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人類進歩の大役
73話 エルトロンへの嫉妬
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「こ、これ......なんの冗談だよ」
俺はこんな大規模ドッキリを仕掛けられるほど有名人じゃないんだが。
目の前に、城.......のような大豪邸がある。
全体が輝くパール色で、所々深紅色の細工が施された大豪邸が目の前に聳えている。
(深紅色の中に微妙に金が混じっている)
広さは1000坪以上ありそうだ。
しかも......大豪邸の周辺に広がる街並みは大豪邸のデザインと統一性があって、建物はオレンジ、ピンク、深紅色とあるが、全体的としてはパール色と深紅色に見える。
印象としては、街は大豪邸から半径6~7キロまで広がっているのではないか?
直感でそう思っているだけなので、違うかもしれないが。
メルシアに家があると言った母さんに場所をイメージしてもらい、俺が転移を発動したら目の前にこんな光景が広がってたんだ。
「ふふん、今日からここがめぐ君のお家だよ」
なぜか母さんが自慢げに言う。
「..................」
主任もマルシャさんも呆け気味に大豪邸を眺めている。
アリシャが笑いながら言う。
「あはは!周さんらしいですね。某有名テーマパークにハマリすぎてこんなお家と街まで」
違う
「.........周さん、これから色々大変そうだね」
ムスカリ君が鋭そうな意見を言う。何だこの恐ろしい10歳は(見た目年齢)
「実はですね、周さんがアリシャさんを守護しつつマルフィの洞窟を進んでいた際に、カルバンの総指揮官であるバルカニス様が直々にお越しになられたのです」
それ、誰だよ。
「とある女神様が周さんに ”人類の見守り役としての仕事を与える。また、その際に必要な領土と領民を与える” と決定されたようで、その説明のためにお越しになられました」
アガパンサが理路整然と事の次第を教えてくれる。
「ま......まじか.....ちょっと質問していいかい?カルバンについて少し教えてくれないか?」
(以前、母さんが警察のような組織と言っていたが)
「カルバンはメルシア全土の保安と管理を一手に担っている組織です。アースでは様々な省や庁に担当が分かれて存在していますが、メルシアでは全てをカルバンが担っています」
「そうか、バルカニスさんは、メルシアの総理大臣みたいなものなのかな」
「そうですね。そのようなイメージで捉えると分かりやすいかもしれません。ただ、様々なことの決定権はメルシアよりも上層の神々にあります」
「とある女神様の決定って言っていたけど、その女神様の名前は知ることができないのか?」
「え、ええ.....私には見当も...つきません」
アガパンサの声が上ずってる。何か怪しいな。
賢いわりに動揺が表に出やすい。
まあ、どんな女神様か知った所で、俺の向かう方向は変わらないだろう。
実は、俺自身、人類の見守り役の仕事を望んでいた。
吾郎が転生したマルファーニなり、アースにいた石橋さんなり、そうした人達を導く仕事には胸を熱くさせる何かがある。
ただ........こんな大豪邸と街まで与えられるとは、完全に想定外だったが。
別に大豪邸なんて欲しく無いよ?
