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GWに焼き肉を

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 ゴールデンウィークとはいえ、それぞれ短期のアルバイトをしていたり課題をこなしたりしていてバラバラに過ごすことも多く、サクラをドッグランに連れていく以外の予定を立てていなかった。気づけばゴールデンウィークももう終わりだ。流石にそれを思うと、せっかくの休みだったのに何もしないなど勿体ないと思ってしまうのが人の常であろうか。
「流石に今からどこかに行くのは無理そうだからさ、焼き肉でもやらない?」
 それぞれがリビングでくつろいでいる時にそんな提案をしてきたのは、お祭り大好きイベント大好きな湊だ。それぞれの時間を楽しんでいた皆の視線が湊に向けられる。
「焼き肉? 家で?」
 コテンと首を傾げるのは蒼だ。ホットプレートどこに片付けたっけ? と既にやる気でいる蒼に湊はニコニコと笑みを浮かべた。
「サクラもいるし、家の方が安くできるしさ。肉も余ったら冷蔵庫に入れて明日食べればいいし」
「いや、余ることはないだろ」
 そう、男子大学生の胃袋を侮ってはいけない。由弦の言う通り、肉が余ることなどまずないだろう。
「じゃぁ、お肉と野菜買ってこようか? 流石に焼き肉ができるほどの肉は買ってないはずだし」
 ソファーに座りながら本を読んでいた雪也の言葉に、隣に座っていた周が立ち上がって鞄を取りに行く。どうやら買い出しは雪也と周が引き受けてくれるらしい。
「お肉大量で!」
「ピーマンもあると嬉しいかな~」
「あ、タレもよろしく!」
 口々にそんなことを言う彼らに「はいはい」と軽く返事をして、雪也は周と一緒にスーパーへと向かった。大きめの保冷バックを用意したが、これで大丈夫だろうかと少しの不安を抱きながら。

 保冷バッグにギュウギュウに詰められた食材を両手に持って雪也と周が帰って来た時には、既にテーブルの上にホットプレートや油が用意されていた。やる気満々である。
 流石に一気に焼くことはできないので大半の肉を冷蔵庫に詰め込み、蒼がニコニコと微笑みながら物凄い勢いで野菜を切っていく。料理をさせるとすべてを恐怖の「ハイパースパイシーレッド(由弦命名)」に変えてしまう激辛大好きな蒼であるが、食材を切らせても彼の右に出る者はいない。
 切った野菜を大皿に入れて、肉はトレイのままテーブルに出す。
「サクラにもお肉買ってきたよ」
 そう微笑みながら雪也がサクラの目の前に犬用の肉缶を差し出すと、サクラは鼻を近づけながらブンブンとシッポを振っている。
「ちょっと待っててね」
 一度立ち上がり、雪也はサクラの餌皿に肉を入れて用意をする。その間にも湊が率先して肉や野菜をホットプレートに並べ、食欲をそそる匂いと音が広がった。
「今の内に鶏肉を全部端っこに並べて焼いておいた方が良いよね?」
 肉用の割り箸で鶏肉を摘まみながら言う湊に、皿を配っていた蒼が「そうだね~」と同意する。いっぱい食べるからと選んで買った大きなホットプレートの四隅に鶏肉を次々と並べた。
「ここは野菜を焼かせて」
 そう呟いて、肉で埋め尽くされてしまう前にと周が玉ねぎやピーマンを並べていく。玉ねぎは雪也が、ピーマンは蒼が好きな野菜だ。しっかりと火を通した方が二人共好きだから、今の内から焼いておかなければ。
「焼き肉のタレと塩と、あと何かいるかな?」
