必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
52 / 738

51

しおりを挟む
「各領主の武衛邸にも直接品を納めるくらいには豪商だけど、その分守銭奴で必要な出費すら惜しむから、仕入れている八百屋や肉屋の者達に荷運びをさせているんだ。蒼のいる八百屋もそこに野菜を納めているからね、よく武衛邸への納品にご主人が駆り出されているよ。荷運び分の賃金は払われないらしいけど」
「商売相手でもそんなだぜ? 使用人なんてあいつは人とも思ってねぇよ。些細な失敗ですぐに怒鳴るし、すぐに棒で打つ。それも滅多打ちだ。男も女も子供も関係ない。そんな風に打たれたら身体がまともに動くわけもないってのに、荷物を落としたり機敏に動けなかったらまた打つ。それの繰り返しだ。泣こうが喚こうが関係ない。あそこの使用人は奴隷だ、すぐに死んじまうって、けっこう有名だな」
 優の言葉に続けて紫呉が吐き捨てるように言う。血管が切れそうなほどに怒り狂っている紫呉であるが、どれほど怒ろうとその主人をどうこうする権利も、使用人たちを救う術もない。それは紫呉に限らずだ。だからこそ、未だ地獄のような怒声と悲鳴が響き渡っている。
「……結婚されているなら、奥方や子供は何も言わないのですか? そのような環境、たとえ己に火の粉が降りかからなかったとしても恐ろしいものでしかないでしょう」
 あまりに悲惨な内容に眉根を寄せながら雪也は言うが、小さく息をついた優は静かに首を横に振った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

君の想い

すずかけあおい
BL
インターホンを押すと、幼馴染が複雑そうな表情で出てくる。 俺の「泊めて?」の言葉はもうわかっているんだろう。 今夜、俺が恋人と同棲中の部屋には、恋人の彼女が来ている。 〔攻め〕芳貴(よしき)24歳、燈路の幼馴染。 〔受け〕燈路(ひろ)24歳、苗字は小嶋(こじま)

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

処理中です...