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「失礼いたします。こちらが届いております」
 差し出された封書を受け取るルイに、流石にここに居ては中が見えてしまうとアシェルは膝から降りようとするが、腰に回された腕はちっとも緩まず降りることができない。
「ちょ――ッ」
「かまいませんよ。あなたが見てはいけないものは軍務の書類くらいで、そんなものは屋敷で見たりしませんから」
 見ます? と差し出された封書には〝サイラス・ルア・モリフィスト〟と書かれていた。何でもないように差し出されたそれをチラと見てアシェルは苦笑する。
「いや、人の手紙を見る趣味はない。それに、よくわからないけれどあなたに来るということは貴族からなんだろう? なおさら見るわけにはいかない」
 とはいえ、ルイはアシェルを離すつもりはないようだ。ならば、と瞼を閉じたアシェルに、ルイはほんの一瞬だけ瞼を伏せたが、すぐに笑みを浮かべて封書を開いた。
「……なるほど。アシェル、もう良いですよ。読み終わりました」
 カサリと乾いた音をたてて書状を封筒に戻したルイにアシェルも瞼を持ち上げる。特に重要な話ではなかったのだろう、ルイは封書をテーブルに置いて紅茶を飲み始めた。
「で、いつまでここに? 僕はもう誰かに抱っこされるほど子供ではないんだが。それも年下のあなたに……」
 なかなか言い出せなかったそれをようやく口にしてアシェルは再び降りようとするのだが、流石は武官というべきだろうか、アシェルに痛みこそ与えないものの腰に回された腕は僅かも動かなかった。
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