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「姫宮様か……。確かに、主上は姫宮様の仰ることなら聞いてくださるかもしれぬが、このような事、どのようにお願いすれば良いのか……」
 芳次はあまり静姫宮と接点が無いのだろうか。仮にも先代将軍の正妻と現将軍なのだから、顔を合わせたことすらないとは思わないが、現状を話すことも帝への嘆願を願うことも憚られるほどなのだろうか。
 表に出さぬよう内心で首を傾げる弥生に、芳次は幾分か逡巡した後、諦めたように視線を向けた。
「確か、そなたは主上や姫宮様と縁があったな。姫宮様も随分とそなたを頼りにされていたように見える。そなたは……賢い人間だ。今から文を書くゆえ、それを持って姫宮様にお会いしてくれぬか?」
 気丈に振る舞いながらも、静姫宮が茂秋を想って今も涙していることがあるのを芳次は知っているのだろう。そして、生前の茂秋とは関係が良いわけではなく、むしろ茂秋は華都が彼よりも重用する芳次を厭っていただろう。たとえ華都が衛府を潰すために芳次を利用しているだけで、将軍位に就いた今の芳次を華都が決して重用しなかったとしても、芳次は茂秋に対してなんら含むところがなかったとしても、それでも茂秋を愛していた静姫宮は芳次をよく思っていない。それが理解できるがゆえに、芳次はまるで最後の頼みの綱を切らぬようにと慎重に慎重を重ねて文を書き、弥生に願いを託した。
「では、早速お伺いしてまいります。御前、失礼を」
 今からならば謁見も間に合うだろうと、弥生は文を恭しく受け取って頭を垂れる。多くの事に関して性格が合わない己に芳次が託した意味を理解して、足早に大奥へ向かい取次ぎを頼んだ。
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