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第28話 初めてかもしれない……ここまで他人に怒りが湧いたのは②
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「ほら、もういいでしょ? 早くペロを返して」
これで話は終わり、とばかりにミーサが急かす。
そこにはとっとと帰れ、という意味も込められていた。
たしかに話は終わった。知りたいことも聞けた。
俺がもうここにいる理由はないのかもしれない。
だが。
「――ダメだ」
「なっ……!?」
はっきりと告げた俺に、ミーサが激昂する。
「なんでっ!? ちゃんと要求どおり話したんだからいいでしょっ!?」
「それとこれとは別だ。それに、そんな約束をした覚えはない」
「……ッ!」
そう。教えてくれとは言ったが、代わりにペロを返すとはひとことも言ってない。
「ねぇ……本当に返して。私にはペロしかいないの。ひとりだけの家族なの」
ミーサが懇願する。こんなに弱気な表情を見るのは初めてだ。心が痛む。
しかし、俺もこのまま帰るわけにはいかない。
「ふぅ……わかったよ」
「!」
「ただし条件がある」
「……なに?」
あからさまに警戒するミーサ。
反論がないのは、要求を飲むまでペロが解放されないと考えているからだろう。実際俺もそのつもりだ。
要するに、人質がいる限りこいつは俺に従うしかない。
なので、遠慮なく言ってやった。
「俺にも手伝わせろ」
…………。
リビングに静寂が流れる。
「……どういう意味?」
「そのまんまの意味だ。俺もそのエセ勇者をボコボコにする手伝いをする」
「えっと……なぜ? それでおじさんになんのメリットがあるの?」
至極当然の疑問。
しかし、もちろん理由はある。
「お前が俺を召喚したのは経験値稼ぎのためだろ? 逆に言えば、勇者を倒せばもう俺は用済み。元の世界に帰してもなにも問題ない。つまり俺は自由。
どうせこのまま抵抗し続けてもお前には勝てなさそうだからな。だったら協力して根本を取り除いた方が早い」
一応、これで理屈は通っているはずだ。
なに言ってんだこいつ、という顔だったミーサも「……そういうこと」と頷く。
が、言うまでもなくこれは建前。本音は別にある。
まあ元の世界に帰りたいのは山々でもあるんだけど……。
正直なところ、最初は止めようかと思っていた。
勇者への復讐の理由が、父親が死んだ原因を作ったから……までであれば。
もしかしたら、「復讐なんてやめて自分の幸せを探すべき。天国の親父さんもきっとそれを願っているはずだ」――なんて、いかにもそれっぽい言葉を投げかけていたかもしれない。
だが、今はもう違う。
あの勇者にはそれ相応の報いを受けさせなければならない。他人の俺でもそう思う。
身分の高さとか、魔王を倒した英雄だからとか、そんなことは関係ない。
自分のした行いを、きちんと反省させる必要がある。
それこそ、“わからせ”てやらないと。
「どうだ? なにか不満はあるか?」
「当たり前じゃん」
「……」
ノータイムだった。
えぇ……。
う、嘘だろ……もっと良い感じの雰囲気になると思ったのに。
ここは普通、「お、おじさん……ありがとう///」ってな感じで若干涙ぐみながら共闘する流れじゃないの……?
これで帰ったら、俺ただストーカーして他人の嫌な過去ほじくり返しただけの人になっちゃうんですけど……?
「別におじさんが加わったところで大して戦力アップにならないし。むしろ何ができるの? 肉壁にでもなってくれるの?」
いや肉壁てお前……。
でもたしかにそうだ。
言われてみれば自分の実力を考えてなかった。完全にやる気だけが先行していた。
なんなら足手まといになる可能性すらだってあるのに。
あっれぇ? どうしよう? もしかして失敗だった……?
「……はぁ。とりあえず、アイツの経験値にならないように簡単には死なないでよね」
……おや?
「あと、作戦は基本私が考えるから。わかった?」
あれ? なんか話進んでる??