「気になるんだが、何で人類の見守り役に領民が必要なんだ?あと、こういう大豪邸や街も.....」
「人類の見守りは一人でこなす事はできません。対象になる人間が大勢いますから。そのため、周さんを補佐してくれる人達がいます。それが”領民”です」
「チームメンバーみたいなものか?でも、それなら、領民っていう言葉は違う気がするんだが....」
「周さんと共に人類の見守り役をする人達は、周さんと進歩において連帯関係のある方達です。そのため、周さんが進歩するほど領民も進歩し、街も発展していきます。
この大豪邸と街は周さんの現在の影響力が一部具現化されたものでもあり、大豪邸(周さん)の影響を街(領民)が受けるという構図が具現化されていますね。
後、他ならぬ、この街に住む人達の成長も周さんは担うことになります。
それらを考慮すると、領民という言葉が適切なように思います」
「今の説明だと、領主と領民とで上下関係があるような意味合いを感じるんだが、俺だってメルシアの1住民なんだろ?他の領民も同じじゃないのか?」
「実は、周さんはメルシアの住民ではありません。メルシアよりかなり上層の存在です。本来よりも下層であるメルシアの住民の進歩を促す立場を担っています」
メルシアの妖精界で降った雪が冷たくなくて、その時から何となく場違いな気がしてたけど、本当にそうだったのか。
「........一気に不安になってきた。俺にそんな仕事務まるのか.......」
「ふふ.....私から見れば、周さんほど人類の見守り役の才能がある方はいませんよ。アースやニンファルでも、素晴らしい導きをされていましたから」
アガパンサは、片手を口にあてて嬉しそうに言う。
「そうか......じゃあ、立ち話も何だし、この家にみんなで入ろうか」
俺たちは、ガラス?で出来たような門を開け、庭を通り、豪邸の中に入っていった。
・・・・・・・・・
中に入って見ると、この大豪邸は回廊型になっているのが分かる。
廊下の大窓から内庭が見える。
見た事のない綺麗な植物が植わっていて、それぞれが文字通り色とりどりの輝きを放っている。
赤、紫、黄、青、と宝石を敷き詰めたような花壇である。
中心には噴水が設置されていて、今も螺旋状に水を噴き上げ、空気中に淡いパステルカラーのダイヤモンドダストのような光の粒子が生じている。幻想的な光景だ。
この家は回廊型なのだが、どうやら5階建てらしい。
やはりアースとは違う物理法則が働いているらしく、それぞれの階が微妙に浮いて存在している。
上の階に行くほど内庭へとせり出す形になっている。
そのため、内庭の天井は空が見渡せるものの、端々がドーム状になっているのだ。
「夜になると内庭の噴水と花達がすっごく綺麗なんだって!」
母さんがキャーキャーした声で言っている。
え?夜?
「メルシアに夜なんて来るのか?暗くなったのを一度も見たことが無いんだが」
「うん、地域によっては夜が来るところもあるよ。ここはラニット地域で、夜が来る場所なんだ」
「睡眠がいらないのに夜が来るって不思議な感じだな。でも、良かったよ。俺は夜のある世界の方が好きだな」
「野田君....確か、夜のドライブが趣味だったんだっけ?」
主任が上目遣いに俺の顔を見ながら言う。身長は俺の方が20~25cmぐらい高い。
上目遣いに見つめてくる主任に心臓が飛び跳ねる。
可愛い.......
「そ...そうですね。よく夜の海岸沿いに立ち寄って、何をするでもなくボーっとするのが好きでした」
家の内部を見て回る内に、外庭を見渡せる談話室のような場所があった。
外はエメラルドのような光沢を放つ植物が植わっていた。その向こうには街が見渡せる。
部屋の内部は気品のあるテーブルと椅子があり、観葉植物が飾ってある。
「それじゃ、ここで話をしようか」
俺たちはそれぞれが椅子に座った。
マルシャという女性がそそくさと俺の左隣に主任を座らせた。
右隣はムスカリ君である。
「あ、そういえば、領民と言ってたけど街の住民はいつ頃来るんだ。今は居ないようだけど」
外の街を見て、何となしに口にする。
「周さんがアリシャさんの守護を終えたので、明日には来られると思います」
「明日には色々な人と顔合わせをしなきゃいけないんだな。ちゃんとできるかな.....」
俺は頭を抱える。
「そんなに気を張る必要はないですよ。領民のほとんどは精神の波長が似通った人達です。長年の親友のように感じるのではないでしょうか?」
アガパンサがこちらに柔らかい笑顔を向け、教えてくれた。
「そうか......そう考えると、少し楽しみにもなってきた!」
我ながら単純である。
俺は孤独など全然愛してないと思う。
「そういえば、主任とマルシャさんはどういう世界にいたんですか?主任は元の自分を思い出したんですよね?」
主任とマルシャさんは顔を見合わせた。
「神庁のあるウラノスっていう世界だよ」
主任は少し抵抗があるように...そう言った。
「神庁......じゃあ、もしかして、主任もマルシャさんも天使なんですか!?」
「そうだよ~」
マルシャさんが見た目通りの無邪気な声を出した。
天使か、カルーナも天使だったよな。
母さんは俺に実の妹がいるなんて知らないだろうから、ここで話題にできないけど。
「エルトロンも天使だったんだ。しかも、飛びっきり優秀な天使!」
続けてマルシャさんが言った。
「そうね。私もあんな優秀な人は見たこと無い。
天使の仕事で何をやっても断トツの結果を出すの。
それでいて、人を育てるのも上手で、何より、いつも世界のために何ができるかを考えてた」
主任がエルトロンについて熱っぽく語る。
そんな主任の様子を見て......俺の心の中に、赤黒い嫉妬心が湧くのを感じた。
出会った時の様子から見ても、主任は「エルトロン」を探してたんだ。
野田周じゃない。
いや、それどころか、主任からすれば、エルトロンじゃない俺は邪魔者じゃないのか?
