必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 夜の闇に慣れたのはいつの頃だろう。かつては妻や子供と並んで眠っていた時間に刀を握り、ジッと獲物が通りかかるのを身をひそめながら待つ。何度も何度も繰り返してきたそれを卑怯と呼ぶ者もいるだろうが、そんなことに構うよりも仲間や自分の命を守る方が先決だ。その点では身を隠しやすく、人の目も無くなる夜の時間は非常に好都合だった。
 ジッと息をひそめ、夜の闇に響く複数の足音に耳を澄ませる。音をたてぬよう懐から火薬を詰めた手製の岩玉の縄に火を点け、勢いよく投げた。
「なん――あああぁぁぁあぁッッ!!」
 獲物が火のついた不審な岩玉に気づくが、もう遅い。地面を跳ねた瞬間に火は詰められた火薬に到達し、爆発音と共に土や細かい岩が飛び散る。辺りが炎に包まれ、運よく生き残った者達が突然のことに混乱している間にと背後をとった。
 静かだったその場所が炎の爆ぜる音と刀がぶつかる金属音、そして人々の悲鳴に支配される。仲間が刀を振るいながら空けてくれた道を浩二郎はひたすらに走った。そしてその勢いのまま、暴れているのか大きく揺れ動く籠に刀を突きさす。
「――――ッッ!」
 籠の中からくぐもった悲鳴が聞こえる。以前ならばこれが人の命が消える最期の叫びなのかと感傷に浸ることもあったが、今はもうなんの感慨も無い。血肉を刺したという感覚にも慣れてしまった。
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