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 この世に存在する人間の中で、完璧に美しいばかりの人なんて存在しない。特に貴族などという世界では、それを身に染みて理解させられる。
 煌びやかな世界の裏側で巡らされる策略と略奪。己が栄華の為なら何でもできて、それを隠すのも上手いものだ。他人の不幸は蜜の味などとはよく言ったもので、その蜜を味わうことに必死になって。
 誰もかれもが己や己のお家繁栄にしか興味がない。だから〝婚約破棄〟という現実を突きつけられても、さほど傷つかなかった。
 ふぅーん。その一言で終わる程度のもの。それよりも早く自室に戻ってコレクションたちに囲まれたい。
 美しく染められたシルクの布地に白く繊細なレース。花の形をしたブローチに、色鮮やかなリボン。繊細な細工の施されたオルゴールと、細やかな刺繍が美しいハンカチ。市井の子供でも買えるような物から貴族でしか買えないような高価なものまで、自室には仕事の対価として貰うお金をこつこつと貯めて集めたコレクションで溢れている。
 人の闇を見た時には、美しいものに囲まれるのが一番。あの自室ならば、黒く醜いものは見なくてすむ。美しいものだけで心をいっぱいにすることができる。
 だから、早く帰ろう。

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