《野田周としての自我が消え去れば、エルトロンが戻ってくるかもしれない》
主任はそう思っているのでは......
前世の記憶が戻った主任からすれば、そう思ってもおかしくない。
しかも、俺はこの世界に来た時から、神の力を使っているが、それはイドやエルトロンの知識なり力が源だろう。
俺、個人としては何も力が無いのでは?
アースでの生き方でもそうだ。
あまり悪いことはしていないけども、世界のために身を尽くすような何かをしてきただろうか?
主任の言う、エルトロンのように。
「周さん?何か大変な事でも....?」
斜め向かいに座るアリシャが、俺の顔を見て尋ねた。
ショックにより呆けた顔をしていたので、何か大変なことでも思い出したように見えたのかもしれない。
「い、いや、何でもない......そういえば、アリシャはこれからどうするんだ?過去に住んでいた場所とか思い出したりはしてないのか?」
アースに居た頃の主任にそっくりのアリシャ、姿形も変わってしまったし、グランディの元の場所に戻れるのだろうか。
「ぎゃーー!!.....どうしましょう!!前世なんて少しも思い出してません。あ、でもグランディに戻ることはできるか.......え、何この感じ。絶対にはまらないパズルを無理やりはめようとするような.......」
何やら困惑している。
「進歩前の自分が住んでいた場所が、進歩後の自分にとって合わないと感じる事は良くあります。
..............それでは、メルシアの私の家で過ごされてはいかがでしょうか?
他にも家がいくつかありますので。一時の間だけでも良いですし、そのままお住みになられても結構ですよ。ちなみに、グランディの職場については私からこの旨をお伝えしておきますのでご安心ください」
「やったー!うう......良かったぁ。本当にありがとうございます!!アガパンサさん」
アガパンサの家ってまだ他にもあったのか。ただ、アガパンサの家って人里離れた山の中だよな。アリシャはあそこで大丈夫なんだろうか。
と思い、アガパンサの表情を見ると........
何か違和感を感じる。
にこやかな顔をしているが、何か人形が笑っているような作り笑顔な感じがする。
この申し出にはどういう意図があるんだろう。
アガパンサの事だから何か問題にならないと思う........いや、以前一度、大変なことになってるからな....アリシャが入居した後、様子を見に行ってみるか。
「主任とマルシャさんはこの後、どうするんですか?」
その質問をすると、二人は腕を組んで考え込み始めた。
ウラノス.....いや...すぐに帰るのはちょっと....あの後だしなぁ.....など、二人でぶつぶつ言っている。
考え込んだ末、二人は意を決したように
「野田君の街に一時的に住まわせてくれないかな....お願い!」
「お願いしますっ!」
と、二人で頭を下げてきた。
土下座するかのような勢いだったので驚いた。
何となく予想はしていたので、俺は
「俺の街ってわけじゃないですが......いいですよ!ぜひぜひお好きにどうぞ」
と伝えた。
アガパンサに確認した所、街には予備の家が多くあるため問題ないとの事だ。
アリシャも誘ってみたがアガパンサの所でいいらしい。
本質的には人里離れた場所に住みたい願望が強いのかもしれない。アースの死の間際にヒマラヤ行ってたぐらいだもんな。あと、俺が転移でちょくちょく顔を出すよと言った事もあるかも。
「ムスカリ君は俺と一緒に住むか?」
行く場所は無いだろう。それに、ムスカリ君の今後をとことん面倒みると決めている。
「いいの!?ありがとう。そうさせてもらうよ」
ムスカリ君は嬉しそうである。
「あ、母さんはどうする?」
「う~ん、私は少しやる事もあるからエルモンテスの街に戻るよ」
意外だった。母さんなら俺の側を離れないと思っていたが....
