上 下
3 / 35

第3話 はいはいレベルアップね。で、モンスターでも倒すんですか? ……え、俺?

しおりを挟む
「そもそも、なんで俺は殺されたんだ?」
「……」

 俺の問いに、少女は無言で視線を逸らした。
 バツの悪い表情。言いづらい内容らしい。

「……知りたい?」
「そりゃまあ……」
 むしろ当然だろう。

 俺とこの子は初対面。恨みを買っているわけでもない。
 まさか単なる憂さ晴らしということはあるまい。

「実はね、おじさんには私のレベルアップに付き合ってほしいの」
「レベルアップ……?」

 聞きなれているような、けれど現実感のない単語。

「この世界ではね、モンスターを倒すと経験値が手に入るようになってるの。で、レベルが上がれば魔力の上限が上がったり、今まで使えなかった魔法が使えるようになる。要は強くなれるってことね」
「はぁ……」
 なんだかRPGみたいな世界観だな。
 てかさらっと出てきたけど魔法なんてあるのかこの世界。いや、モンスターがいるくらいだからあっても変じゃないか。

「でね、ここからがおじさんの出番なんだけど、おじさんには私の経験値稼ぎのために“やられ役”になってほしいの」
 あ……。
 俺はもうこの時点でなんとなく察した。

「ほら、おじさんならいくらでも復活できるじゃん……ってことは?」
「……無限にレベルアップできる?」
「そう!」
 俺の回答に、少女がよくできましたと手を叩く。

「これぞまさしく永久機関。どう? 名案でしょ?」
「いやいやいやいやいやっ!!!」

 予想通りのぶっ飛んだお願いに、俺は全力で首を振った。
 速すぎて阿修羅みたいになっていたかもしれない。

「だいじょーぶだいじょーぶ。ゼッタイ痛くしないから。昨日だって余裕だったでしょ? あれならせいぜい注射と同じで一瞬で済むから」
「いやそりゃ昨日はビックリが勝ったからな。つーか痛くなくとも普通に恐すぎるんだが!?」
「お願い、人助けだと思って! そのためにあんな求人広告まで作ってわざわざ召喚したわけだし。こっちもなりふり構ってられないんだってば」
「いやだってば、と言われても……ん?」

 さらっと混じった発言が引っかかる。

「ちょっと待った。え? あの広告……もしかして君が作ったの?」
「うん。特殊な召喚魔法でね。電話がトリガーで、かけるとこっちの世界に召喚される仕組み」
「なっ……!?」
 震える手で指さした俺とは対照的に、少女はあっさりと頷いた。

 そういうことだったのか……どうりで記憶が番号をプッシュしたところで途絶えているわけだ。
 いや、そんなことより……。

「マジかよ……てっきり俺を拉致したあのペットショップの連中が仕組んだ罠だと思ってたのに……」
「ああ、それは勘違い。あいつらは単なる横取り。常日頃から商品になりそうなモンスターとか探してここいらを徘徊してるみたいで、偶然その網に引っかかちゃったみたいね」
 そう語る少女はちょっと不満げだった。あいつらよくも人のものを……とでも言いたげに。

「ま、それもこれも召喚場所が失敗したせいだから仕方ないけどね」
「失敗?」
「ほんとは私の家が出現ポイントになるはずだったの。でもなんでかこの草原までズレちゃったみたい。というわけで、揉めるのも嫌だし普通におじさんのことは買い戻すことにしたわけ。まあ5Gだったらいいかってことで……フ、5Gてw あ、ごめん」
「…………」
 おい、なんだ? 何が言いたいんだ? ショボいって言いたいのか?

「てゆーかおじさん、よくあんな胡散臭いのに引っかかったよねw フツーあれ見て電話する? 自分で作っといてなんだけど、どんだけ切羽詰まってたの?w」
「…………」
「ま、よかったじゃん。これもある意味仕事だと思ってさ。ちゃんといろいろ成功したあかつきには報酬も払うから、ちょっと私のために働いてよ。ね?」
 少女が手を合わせてお願いのポーズをとる。

「…………」
 ダメだ。もう限界だ。

 ふぅー……と、俺は深く静かに息を吐いた。

「……それ、本気で言ってんのか?」
「え」

 さっきまでとは打って変わって低くなった俺の声のトーンに、少女がたじろぐ。
 しかし、俺は構わず続けた。

「俺はなぁ、これでも感謝してたんだぞ。向こうの世界でリストラされて……その上こっちの世界でもずっと売れ残ってたわけだからな。そこにお前が来て、俺を買うって言って……ぶっちゃけうれしかったさ。こんな俺でも必要としてくれる人がいたのかって……本気でうれしかったよ」

 そうだ。
 牢屋の中に入ってきたあのとき、俺にはこの子が本当に女神に見えたんだ。

「なのに、まさかそもそもの元凶がお前だったなんて……。しかも自分のために死ね……? お前には人の心ってもんがないのか? いったいどんだけ甘やかされて育ったらそんなワガママになれるんだ? あんまり大人を舐めるなよ?」

 一度思いを吐露したが最後、俺は堰を切ったように言葉を紡いでいた。
 こんなにしゃべったのはいつ以来だろう? 止めようにも止まらなかった。

「…………」

 チラッとのぞき見ると、少女は俯きながら俺の説教にじっと耳を傾けていた。
 プルプルと肩が震えている。まさか泣いてる? マズい……さすがに子ども相手に言い過ぎたか?

 ……いや、そんなことはないはず。こちとら文字通り命がけなんだ。言う権利がある。こいつだってそれは解っているはずだ。だから黙ったまま反論してこないのだろう。

 でも、やっぱりちょっとかわいそうになってきたような……。

「――か」
「ん?」

 少女の唇が微かに動く。
 もしや謝罪の言葉でも述べようというのだろうか……?

「ま、まあわかればいいんだ。俺としても謝ったうえで元の世界に帰してくれるなら、今までのことは水に流してやらんでも――」
「うっさいば~~~かッッ!!!」


 ザシュッ。


「え」

 視界が反転する。なんか見覚えがある景色のような……。
 案の定、俺の頭部はまた胴体に別れを告げていた。

 こ、こいつ……開き直りやがったッッッ!?

 少女が走り去る。
 無駄に速い。背中があっという間に遠ざかっていく。
 呼び止めようにも声が出ないのでどうすることもできない。

 と、少女は一度だけ振り返ってこう叫んだ。

「クソニートッッ!!! 働けッッッ!!!」



☆本日の勝敗
●俺 × 〇メスガキ

敗者の弁:いやだからね? 厳密にはニートじゃないんですよ。ちゃんと定義があるから。そこだけは覚えておいてもらいたい。(吉川)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

竜人の溺愛

クロウ
ファンタジー
フロムナード王国の第2王子であるイディオスが 番を見つけ、溺愛する話。

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...