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「あの……」
「そういえば、ロランヴィエルの屋敷は初めてですか? 色々心配されているかもしれませんが、父は私に跡を継がせた後は領地の屋敷でのんびり暮らしていますから王都の屋敷にはおりませんしご安心を。それに、父はもちろん、ロランヴィエルの者達は皆あなたを迎えることを楽しみにしていましたから、なんの心配もいりません」
 アシェルがどうにか逃げようとしていることを察したのか、ルイはアシェルの言葉を遮って笑みを浮かべた。ロランヴィエル家の使用人だろうか、お仕着せの男が音も無しに近づいてきたが、彼を手の動きだけで止めたルイが自らアシェルの車椅子を押す。広い回廊を歩く間もルイはあれこれアシェルに話しかけるが、アシェルとしては気分が乗らずルイの言葉に頷くことしかできない。そんなことをしていればいつの間にか目の前に立派な馬車があり、お仕着せの男が恭しく扉を開けるとルイがアシェルを軽々と抱き上げた。
「屋敷まですぐですが、お疲れでしたら横になってくださいね」
 そんなことを言いながら、ルイはフワフワと羽のように柔らかな座面にアシェルを座らせ、自らも対面に座る。小さな音を立てて扉が閉められ馬車が走り出すが、振動もあまり感じないことにアシェルが目を見開き、その様子にルイは小さく苦笑した。
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