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「王妃殿下」
 褒められることに慣れておらず、どうにも居心地のわるかったアシェルが挨拶を、とフィアナの手をとろうとするが、彼女は兄にそのような公的な態度をとられるのが不満だったのか、少し拗ねたようにして身を屈めると兄の肩を抱きしめて、その頬に口づける真似をした。親兄妹がするとても私的な挨拶であり、祝福を贈るという意味でもあるそれにアシェルはキョトンとするものの、仕方のない子だと苦笑しフィアナの頬に口づけを返す。この挨拶は恋情を抱いた恋人や夫婦がするものではないので、ラージェンが気を悪くすることもないだろう。
 嬉しそうに微笑みながらラージェンの隣に戻ったフィアナを見て、ルイは執事に目配せをしてから皆に向き直った。
「では、皆様お揃いですから、どうぞこちらへ」
 ルイの言葉と同時に、執事たちが扉を開く。その計算しつくされた動きを見つめていれば、ルイが行きましょう、と言ってアシェルの車椅子を押した。
 ルイが軍務で忙しくとも、アシェルが慣れず采配などできずとも、ロランヴィエル家の使用人たちは優秀で、国王と王妃を迎えようと何も問題のない完璧な用意がされていた。見た目にも美しいケーキやゼリーなどはもちろん、多く食べる人も空腹にならぬようスコーンやサンドイッチも多めに作られている。紅茶も一級品で、席についた客人の顔が思わず綻んだ。
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