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はじまりのプロローグ 

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 この世界には、迷宮ダンジョンが存在する。

 迷宮ダンジョンというのは、実に不思議な存在だ。

 彼等は生きている。

 彼等は日々成長する。

 彼等は突然進化する。

 彼等は魔物を生み育てる。

 彼等は人を吸い寄せる。 

 彼等は人に刃を向ける。

 彼等は人を餌として食す。

 彼等は永遠の時の輪に囚われた存在。

 何故、この世界に迷宮ダンジョンが存在しているれるのか、それは、知っていそうな神様にでも聞いてくれ。
 
 俺は、好き勝手にしていいと言われただけだからな。そもそもそんな問になんか興味がない。

 哲学じみたお堅い答えはしらん。わからん。どうでもいい。

 いまさら、女神様に直接聞きたいとも思わない。知ったからどうだと言うんだ。

 あの女神様には何度でも逢いたいが、女神様に直接尋ねる質問でもないだろう。

 俺は俺だ。それ以外の何者でもない。

 ここにも、1つの迷宮ダンジョンが存在してるしな。

 ここの迷宮ダンジョンの逸話は、これまた傑作なんだ。

 つべこべ言わずに黙って聞いてみてくれ。

 ──数限りない迷宮ダンジョンの中で、最も深き闇の奥底まで続く深淵の迷宮ダンジョン

 ──人類誕生の遥か以前から存在したと伝わる最古の迷宮ダンジョン
 
 ──果てしない階層が永遠に続くと思われる、無限の迷宮ダンジョン

 ──全ての冒険者が目指す最後の頂き、人類未踏の最後の迷宮ダンジョン

 ──人々の欲望を絶望に染め替え食らう破滅の迷宮ダンジョン

 ──帰還者が誰1人としていない死者の墓場、生者を死へといざなう死者の迷宮ダンジョン

 いつしか地上の人々から、そう、幾つもの呼び名で呼ばれた存在──。

 それが俺だ。

 遥か昔に、ちっぼけな迷宮ダンジョンとして異世界転生した俺。

 お気に入りの呼び名は深淵の迷宮。

 前世の記憶は女神様が気を利かせたのか覚えている。

 だが、長い年月が過ぎたからな、記憶が朧気おぼろげで、もう、微かに覚えているぐらいなんだ。

 迷宮ダンジョンとしての俺が精神の大部分を占めているから、記憶が朧気なのも、それはまあ、理解できる。

 迷宮ダンジョンとして生きていくには、人間の記憶は不要だからな。
 
 長い年月を生きてきた俺は、人間の精神構造のままでは、多分発狂していただろう。

 迷宮ダンジョンとしての精神構造に置き換わることで、ここまで長生き出来たというわけさ。

 俺の機能構造は、人間のそれとは根本的に違うしな。

 敢えて人間の構造に例えるならば、

 俺の中にある全ての階層が、独立した腕や身体の機能を持ち、

 階層で暮らす全ての魔物が、免疫体の役割を担い、害虫の人間共から俺を守る。

 迷宮ダンジョンの最深部にある迷宮核ダンジョンコアが、俺という存在の詰まった保管場所であり俺の頭脳とほぼ同義だろう。

 そんな俺にとって今日は特別な記念日なんだ。

 ようやく、この日を迎えた。

 999階層の俺が1000階層の俺に進化するんだ。

 盛大に祝いたい気分だが、俺の体内で暮らす魔物達に被害が出たら面倒だ。

 俺が育てた魔物達の楽園を俺の力で壊すのは忍びないからな。

 それよりも、今回の進化は、切りのいい数字だと思わないか。
 
 こういう場合はやっぱ、お約束が付き物だろう。

 とゆうか、迷宮ダンジョンに転生する前に、既に女神様と交渉を終えているから、それは大丈夫の筈だ。

 あの可憐で儚げで清楚で美人で、お目にかかるだけで、心が洗い清められるほどのお姿をした女神様なら、決して忘れてないだろう。

 あの神殿空間にあった装飾のセンスのよさが感じられた。
 
 毎日変わるセンスのいい清楚な衣装も女神様の印象にピッタリマッチしてた。

 アニメ声を聞いた時には、目が釘付けになり全身が沸騰して、運命の出会いが巡ってきたと何度も錯覚しそうになった。

 小柄でスラッとした体型も俺の理想の女神像にピッタリ一致した。

 決め細やかな気遣いも素敵だったし、なにより、手料理まで振舞ってくれた。

 女神様のお話によると、魂がずっと肉体を持たないままだと、魂が消えてしまうらしい。

 そうならないように、女神様は御自神の御力を分けてくださったのだ。

 俺は女神様の優しさに振れて感動した。

 もし涙が流せたら、涙が枯れるまで泣き腫らしていたと思う。

 そんな女神様に惚れ込んでしまった自分がいたんだ。

 女神様と一緒にあの神殿に住むことを許して頂けたなら、迷わず女神様と住む道を選んだのだが…。

 俺なりに真剣にお願いして、なんとかしばらくは半同棲生活を営んでいたが、最終的に、その願いは聞き届けていただけなかった。

 だが、俺はまだ諦めてはいない。

 女神様もそれを当然ご存知だろう。

 俺という存在を見続けて、遠くから、俺を見ながら笑ってくれたらいい。

 女神様の玩具になれるなんて、途方もなく名誉なことだ。

 お約束も無事果たせそうで、ようやく、次の一歩に踏み出せそうだしな。

 たしか……約束を取り付けた時のお言葉は……。



「女神様、俺のこの願いなら叶えて頂けませんか」

「ええ、その願いだったら叶えてあげられるわね。でもタダでとは、いかないわ」

「はい、俺もただで願いが叶うとは思っていません」

「そうね。ダンジョンを1000階層まで進化させるのが条件よ」

「私の条件をクリア出来たなら、貴方の願いを叶えてあげるわ」

「私としても、息抜きも兼ねて、たまには見たこともない運命の軌跡も見てみたいから」

「今回は特別よ」

「条件を満たしたら貴方の願い、迷宮ダンジョンとしての力を保ち続けたまま人化するスキル、それをプレゼントとして贈るわ」

 女神様は、素敵な笑顔を見せて私の願いに答えてくれた。

 俺はその言葉を信じて、ここまでやってきた。

 俺が愛してやまない女神様は、きっと俺の願いを聞き届けて下さるはずさ。

 それじゃあ、いっちょ、やってみますか。

迷宮ダンジョン進化』

>深淵の迷宮ダンジョンは進化した。

>深淵の迷宮ダンジョンは新たに1000階層を創設した。

>女神アルフィラーゼから1000階層創設記念報酬が届いた。

>報酬【完全人化】スキルを取得した。

 迷宮核ダンジョンコアから、進化情報の関連ログを取得した。

 いよっしゃ~。アルフィラーゼ様、愛してるぜ。

 いつの日か必ず肉体を持った姿で、貴女の横に立ってみせる。

 今日がその最初のはじまりの日だ。

 俺は【完全人化】スキルを起動するように強く念じた。

>深淵の迷宮ダンジョンは【完全人化】スキルを使用した。




 スキルが起動すると、地上部では、深淵迷宮の入口が霞みがかって消えていく。

 そして、紫色の魔素の瘴気で覆われていた深淵の森からは、深淵迷宮ダンジョンの存在が突然掻き消える。

 突然の強い力の喪失により、周辺では、徐々に魔素の濃度が薄くなっていった。
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