必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「ズルいですね、弥生兄さまは」
 少し鼻声になり顔を見せまいと俯ける雪也に、弥生は不敵な笑みを浮かべた。
「何を言うか。こんなに弟思いだというのに」
「あ、それ自分で言っちゃうんだ」
 堂々と胸を張って言う弥生に、横にいた優がツッコミを入れる。今この瞬間まで、当たり前にあった日常の姿。容赦がなくて、温かくて、身分の差は確かにあるはずなのに、そこにはまったく隔たりがない、優しい場所。雪也にとって帰るべきであった場所。
(あぁ、考えては駄目だ)
 考えれば考えるほどすべてが懐かしくて、離れがたい。寂しいと泣く自分が出てきてしまう。
(あぁ、駄目だ)
 このままでは決意が揺らいでしまう。だから――。
「弥生兄さま、優さま、紫呉さま」
 名を呼べば、じゃれあいを止めて皆が雪也に視線を向ける。その視線すべてに笑みを浮かべて、雪也は深く頭を垂れた。
「ありがとうございました」
 恩は忘れない。必ずいつか、お返ししよう。胸の内で呟いた雪也に手を伸ばし、弥生は彼の顔を上げさせた。そしてその身体を抱きしめ、ポン、ポンと背を優しく撫でる。
「そんな顔をするな。私は遊びに来ないなどと言ってはいない。三人で遊びに来るし、お前もいつだって屋敷に来て良いんだ。今生の別れなどではないのだから、笑っていろ」
 促され、雪也は溢れるものを抑え込みながらも笑みを浮かべる。それに弥生は優しく頷いて、そして雪也から腕が離れた。
「では、またな」
 そう言って優と紫呉を伴い踵を返す。その後ろ姿を、雪也は見えなくなるまで見つめ続けた。
 自分で選んだ道だ。後悔などしない。そう自らに言い聞かせて瞼を閉じる。

 さぁ、頑張らなければ。自らを奮い立たせ庵に足を向けた雪也は知らない。
 この三日後に弥生たちが遊びに来て、それ以降頻繁に、本当に頻繁に顔を見せにくることを。あの感動の別れは何だったのかと、ほんのちょっと疑問に思ってしまうことを。
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