まあいいや。
ここにいる全員の今後、滞在する場所が決まった。
そして、楽しくも、色々考えさせられる時間が過ぎ....解散した。
俺はこんな大規模ドッキリを仕掛けられるほど有名人じゃないんだが。
目の前に、城.......のような大豪邸がある。
全体が輝くパール色で、所々深紅色の細工が施された大豪邸が目の前に聳えている。
(深紅色の中に微妙に金が混じっている)
広さは1000坪以上ありそうだ。
しかも......大豪邸の周辺に広がる街並みは大豪邸のデザインと統一性があって、建物はオレンジ、ピンク、深紅色とあるが、全体的としてはパール色と深紅色に見える。
印象としては、街は大豪邸から半径6~7キロまで広がっているのではないか?
直感でそう思っているだけなので、違うかもしれないが。
メルシアに家があると言った母さんに場所をイメージしてもらい、俺が転移を発動したら目の前にこんな光景が広がってたんだ。
「ふふん、今日からここがめぐ君のお家だよ」
なぜか母さんが自慢げに言う。
「..................」
主任もマルシャさんも呆け気味に大豪邸を眺めている。
アリシャが笑いながら言う。
「あはは!周さんらしいですね。某有名テーマパークにハマリすぎてこんなお家と街まで」
違う
「.........周さん、これから色々大変そうだね」
ムスカリ君が鋭そうな意見を言う。何だこの恐ろしい10歳は(見た目年齢)
「実はですね、周さんがアリシャさんを守護しつつマルフィの洞窟を進んでいた際に、カルバンの総指揮官であるバルカニス様が直々にお越しになられたのです」
それ、誰だよ。
「とある女神様が周さんに ”人類の見守り役としての仕事を与える。また、その際に必要な領土と領民を与える” と決定されたようで、その説明のためにお越しになられました」
アガパンサが理路整然と事の次第を教えてくれる。
「ま......まじか.....ちょっと質問していいかい?カルバンについて少し教えてくれないか?」
(以前、母さんが警察のような組織と言っていたが)
「カルバンはメルシア全土の保安と管理を一手に担っている組織です。アースでは様々な省や庁に担当が分かれて存在していますが、メルシアでは全てをカルバンが担っています」
「そうか、バルカニスさんは、メルシアの総理大臣みたいなものなのかな」
「そうですね。そのようなイメージで捉えると分かりやすいかもしれません。ただ、様々なことの決定権はメルシアよりも上層の神々にあります」
「とある女神様の決定って言っていたけど、その女神様の名前は知ることができないのか?」
「え、ええ.....私には見当も...つきません」
アガパンサの声が上ずってる。何か怪しいな。
賢いわりに動揺が表に出やすい。
まあ、どんな女神様か知った所で、俺の向かう方向は変わらないだろう。
実は、俺自身、人類の見守り役の仕事を望んでいた。
吾郎が転生したマルファーニなり、アースにいた石橋さんなり、そうした人達を導く仕事には胸を熱くさせる何かがある。
ただ........こんな大豪邸と街まで与えられるとは、完全に想定外だったが。
別に大豪邸なんて欲しく無いよ?