「え、どういうこと? 交渉成立ってこと?」
「はぁ? 今更なに言ってんの? そっちの提案でしょ?」
「……いやまあそうだけど」
その割には主導権がなさげなんだが……。
「ほら、シャキッとしてよね。なんとしてもいっしょにアイツをぶっ飛ばすんだから」
「あ、はい」
……そうだ。どっちがどうとか関係ない。とにかくあの勇者もどきを倒す。今はそれだけだ。
「ああ、そうそう。そういえばまだちゃんと名乗ってなかったよね? まあもう知ってるかもだろうけど」
「え、ああたしかに」
そういえばそうだった。
酒場で聞いたので下の名前は既に知っているが、フルネームは知らない。そして俺も言ってない。
「ミーサ=ガルスキン。それが私の名前」
「ミーサ、ガルスキン……メスガキ?」
「え? 死ぬ?」
「嘘ですすいません」
だってちょっとそれっぽかったから……。
「ま、呼び方は別になんでもいいよ。下の名前でもなんでも。ご主人様とかにする?」
「なんでだよっ! じゃあメスガ――すまん。謝るから手刀を下げてください」
恐怖だ。もうコイツの中で俺の首を刎ねるのが日常と化していることに。
「じゃあとりあえずミーサって呼ぶけど」
女の子を下の名前で呼び捨てなんてちょっと気が引けるが、まあ年下相手だしいいだろ。
さて、俺の番だな。
「俺は吉川俊之。ヨシカワが名字で、トシユキが名前だ。人によってはトッシーと呼ばれたりする」
「ふ~ん。まあとりあえずおじさんでいっか」
「……」
……まあ、いいよ別に。変ではないしな。
むしろ普通だ。それぐらいの年の差があるわけだし。
ただ若い子に名前で呼ばれるのを、ほんのちょっとだけ俺が勝手に期待してただけで……。
「言っとくけど、成功したらちゃんと俺を解放しろよ。約束だぞ?」
「はいはい、わかってるって」
て、てきとー……ほんとにわかってんのかな?
まあいい。とにかく目的は定まった。
俺はこの子に協力し、勇者を倒す。そのうえで元の世界に帰る。
フッ、まさか本当にこのメスガキと共闘することになるとはな……。
いつぞや想像した通りの展開に思わずおかしくなる。
こうして、俺とミーサの『勇者討伐作戦』は幕を開けた。
これで話は終わり、とばかりにミーサが急かす。
そこにはとっとと帰れ、という意味も込められていた。
たしかに話は終わった。知りたいことも聞けた。
俺がもうここにいる理由はないのかもしれない。
だが。
「――ダメだ」
「なっ……!?」
はっきりと告げた俺に、ミーサが激昂する。
「なんでっ!? ちゃんと要求どおり話したんだからいいでしょっ!?」
「それとこれとは別だ。それに、そんな約束をした覚えはない」
「……ッ!」
そう。教えてくれとは言ったが、代わりにペロを返すとはひとことも言ってない。
「ねぇ……本当に返して。私にはペロしかいないの。ひとりだけの家族なの」
ミーサが懇願する。こんなに弱気な表情を見るのは初めてだ。心が痛む。
しかし、俺もこのまま帰るわけにはいかない。
「ふぅ……わかったよ」
「!」
「ただし条件がある」
「……なに?」
あからさまに警戒するミーサ。
反論がないのは、要求を飲むまでペロが解放されないと考えているからだろう。実際俺もそのつもりだ。
要するに、人質がいる限りこいつは俺に従うしかない。
なので、遠慮なく言ってやった。
「俺にも手伝わせろ」
…………。
リビングに静寂が流れる。
「……どういう意味?」
「そのまんまの意味だ。俺もそのエセ勇者をボコボコにする手伝いをする」
「えっと……なぜ? それでおじさんになんのメリットがあるの?」
至極当然の疑問。
しかし、もちろん理由はある。
「お前が俺を召喚したのは経験値稼ぎのためだろ? 逆に言えば、勇者を倒せばもう俺は用済み。元の世界に帰してもなにも問題ない。つまり俺は自由。
どうせこのまま抵抗し続けてもお前には勝てなさそうだからな。だったら協力して根本を取り除いた方が早い」
一応、これで理屈は通っているはずだ。
なに言ってんだこいつ、という顔だったミーサも「……そういうこと」と頷く。
が、言うまでもなくこれは建前。本音は別にある。
まあ元の世界に帰りたいのは山々でもあるんだけど……。
正直なところ、最初は止めようかと思っていた。
勇者への復讐の理由が、父親が死んだ原因を作ったから……までであれば。
もしかしたら、「復讐なんてやめて自分の幸せを探すべき。天国の親父さんもきっとそれを願っているはずだ」――なんて、いかにもそれっぽい言葉を投げかけていたかもしれない。
だが、今はもう違う。
あの勇者にはそれ相応の報いを受けさせなければならない。他人の俺でもそう思う。
身分の高さとか、魔王を倒した英雄だからとか、そんなことは関係ない。
自分のした行いを、きちんと反省させる必要がある。
それこそ、“わからせ”てやらないと。
「どうだ? なにか不満はあるか?」
「当たり前じゃん」
「……」
ノータイムだった。
えぇ……。
う、嘘だろ……もっと良い感じの雰囲気になると思ったのに。
ここは普通、「お、おじさん……ありがとう///」ってな感じで若干涙ぐみながら共闘する流れじゃないの……?
