぼうぜんと立ちつくすミレイユを、チラッ… と見て、ニヤリと笑う。

「……っ?!」
 あっ! この…!! わざとやってる?! 私にぶつかったのも… それにきっと、私とクレマンの話も、どこかに隠れて聞いていたんだわ?! ああ… ダメだわ! やっぱり私は、パトリシアとは友だちにはなれないわ!!

 カッ… と腹をたて、ミレイユの顔が怒りで赤くなる。

「さぁ… パトリシア、涙をふかないと… 綺麗な顔がだいなしだよ?」
 自分の婚約者がどんな気持ちでいるかなど、少しも気付かずクレマンは、従妹の世話をやく。

「嫌よ、クレマン! 私を離さないでぇ!」
「困っただね…?」

「だって… あなたがいなくて寂しかったから…!」
 クレマンはパトリシアから、身体を離そうとするが… パトリシアはぐいぐいと、豊満ほうまんな胸をクレマンに押し付けてしがみつく。


 目の前で婚約者を奪われ、奪った相手を、婚約者が甘やかして可愛がる。
 そんな、胸がムカムカとして、気分が悪くなりそうな光景を見せつけられ… ミレイユは悔しくてギリギリと歯ぎしりをした。





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