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1話 約束

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 オルドリッジ子爵家の長男クレマンは、1歳年下の従妹いとこパトリシアと仲が良い。

 時には婚約者のミレイユ・ファーロウとした約束を、直前になってから、『ごめんよミレイユ! パトリシアが体調が悪いらしくて、家まで送ってやりたいんだ』 …などと、キャンセルしたり…
 
 ミレイユがお茶に誘うと、『パトリシアが僕に相談があるらしくて… すまないミレイユ、明日はつごうが悪いんだ』 …などと、従妹を優先しミレイユの誘いを断わったりする。
 
 従妹に嫉妬して、『会うのは止めて!』とは言えず… 最近のミレイユは毎日イライラとすごしていた。


 学園の食堂で2人分の席を確保して、婚約者を待つミレイユのもとに… 1番仲の良い友人のネリーがあわてて来て、ひそひそと耳元でささやいた。

「ミレイユ…… あなたの婚約者のクレマン様が、従妹のパトリシア嬢と2人で、裏庭の奥へ歩いてゆく姿が少し前に、窓から見えたけれど…?」
 昼食時で学園生たちが集まり、ザワザワと混みあっている食堂で… 食事をとらずに、婚約者を1人で待ち続けていたミレイユに、友人のネリーは心配そうに教えてくれた。

「…え、クレマンが? またなの?!」
 クレマンと昼食を一緒にとる約束をしていたのに…?! また彼は従妹のパトリシアを優先したのね?!

『ミレイユ、たまには昼食を一緒にとらないか?』
『ええ、良いわよクレマン!』
『よかった! 君と話したいことがあるんだ』
『わかったわ』
 ふだんは友人たちと昼食をとるミレイユを、先に誘ったのはクレマンの方だった。
 結局、ミレイユはことわりもなく、また婚約者に約束をやぶられたことを、友人のネリーの話で知った。

「それでね… 向こうにみんながいるから、ミレイユも一緒にどうかしら? クレマン様が遅れて来ても、あそこならすぐにわかるでしょう?」
 ネリーが背後をふりむき、いつも一緒にいる友人たちに手をふる。
 友人たちもニコニコと微笑み、ネリーとミレイユに手をふり返した。

「ありがとう… そうさせてもらうわ!」
 …ねぇ、クレマン! あなたは婚約者の私に、仲良しの友だちの前で恥をかかせて… 私をどれだけみじめな気分にさせれば、気がすむの?! そんなに従妹のパトリシアが好きなら、私ではなくて彼女と婚約すればよかったのよ!!

 貴族にしては珍しく、先に恋愛感情が芽生めばえて、ミレイユとクレマンは婚約した。

 ミレイユはハァ―――ッ… と大きな落胆らくたんのため息をつくと… 1人ぼっちでいごこちの悪かった席を立ち、ネリーと一緒に友人たちがいるテーブルへと向かった。



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