これで帰ったら、俺ただストーカーして他人の嫌な過去ほじくり返しただけの人になっちゃうんですけど……?
「別におじさんが加わったところで大して戦力アップにならないし。むしろ何ができるの? 肉壁にでもなってくれるの?」
いや肉壁てお前……。
でもたしかにそうだ。
言われてみれば自分の実力を考えてなかった。完全にやる気だけが先行していた。
なんなら足手まといになる可能性すらだってあるのに。
あっれぇ? どうしよう? もしかして失敗だった……?
「……はぁ。とりあえず、アイツの経験値にならないように簡単には死なないでよね」
……おや?
「あと、作戦は基本私が考えるから。わかった?」
あれ? なんか話進んでる??
「え、どういうこと? 交渉成立ってこと?」
「はぁ? 今更なに言ってんの? そっちの提案でしょ?」
「……いやまあそうだけど」
その割には主導権がなさげなんだが……。
「ほら、シャキッとしてよね。なんとしてもいっしょにアイツをぶっ飛ばすんだから」
「あ、はい」
……そうだ。どっちがどうとか関係ない。とにかくあの勇者もどきを倒す。今はそれだけだ。
「ああ、そうそう。そういえばまだちゃんと名乗ってなかったよね? まあもう知ってるかもだろうけど」
「え、ああたしかに」
そういえばそうだった。
酒場で聞いたので下の名前は既に知っているが、フルネームは知らない。そして俺も言ってない。
「ミーサ=ガルスキン。それが私の名前」
「ミーサ、ガルスキン……メスガキ?」
「え? 死ぬ?」
「嘘ですすいません」
だってちょっとそれっぽかったから……。
「ま、呼び方は別になんでもいいよ。下の名前でもなんでも。ご主人様とかにする?」
「なんでだよっ! じゃあメスガ――すまん。謝るから手刀を下げてください」
恐怖だ。もうコイツの中で俺の首を刎ねるのが日常と化していることに。
「じゃあとりあえずミーサって呼ぶけど」
女の子を下の名前で呼び捨てなんてちょっと気が引けるが、まあ年下相手だしいいだろ。
さて、俺の番だな。
「俺は吉川俊之。ヨシカワが名字で、トシユキが名前だ。人によってはトッシーと呼ばれたりする」
「ふ~ん。まあとりあえずおじさんでいっか」
「……」
……まあ、いいよ別に。変ではないしな。
むしろ普通だ。それぐらいの年の差があるわけだし。
ただ若い子に名前で呼ばれるのを、ほんのちょっとだけ俺が勝手に期待してただけで……。
「言っとくけど、成功したらちゃんと俺を解放しろよ。約束だぞ?」
「はいはい、わかってるって」
て、てきとー……ほんとにわかってんのかな?
まあいい。とにかく目的は定まった。
俺はこの子に協力し、勇者を倒す。そのうえで元の世界に帰る。
フッ、まさか本当にこのメスガキと共闘することになるとはな……。
いつぞや想像した通りの展開に思わずおかしくなる。
こうして、俺とミーサの『勇者討伐作戦』は幕を開けた。
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