「気になるんだが、何で人類の見守り役に領民が必要なんだ?あと、こういう大豪邸や街も.....」
「人類の見守りは一人でこなす事はできません。対象になる人間が大勢いますから。そのため、周さんを補佐してくれる人達がいます。それが”領民”です」
「チームメンバーみたいなものか?でも、それなら、領民っていう言葉は違う気がするんだが....」
「周さんと共に人類の見守り役をする人達は、周さんと進歩において連帯関係のある方達です。そのため、周さんが進歩するほど領民も進歩し、街も発展していきます。
この大豪邸と街は周さんの現在の影響力が一部具現化されたものでもあり、大豪邸(周さん)の影響を街(領民)が受けるという構図が具現化されていますね。
後、他ならぬ、この街に住む人達の成長も周さんは担うことになります。
それらを考慮すると、領民という言葉が適切なように思います」
「今の説明だと、領主と領民とで上下関係があるような意味合いを感じるんだが、俺だってメルシアの1住民なんだろ?他の領民も同じじゃないのか?」
「実は、周さんはメルシアの住民ではありません。メルシアよりかなり上層の存在です。本来よりも下層であるメルシアの住民の進歩を促す立場を担っています」
メルシアの妖精界で降った雪が冷たくなくて、その時から何となく場違いな気がしてたけど、本当にそうだったのか。
「........一気に不安になってきた。俺にそんな仕事務まるのか.......」
「ふふ.....私から見れば、周さんほど人類の見守り役の才能がある方はいませんよ。アースやニンファルでも、素晴らしい導きをされていましたから」
アガパンサは、片手を口にあてて嬉しそうに言う。
「そうか......じゃあ、立ち話も何だし、この家にみんなで入ろうか」
俺たちは、ガラス?で出来たような門を開け、庭を通り、豪邸の中に入っていった。
・・・・・・・・・
中に入って見ると、この大豪邸は回廊型になっているのが分かる。
廊下の大窓から内庭が見える。
見た事のない綺麗な植物が植わっていて、それぞれが文字通り色とりどりの輝きを放っている。
赤、紫、黄、青、と宝石を敷き詰めたような花壇である。
中心には噴水が設置されていて、今も螺旋状に水を噴き上げ、空気中に淡いパステルカラーのダイヤモンドダストのような光の粒子が生じている。幻想的な光景だ。
この家は回廊型なのだが、どうやら5階建てらしい。
やはりアースとは違う物理法則が働いているらしく、それぞれの階が微妙に浮いて存在している。
上の階に行くほど内庭へとせり出す形になっている。
そのため、内庭の天井は空が見渡せるものの、端々がドーム状になっているのだ。
「夜になると内庭の噴水と花達がすっごく綺麗なんだって!」
母さんがキャーキャーした声で言っている。
え?夜?
「メルシアに夜なんて来るのか?暗くなったのを一度も見たことが無いんだが」
「うん、地域によっては夜が来るところもあるよ。ここはラニット地域で、夜が来る場所なんだ」
「睡眠がいらないのに夜が来るって不思議な感じだな。でも、良かったよ。俺は夜のある世界の方が好きだな」
「野田君....確か、夜のドライブが趣味だったんだっけ?」
主任が上目遣いに俺の顔を見ながら言う。身長は俺の方が20~25cmぐらい高い。
上目遣いに見つめてくる主任に心臓が飛び跳ねる。
可愛い.......
「そ...そうですね。よく夜の海岸沿いに立ち寄って、何をするでもなくボーっとするのが好きでした」
家の内部を見て回る内に、外庭を見渡せる談話室のような場所があった。
外はエメラルドのような光沢を放つ植物が植わっていた。その向こうには街が見渡せる。
部屋の内部は気品のあるテーブルと椅子があり、観葉植物が飾ってある。
「それじゃ、ここで話をしようか」
俺たちはそれぞれが椅子に座った。
マルシャという女性がそそくさと俺の左隣に主任を座らせた。
右隣はムスカリ君である。
「あ、そういえば、領民と言ってたけど街の住民はいつ頃来るんだ。今は居ないようだけど」
外の街を見て、何となしに口にする。
「周さんがアリシャさんの守護を終えたので、明日には来られると思います」
「明日には色々な人と顔合わせをしなきゃいけないんだな。ちゃんとできるかな.....」
俺は頭を抱える。
「そんなに気を張る必要はないですよ。領民のほとんどは精神の波長が似通った人達です。長年の親友のように感じるのではないでしょうか?」
アガパンサがこちらに柔らかい笑顔を向け、教えてくれた。
「そうか......そう考えると、少し楽しみにもなってきた!」
我ながら単純である。
俺は孤独など全然愛してないと思う。
「そういえば、主任とマルシャさんはどういう世界にいたんですか?主任は元の自分を思い出したんですよね?」
主任とマルシャさんは顔を見合わせた。
「神庁のあるウラノスっていう世界だよ」
主任は少し抵抗があるように...そう言った。
「神庁......じゃあ、もしかして、主任もマルシャさんも天使なんですか!?」
「そうだよ~」
マルシャさんが見た目通りの無邪気な声を出した。
天使か、カルーナも天使だったよな。
母さんは俺に実の妹がいるなんて知らないだろうから、ここで話題にできないけど。
「エルトロンも天使だったんだ。しかも、飛びっきり優秀な天使!」
続けてマルシャさんが言った。
「そうね。私もあんな優秀な人は見たこと無い。
天使の仕事で何をやっても断トツの結果を出すの。
それでいて、人を育てるのも上手で、何より、いつも世界のために何ができるかを考えてた」
主任がエルトロンについて熱っぽく語る。
そんな主任の様子を見て......俺の心の中に、赤黒い嫉妬心が湧くのを感じた。
出会った時の様子から見ても、主任は「エルトロン」を探してたんだ。
野田周じゃない。
いや、それどころか、主任からすれば、エルトロンじゃない俺は邪魔者じゃないのか?
