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「できたわ! 我ながら素晴らしい出来よ。さぁさぁ、鏡で見てごらんなさい」
 手を叩き興奮気味に話す姉に気圧されながらも、自分がどんな姿になっているのかと恐れる気持ちでゼノンは姿見の前に立った。映された姿に大きく目を見開く。
 あまり屋敷から出ないため日に焼けない真白な肌に濃いグリーンのドレスがふわりと広がり、月の化身と称えられる白銀の長い髪は綺麗に結い上げられて、耳には瞳と同じ青の宝石が光る耳飾りが垂れさがり揺れている。顔には薄く化粧が施され、姉が持っているつばの広い帽子を被れば、確かに誰も男が女装しているなどとは思わないだろう。
「もともとゼノンはあまり屋敷から出ないから、これで十分よ。誰にもゼノンだってわかりはしないわ。さ! 早くお買い物に行きましょう。今日は〝姉妹〟でデートよ」
 ゼノンに腕を回して、アナスタシアは馬車へと歩いた。姉にされるがままであるゼノンは恥ずかしそうに頬を染めるが、ほんの少し、心が浮き立っているのがわかる。
 大きな月の魔力を持って生まれたゼノンは身の安全を考えて両親からあまり屋敷の外に出してもらえず、国からの打診で王子の婚約者となってからはますます忙しくなり、同時に自由が無くなった。そんなゼノンにとって数少ない買い物の機会はとても貴重なものであるのだが、欲しい物が物だけに今までじっくりゆっくりと店内を物色したことなど無い。
 だが今日は、ゼノンであってゼノンではない。この姿の時はただの伯爵令嬢だ。プリスカの店をじっくりと見て回ることができる。そんな初めての経験に胸を躍らせて、ゼノンは姉と共に馬車に揺られた。
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