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 最初は、わざとそのように的の外れたような事を言っているのかと疑ったこともあった。決して雪也には言えないが、いっそ嫌味だとさえ思ってしまったこともある。それくらいまわりは雪也に対してあからさまな態度をとっており、同時に鼻で嗤い飛ばすことができないくらいに、雪也は美しかった。蒼は遊郭に行ったことは無いが、そのような所に客として赴く者達もこぞって「どの娼婦よりも美しい」と言うし、それは蒼も同じように思っていた。それほどまでに美しい人が謙遜しても、むしろ謙遜している自分は素敵でしょ? と言われているようにしか思えないと。
 しかし、時がたつにつれ、蒼も、町の者達も皆、理解せざるを得なかった。雪也は本当に気づいていないのだと。無意識のうちにそういう思考に強制変更されているのではないかと思うほどに、雪也は徹して気づかない。
 蒼も皆も、庵に住むようになってからの彼しか知らない。雪也があまり自分のことを話さない性格ということもあって、彼が庵に来る前は何をしていたのか、どうして近臣である弥生に過保護なほど可愛がられているのか、何一つとして知らない。けれど、その異常なまでの思い込みに、彼の過去があまり幸せなものではなかったのかと想像して、結局未だ誰一人として冗談交じりに本音を言うことはあれど、本気の気持ちをぶつけることはしないでいる。
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