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4話 優先する理由

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 学園生たちが滅多めったにこない、裏庭のはしまでくると… ミレイユは先に口を開いた。

「クレマン… あなたはなぜ、私との約束をやぶってまで、従妹のパトリシアばかりを優先するの?!」
 今まで私は、婚約者のプライドがあったから… 私からは何も聞かずに、クレマンが説明してくれるのを待っていたけれど… これ以上は我慢できないわ!

 冷ややかな態度でクレマンに、自分がどれだけ怒っているかを、ミレイユは伝えた。

「ミレイユ… 実はその話を僕もしたかったんだよ」
「それで理由は?」

「うん…」
 クレマンは言いよどみ、もじもじとする

「クレマン、理由は?」
 急に口が重くなったクレマンから、何がなんでも聞きだす気で、ミレイユは強い口調でたずねた。

「実は… パトリシアが、婚約者に浮気をされてね… 婚約破棄したんだよ… 黙っていてごめん、ミレイユ! 醜聞しゅうぶんになる話だから、パトリシア本人が良いと言うまで、君にも話すのをひかえていたんだ」

「婚約破棄?!」
 それならもっと… 学園中でその話が広がっても、おかしくないのに…? 誰も知らないのは、なぜ?!

 ミレイユはうたがいの目をクレマンに向けると… あわててクレマンはくわしく説明する。

「今はまだ… 正式に発表していないけど… でも、そのうちみんなに知られてしまうだろうね」 

「それでなぜ、私の約束をやぶっても良い、理由になるの?!」
 ずっと我慢して、腹をたてていたミレイユは、わざとクレマンに意地悪いじわるな言いかたをした。

「だから… パトリシアはもともと僕の妹みたいな存在だし、彼女は婚約破棄を経験してから、体調をくずしてしまって… 心がすごく不安定なんだ! 身内の僕がそばにいないといけなくて…」

「それはお医者様のお仕事でしょう?」
 いくらパトリシアが従妹でも、未婚の男性をそばに置く理由にはならないわ?! だって、そのせいで嫌なうわさが学園内で、流れてしまっているもの…! 婚約破棄をしたばかりなら、パトリシアはそういう種類のうわさ話に、気をつけなければ、いけない時だもの…?!

「もちろん、そうだけど… 学園では誰もパトリシアを気づかえないからさぁ…?」
 困った顔でクレマンは、ポリポリと指で頭をかく。 
 ムッ… と眉間みけんにしわを寄せ、ミレイユは高慢こうまんな態度で、腕組みをした。

「彼女にも、友だちぐらいいるでしょう? どうせ婚約破棄のことを知られるなら、同じ女性のお友だちに、協力してもらった方が良いはずだわ?!」
 1歳年下のパトリシアとは、ほとんど接点せってんがなく… 同じ学園の女性でもパトリシアのことは、ミレイユもあまり知らないのだ。

「そ… それが… パトリシアには、あまり友だちがいなくて… それで、僕は彼女のご両親に頼まれてしまって…」
 難しい顔をしてクレマンは下を向き、ミレイユの視線から逃げようとする。

「……」
 ああ… パトリシアに友だちがいないのは、わかる気がするわ…? 婚約する前、クレマンに紹介されて、1度だけ話したことがあるけれど…


『あなたがミレイユ? クレマンの隣にいると、恥かしくならない?』
 値踏ねぶみするように、ミレイユの華奢きゃしゃ小柄こがらな身体や、人形のように繊細せんさいで小さな顔をジロジロと見た後…
 従妹のパトリシアはあきれた顔で嘲笑あざわらった。

『恥ずかしい?! 何のこと?』

『だって、あなたったら… に可愛いもの?』
 パトリシアは豊満ほうまんな胸に手をあてて、ミレイユに見せつけるように、ぽってりとした唇を小悪魔のようにとがらせて… あなたって小さな子共みたいで、少しも魅力が無いわ! …と嘲笑あざわらったのだ。

 自分が美人なのを、自慢するくせがあるパトリシアは、従兄の婚約者のミレイユに対しても、見下みくだした態度をとったのだ。

 それ以来、顔を合わせれば挨拶はしても… ミレイユから積極的に話したことはない。




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