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 アシェルが恐れた通り、母はどんどんと病に呑まれていった。イライラとしては使用人たちにあたり散らし、髪を掻きむしって叫び声をあげた。あんなに仲のよかった父とも言い争いが増え、何かが割れる音が響くことも多くなった。
 何かを虚空に向かって叫び、あるいは泣き出して、何かから逃げるように屋敷を走り回っていることもあった。そんな母を見る度に、アシェルは窓から灰色の空を睨みつけ、ひたすらにフィアナの目を逸らし、耳を塞いだ。
「ねぇ、お兄さま。まだお母さま、ご病気? 行っちゃダメ?」
 母の部屋から一番遠いであろうアシェルの部屋でフィアナと遊んでいれば、彼女はいつもと同じように母の元へ行きたいと強請った。
「どうだろう。今はお医者様がいらっしゃってお母さまとお父さまとお話していらっしゃるから、お話が終わったらお母さまにお会いできるか聞いてみようね」
 少しは大きくなったとはいえ、アシェルにとってフィアナはまだまだ子供だ。母の病について話すのも躊躇い、父もまたフィアナには言いたくないようであったので、アシェルはこうしてフィアナの気を逸らせるのにいつも頭を悩ませていた。
 いろんな遊びをして、お勉強もして、だがフィアナはプックリと頬を膨らませて拗ねていますとアシェルに訴え続ける。そんなフィアナに苦笑して、アシェルは妹の頬を撫でた。
「じゃぁフィアナ。待っている間にドレスを決めよう。今度の舞踏会に着ていくドレスを新調して良いって、お父さまが仰っていただろう? 早く決めないと、舞踏会に間に合わなくなってしまう」
 ラージェン殿下とダンスをする約束をしているのだろう? と告げれば、先程までのふくれっ面はどこへやら、フィアナはパァッと輝く笑みを浮かべた。フィアナも年頃だ。着飾って大好きな人と踊るのには心躍るのだろう。
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