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決意

パライバトルマリン

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 準備ができ、戸締りを確認していたところで“チリンチリン”とカフェの扉が開く音がした。振り返って見るとマックが立っていた。

「ルシル嬢ちゃんのところにお偉さん方が来ているんぢゃねーかってみんなが噂してたからよ。様子を身に来たんだが、本当だったんだな。」

「マックさん、ごめんなさい。わ、私この前嘘をついてしまって・・・」

つい先日、マックにはお嬢さんと間違えられたと嘘をついてしまった。

「なんか訳があるんだろう?それよりもなんだ、その荷物は?また、しばらく家を空けるのか?」

 マックはテーブルの上に置かれた荷物を見ながら言った。

「・・・そうなの。」

 街の人たちにはとても良くしてもらっている。このまま、ここに残って楽しく暮らしたい気持ちもあるがそれを捨ててまた、私は城へ戻っていこうとしている。

 みんなを捨てる訳ではないけれど、なんとなくいたたまれなくなって、消えそうな声で答えるのが精一杯だった。

「そうか。レイモンドさんが言っていた、運命ってやつを見つけたのか?」

「まだ、わからないけれど・・・パパが運命の中でいかに輝くかが大切って言っていて。私はまだ何もしていなかったなって思って。もう一度、輝くために頑張ってみたいとおもったの。」

「そうか。ちょっとまってな。」

 そう言うとマックは何を思ったのか、扉を開け外に出て行ってしまった。

 

 

 

 もう、街のみんなに受け入れられないのかな・・・と立ち尽くしていると、すぐにマックは戻ってきた。

「これを。」

 差し出されたそれは、私の瞳と同じ薄水色のパライバトルマリンの石をはめ込んだネックレスだった。

「え・・・」

「レイモンドさんが亡くなる直前に、お見舞いにきた時に『ルシルが運命に自分から歩みだしたら、渡してくれ』って言われてな。預かっていたもんだ。」

 そう言ってマックは、私の後ろに回ってそのネックレスをかけてくれた。

「なんでも、パライバトルマリンとかっていう高価な石をつかって、特別に作ってもらったものだそうだ。」

 パライバトルマリンとは、今はもう発掘すらされていない。原石すらも見つけるのは困難な石のひとつである。

 この国の貴族たちは、生まれた子供に瞳と同じ宝石のアクセサリーを身につけさせる風習があった。昔はそれが精霊との媒体になっていたと言われているが、現在は精霊すら居なくなってしまい、宝石を贈るという風習だけになっていた。

 私も生まれは貴族だが、悪魔と呼ばれ・・・用意してもらうことはできなかった。というよりも、貴族の生まれだと知ったのは最近だし、それらしいものを持っていなかったからないのだろうと思っていた。

 それなのに・・・父が、私のために、私のためだけに用意してくれた・・・

 その気持ちを思うと、気持ちがいっぱいになり涙が溢れた。

「マックさん・・・ありがとう。」

「お礼ならお父さんにいってやれ。俺は預かっていただけだ。それとしばらくあけるんだろう。気をつけて行ってこいよ。いつでも、この街の人たちは嬢ちゃんが帰ってくるの待っているからな!なにかあったらすぐに帰ってこいよ~」

 泣いている私の頭をガシガシと撫でると、マックは入ってきた扉から出て行った。

 その姿が見えなくなったころ、私は「パパ。ありがとう・・・」と誰にも聞こえないくらい小さな声で、父にお礼をいった。

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