必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
394 / 738

393

しおりを挟む
「僕が……、きっと弥生様たちも、雪ちゃんに願うことは一つだよ」
 そっと、雪也の頬に触れる。精巧に作られた人形のように美しいその顔は、しかし確かに生きているのだと蒼の掌に温もりを伝えてきた。
「笑って、笑って、ただ幸せに生きてほしい。それだけだよ」
 まろい頬を撫でる。弥生達が助け、慈しみ、守りたいと願った、その結晶。
(ねぇ雪ちゃん。弥生様たちもそうだし、僕もそうだけど。何より、誰より、雪ちゃんを大事に思って、大好きで仕方がない人がすぐ傍にいるんだよ? 気づいてるかな。あの子が雪ちゃんを軽蔑したりなんて、あり得ないんだよ)
 それを受け入れる雪也ではないとわかってはいるけれど、いつか、いつかはきっと、と願わずにいられない。
「大丈夫。何も恐れるものはないよ。それを確信しているから、僕は今日ここに来たんだよ。僕は、雪ちゃんに嘘はつかない。絶対に。それは、雪ちゃんも知ってるでしょ?」
 少し冗談っぽく言えば、キョトンとした雪也は、次いでクスリと小さく笑みを零した。それが嬉しくて、蒼もニコニコと微笑む。風に遊ばれる葉音に紛れるほど小さな声ではあったが、二人の穏やかな笑い声が響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

処理中です...