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 一年ほど前にも食糧難に陥った小国が自暴自棄にでもなったのか、バーチェラの肥沃な土地を求めて武器を取り、進軍してきた。やせ細って着の身着のまま、充分な武器防具もない烏合の衆など恐れるものではないが、それでも国土と国民の安全を脅かすのであれば手を打たないわけにはいかない。そう判断したラージェン国王は第一連隊と呼ばれる実働部隊の精鋭たちを国境に送り込み、鎮圧と、必要ならば大国としての慈悲を見せつけるように命じた。
 大国の精鋭にとって必要最低限すら揃わぬ烏合の衆など恐るるに足りず。鎮圧はすぐに行われたが、もう一つの命である〝大国としての慈悲〟に思わぬ時間がかかった。国父を捕らえたバーチェラ軍の言うことを、当然かの国民は素直にきくはずもなく、食糧の配給ひとつとっても手間がかかった。それでもなんとか国民の心を宥め、彼らが生きていけるよう、そしてバーチェラに対して感謝と忠誠の心を持ち、二度と戦を仕掛けようなどと思わぬように采配して、ようやく明日、第一連隊が王都に帰還する。勝利を祝い、彼らをねぎらうために城の者達はバタバタと走り回り、あちこちを飾り付け、後日行われる式典への準備にいそしんだ。そんな慌ただしい者達に視線を向けながら、アシェルはのんびりと紙束に紐を結ぶ作業を繰り返していた。
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