必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
381 / 738

380

しおりを挟む
〝攻撃も大事だが、何よりも大切なのは気配に敏感になることだな。いることを察知しているのと、していないのとでは雲泥の差がある。もしも太刀打ちできない相手だったとしても、そこにいると察知すれば、知らねぇフリして逃げることもできるからな〟
 そんなことをカラカラと快活に笑いながら、しかし情け容赦もなく叩きこんだ紫呉の姿を思い出し、ゴリゴリと薬草をすり潰していた雪也は顔に出すことなく、クスリと笑った。念のため視線だけで皆の様子を探るが、由弦も周も、そしてまだ体力こそ戻っていないものの少しくらいなら動けるようになった浩二郎も特に何かに気づいた様子もなく各々自由に過ごしている。サクラも由弦の側で気持ちよさそうに寝ているのを見て、雪也は不自然にならぬよう丁寧に薬包を作り、いつも通り棚へと仕舞った。コッソリと、皆に背を向けて見られぬようひと包みだけ薬包を襟元へ忍ばせる。
「少し薬草を採りに行ってくるね。すぐに戻るけど、何かあったら大声出して、呼んで」
 薬草を採りに行くと言っても、場所は由弦が普段から整えてくれる裏の庭だ。少し大声を出せばすぐに聞こえる。それがわかっているので周も由弦もさほど気にすることなく頷いた。ほぼ同時に頷いた二人にクスリと微笑んで、雪也は少し大きな籠を持つと庵を出る。そして庭に向かう途中、外からは見えづらく中からも壁があって見えない場所を通りかかった瞬間に襟元から出した薬包を無言で一本の木の影に届くよう弾き飛ばした。そして何事も無かったかのように歩き出す。
 視線を向けるどころか歩調を緩めることもせず行われたそれらに、雪也の背後でサワリと葉が擦れたような音がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

処理中です...