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私が伯爵令嬢だなんて、何かの間違いでは?

これからどうすれば…

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 驚きのあまり、放心状態の私はブレンダンにただついて歩く形で執務室を出た。

「ルシル様、大丈夫ですか?」

 私が放心状態であることに気がついたブレンダンが、心配そうに顔を覗き込んだ。

「す、すみません。まだ、状況がよく掴めていないのですが」

 まだ放心状態でぼーっとする頭をフル回転させて答えた。

「無理もございません。いきなり、言われても困りますよね。今日はゆっくりと休んでください。」

 ブレンダンに案内されて来た部屋は、来た時に着替えた衣装部屋ではなかった。

「ルシル様には、しばらくこちらで過ごしていただきます。また、先程は聞こえていなかったようなので、もう一度言わせていただきますが、婚約者と言っても、本当に婚約していただく訳ではありません。内容は機密事項で申し上げられませんが、殿下の仕事が落ち着くまでは、こちらで婚約者として過ごしていただくということです。また、この件に関しましては王家からの命令ですので、拒否はできません。よろしくお願いします」

 ブレンダンに言われた内容は、執務室で殿下自らおっしゃっていたことだったが、驚きで放心状態だった為半分も理解していなかった。

「・・・私はここから出られないということでしょうか?そもそも・・・なぜ私なのでしょうか?」

 ようやく少し落ち着いてきたことで、疑問に思っていたことを訪ねた。というよりも、頭の中は”カフェ・フローラ”のことを考えていた。

「すみません。おかえりいただくことは、しばらく身の安全も考えできません。なぜルシル様なのかという点についてですが、ルシル様は、フローレス伯爵の令嬢であることが分かっています。身分に申し分がなく殿下にふさわしいと思われたとしかお聞きしておりません」

 この時ブレンダンは、本当はルシルを利用するためだとわかっていたが、嘘をついた。

「え・・・こ、困ります。カフェの営業もありますし、私何も持ってきていません。しかも、先ほど身分と言っていましたが、私は、下町育ちでマナーなどは一切わかりません」

 今日中に帰れると思っていたが、帰れないと分かり非常に焦った。

「とにかく、おかえりいただくことはできません。必要なものはこちらで用意するように仰せつかっています。マナーなどは明日から家庭教師がつきますので朝からしっかりと学んでいただきます」

 ブレンダンはこれ以上、何も話すことはないと言わんばかりに、それだけを述べるとすぐに部屋をあとにした。

 

 

 

私は帰ることすら許されないと知り立ち尽くしていた。

「ルシル様。まずは着替えをしましょう」とエレナが窺うように声をかけてきた。

「え・・・と」

その言葉に緊張の糸が切れたのを感じた。

そして、自分が置かれている立場や、状況が分からず、ずっと続くはずだったカフェでの生活や、大好きだった父との思い出のある家に戻れないことにようやく悲しみを感じ始め涙が溢れだした。

「ご、ご、ごめんなさい」

 涙がこぼれ落ちたことに慌てて、自分のドレスの袖で涙を拭いた。

「ルシル様、すみません。ルシル様のお気持ちも考えずに急かしてしまいました」

 エレナが申し訳なさそうに、ハンカチを差し出しながら背中をさすってくれた。もちろんこの涙はエレナのせいではない。その手が、父が生きていたころに、瞳のせいでよくいじめられ泣いていた時にさすってくれていた手の暖かさに似ているような気がした。そして、より涙が止まらなくなった。

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