《野田周としての自我が消え去れば、エルトロンが戻ってくるかもしれない》
主任はそう思っているのでは......
前世の記憶が戻った主任からすれば、そう思ってもおかしくない。
しかも、俺はこの世界に来た時から、神の力を使っているが、それはイドやエルトロンの知識なり力が源だろう。
俺、個人としては何も力が無いのでは?
アースでの生き方でもそうだ。
あまり悪いことはしていないけども、世界のために身を尽くすような何かをしてきただろうか?
主任の言う、エルトロンのように。
「周さん?何か大変な事でも....?」
斜め向かいに座るアリシャが、俺の顔を見て尋ねた。
ショックにより呆けた顔をしていたので、何か大変なことでも思い出したように見えたのかもしれない。
「い、いや、何でもない......そういえば、アリシャはこれからどうするんだ?過去に住んでいた場所とか思い出したりはしてないのか?」
アースに居た頃の主任にそっくりのアリシャ、姿形も変わってしまったし、グランディの元の場所に戻れるのだろうか。
「ぎゃーー!!.....どうしましょう!!前世なんて少しも思い出してません。あ、でもグランディに戻ることはできるか.......え、何この感じ。絶対にはまらないパズルを無理やりはめようとするような.......」
何やら困惑している。
「進歩前の自分が住んでいた場所が、進歩後の自分にとって合わないと感じる事は良くあります。
..............それでは、メルシアの私の家で過ごされてはいかがでしょうか?
他にも家がいくつかありますので。一時の間だけでも良いですし、そのままお住みになられても結構ですよ。ちなみに、グランディの職場については私からこの旨をお伝えしておきますのでご安心ください」
「やったー!うう......良かったぁ。本当にありがとうございます!!アガパンサさん」
アガパンサの家ってまだ他にもあったのか。ただ、アガパンサの家って人里離れた山の中だよな。アリシャはあそこで大丈夫なんだろうか。
と思い、アガパンサの表情を見ると........
何か違和感を感じる。
にこやかな顔をしているが、何か人形が笑っているような作り笑顔な感じがする。
この申し出にはどういう意図があるんだろう。
アガパンサの事だから何か問題にならないと思う........いや、以前一度、大変なことになってるからな....アリシャが入居した後、様子を見に行ってみるか。
「主任とマルシャさんはこの後、どうするんですか?」
その質問をすると、二人は腕を組んで考え込み始めた。
ウラノス.....いや...すぐに帰るのはちょっと....あの後だしなぁ.....など、二人でぶつぶつ言っている。
考え込んだ末、二人は意を決したように
「野田君の街に一時的に住まわせてくれないかな....お願い!」
「お願いしますっ!」
と、二人で頭を下げてきた。
土下座するかのような勢いだったので驚いた。
何となく予想はしていたので、俺は
「俺の街ってわけじゃないですが......いいですよ!ぜひぜひお好きにどうぞ」
と伝えた。
アガパンサに確認した所、街には予備の家が多くあるため問題ないとの事だ。
アリシャも誘ってみたがアガパンサの所でいいらしい。
本質的には人里離れた場所に住みたい願望が強いのかもしれない。アースの死の間際にヒマラヤ行ってたぐらいだもんな。あと、俺が転移でちょくちょく顔を出すよと言った事もあるかも。
「ムスカリ君は俺と一緒に住むか?」
行く場所は無いだろう。それに、ムスカリ君の今後をとことん面倒みると決めている。
「いいの!?ありがとう。そうさせてもらうよ」
ムスカリ君は嬉しそうである。
「あ、母さんはどうする?」
「う~ん、私は少しやる事もあるからエルモンテスの街に戻るよ」
意外だった。母さんなら俺の側を離れないと思っていたが....
まあいいや。
ここにいる全員の今後、滞在する場所が決まった。
そして、楽しくも、色々考えさせられる時間が過ぎ....解散した。
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※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
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※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
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