 キッチンからヒョコッと顔を出した雪也に、周がレモンも欲しいと立ち上がって雪也の元へ行く。二人がタレなどを持ってテーブルに戻れば、由弦もサクラの餌をあげ終わって席につく。その頃にはホットプレートの上に並んでいる肉たちは美味しそうな焼き目がついていた。
「そろそろ食べられるよ~」
 湊と一緒に肉をひっくり返したりしていた蒼の言葉に皆の瞳がキラキラと輝く。手を合わせて「いただきます!」と勢いよく言うと各々目当ての肉に箸をのばした。
「サンチュも買ってきたから、巻いて食べれるよ」
「わぁ! サンチュ買ってきてくれたんだ! じゃぁ早速」
 雪也が差し出したサンチュに嬉しそうな顔をした蒼が手をのばし、それに焼きたての肉やピーマン、そしていつの間にか蒼の手元に置かれていた赤い何かを乗せて巻くと躊躇いもなくかぶりついた。見てしまった〝赤いナニカ〟から皆が意図的に視線を逸らす。
「そういえば、ここには珍しく焼き肉奉行がいなかったね。大学で焼き肉行くとたいがい一人か二人は焼き肉奉行がいて、たまーに揉めてるのを見るけど」
 肉をタレに付けた湊が思い出したように言う。彼はノリが良く面倒見も良いからよくそういう場に誘われ、そして揉め事に巻き込まれているのだろう。
 ここには肉の焼き方や食べ方に拘る人がいないのを今更ながら不思議に思う湊に、隣に座っていた由弦は豪快に笑った。
「俺たちは質より量だからな! それに焼き肉もその他も飯っていうのは楽しく食べた方が美味いんだから、多少のことは気にしないさ。そんなに繊細な舌も持ってないし!」
 生焼けでお腹さえ壊さなければ良いという由弦はタレにくぐらせた肉と米をかき込んで「肉と白米最高!」と叫んだ。それに笑った湊が「サイコー!」と拳を掲げる。そんな二人に蒼は赤いナニカをはさんだ肉を頬張りながら微笑み、雪也や周も口元に笑みを浮かべた。こうして皆でワイワイと食べられれば、それは何よりも美味しい。
「あ、もう鶏肉もいけそうだよ~」
 焼き具合を確認した蒼が鶏肉のひとつを取って早速かじる。熱くてしばらくハフハフと口の中の熱を逃がさなければならないが、味はとても美味しかった。皆も待ってましたとばかりに鶏肉を皿にとる。
「……雪也、肉は?」
 先程から焼けて甘くなった玉ねぎばかりを食べている雪也をチラチラと見ていた周がとうとう口を開いた。しかし問いかけられた雪也はキョトンと首を傾げている。
「ん? 食べてるよ? 僕のことは気にせず周もどんどん食べて」
 優しく微笑む雪也は確かに嘘などついていないが、彼が食べたのはタンとカルビと豚バラを一枚ずつだ。それ以外はひたすら玉ねぎとキャベツを食べている。彼は小食だが、肉が嫌いというわけでもない。せっかくの焼き肉だからもっと食べたら良いのに、と雪也の小食をいつも気にしている周は無言でサンチュを手に取ると肉をとってレモンを絞り、玉ねぎやニンジンなどと一緒に巻いて彼に差し出した。
「これは?」
 野菜がいっぱい入っていれば食べられるだろうかとサンチュを差し出す周に、首を傾げながらも雪也は嬉しそうに微笑みながら受け取った。
「ありがとう」
 熱さに気をつけながら頬張った雪也は美味しいと目を細める。そんな彼の姿に周も口元を緩めた。
 二人の様子に笑みを浮かべていた蒼が少し視線をずらせば、こちらも肉を堪能したサクラがお腹を晒しながらペットベッドで爆睡していた。その様子がいかにも「満足じゃ」というようで、蒼は思わずスマートフォンで写真を撮る。隣では湊と由弦が漫画のワンシーンのように肉と米をかき込んでは笑っていた。
「最高のゴールデンウィークだね」
 そう呟いて、蒼も肉と赤いナニカを巻いたサンチュを頬張った。
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