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 プリスカの店は美しく可愛い物が多い。きっと青のブレスレットも想像に違わず美しいだろう。そう思うと喉から手が出るほどに欲しいが、アナスタシアが嫌だと言うのなら諦めるしかない。アナスタシアを責める気持ちは無いのであまり顔に出ないように気を付けながらゼノンは差し出していた小袋を戻す。しかしずっと一緒に育ってきた姉には弟の心などお見通しなのだろう。少し考える素振りをして、良いことを思い付いたと顔を輝かせた。
「そうだわ! 男として行って目立っちゃうなら、女の子の恰好をすれば良いのよ! そうすれば女の子の中に女の子。何も目立たないわ」
 名案を思い付いたと言わんばかりの姉に、ゼノンは思わずあんぐりと口を開いてしまう。
「こらこらゼノン、はしたないわよ」
 大きく口を開かない、とお小言を言う姉にゼノンは眉根を寄せる。
「姉さま……、いくら僕が月の魔力を持っているといっても、身体は男ですよ? すぐにバレてしまいますし、滑稽なだけです」
 妊娠できる身体であるというだけで、女性のようなしなやかさや柔らかさは無く、勿論豊かな乳房も存在しない。無理だ無理だと首を横に振るゼノンであったが、アナスタシアは何故か乗り気になっており、ゼノンの手を掴むと半ば引きずるように自室へ連れて行った。
「ゼノンは私と身長も変わらないし、痩せてるから大丈夫よ。腰から下なんてドレスのふくらみで見えやしないんだから、問題ないわ」
 否、問題だらけだろう。ゼノンは心の中でそう呟くが、悲しき末っ子の性とでも言おうか、姉に逆らうことはできずにあれよあれよと服を脱がされてしまう。
「コルセットは一応するけど、そんなにギュウギュウに締めたりしないから安心なさいな。さぁ、後ろ向いて!」
 まるで人形を扱うかのようにクルクルとゼノンを動かし、手早く肌着やらを着せていく。そしてコルセットを閉めてから、胸に詰め物をした。
「なんでこんなものあるんですか……」
 代用品にしては形がピッタリすぎる。内側に追加で布を入れはしているが、ドレスを着れば胸以外の何にも見えないだろうそれを見つめるゼノンに、アナスタシアは手を動かしながらクスクスと笑った。
「殿方は知らないでしょうけれどね、可愛い女の子はたくさんの秘密で出来ているのよ」
 何でもないことのように慣れた手つきでゼノンを着飾らせる姉の姿に、女性というものはとても大変なのだなとしみじみ思う。そんな半ば現実逃避に近いことをしていれば、いつの間にか詰襟のドレスを完璧に着せられており、姉の手によって最後の仕上げをされていた。
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