必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 この国には犬がおらず、ネコも富裕層の者しか飼っていない。加えてこの庵に居る者は弥生が書物を見せたので犬の存在を絵とはいえ知っているが、民が読む書物の中に外国のものが少ないということもあって彼らは絵ですら犬を知らない者が大半だろう。加えて馬や牛のように移動のため、食のためであればともかく、愛玩するために動物を飼うことは将軍や近臣、多くの富を持つ豪商といった者達の道楽と考えている者が多い。
 良い方は悪いが、多くの者にとってサクラはなんの役にも立ちそうにない、見たことも無い生き物なのだろう。今までの人生の中で見たことも聞いたことも無い未知なものを前にした時、排除しなければと考える者はいる。そしてその者の声が大きければ大きいほど、多くの人が同調してしまうこともままあることだ、と弥生は淡々とした口調で推論を述べた。
 ならばサクラはやはりこの庵に隠されるようにして生きなければならないのかと由弦は俯くが、弥生は随分と軽い口調で否と言った。
「ようはサクラを〝なんの害もない、可愛く賢い犬という動物〟だと町の者達が認識すればなんら問題はない。見た目を綺麗にして、由弦たちが必ず目を光らせているとわかれば警戒も薄れるだろう」
 まずは適度な長さに毛を切って、それから井戸の水で汚れを落とす。今のサクラは生きることに精一杯で見た目など二の次であったため毛は伸びっぱなしのボサボサで、葉っぱなどは取り払ったものの毛に土などはついたままだ。白と黒のまだら模様だとはわかるが、それ以上に汚れが目立つ。ならば綺麗に整えてやれば印象も随分変わるだろうという弥生に、紫呉は確かに、と頷いた。
 風邪をひかせては可哀そうだとその日はそのまま眠って、翌日に紫呉が屋敷から鋏を持ってきて由弦にサクラを抱かせると、器用に余計な毛を切っていく。ボサボサだった身体が徐々に足の形が見え、顔の輪郭がハッキリし、腹の毛が床に付かなくなっていく。そしてぬるま湯でサクラを撫で洗い、清潔な布でワシャワシャと水滴を拭いていった。
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