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マルフィに起きた大異変

69話 まさかの光の大精霊召喚

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 ユリアナ視点(荒川恵美視点)

 氷魔法でアリシャを助けた直後
 

 大蛇をやり過ごした後、どこへ行くのか気になって探知をしてみた。
 さっきの様子だと、大蛇は一直線に何かに向かってるような.....目的があるように感じたから。

 すると、一直線にエルトロンへと向かってるのが分かったの。

 だから私達は別の道からエルトロンの所へ向ってみたら、空洞内に街があって、そこで大蛇がエルトロンに襲い掛かっていた。
 探知でその事を把握したら、居てもたってもいられなくなり......

 氷結流星フローズンメテオで大蛇を攻撃した。


 そして、エルトロンの元へ駆け寄ったが........

 目の前にいたのはエルトロンでは無かった。

 「た...助けて頂きありがとうございます.....」

 まるで神のような美しさの女性はそう言った。
 つり目にボブカット、ただし髪色は黄金色に赤が混じってる。
 服装は深紅色のジャケットに黒いズボン.....強気な顔つきも相まって、低姿勢な口調とのギャップに違和感を持った。


 何よりも......私の顔にそっくりである。
 隣にいるマルシャが「恵美ちゃん?」と呟いたぐらいに、よく似ている。

 おかしいな......
 私の探知魔法では、エルトロンの反応があったのだが。

 んん?? よく見たら、男の子を背負ってる。
 なんでこんな洞窟に男の子を背負って??見れば見るほど、突っ込みどころが増えていく。


 「無事だったみたいで良かったです......あ.....」



 目の前の女性の後ろにいる大蛇が、口を光らせてのけ反ってる。
 あ.....あれは、ブレスを吐く動作だわ!!
 あの大蛇のブレスの属性は光で、広範囲に広がるのが特徴だった。
 前回見た時は、一度のブレスで数千人が一遍に蒸発した威力.......

 ど..どうしよう!!


 と思った瞬間、身体がふわりと浮く感じがした。

 え、え?うわぁー!!!

 そのまま上空へと放り出され景色が目まぐるしく回る!
 マルシャもあの女性も全員、空中に放り出され、下にはブレスを吐きだす大蛇が見えた。

 おそらく、ブレス回避のため、マルシャが念動絹糸サイコスレッドで全員を放り出したのではないか。


 ズバァアアアアアン!!!

 耳をつんざくような轟音と共に、大蛇の前の空間が白く何も見えなくなった。
 眩しくて見ていられない!
 
 私は大蛇から眼を背けつつ、飛翔魔法を発動し、空中に静止した。

 あの女性と男の子は飛翔魔法を使えないようで、空中で狼狽えていたが、マルシャが念動絹糸サイコスレッドで捕まえ、空中に静止する。

 光が消えていくと、大蛇の前の地形が大きく消失していた。
 それどころか、空洞の端の壁にまで大穴が空いている。

 や....やっぱり勝てないかも......
 ニンファルで経験した恐怖が蘇る。

 あの大蛇はしっぽを優雅にヒラヒラしてる。
 さっきの氷結流星フローズンメテオが少しも効いて無い。

 ラーマクリスエルトロンの前世はどうやってあんな化け物を倒したの!?


 私が顔を引きつらせつつ、背中に嫌な汗をかいていると......

 大蛇がこちらを向いた。


 同時に、大蛇を中心に半径500mに及ぶ大きさの魔法陣が出現した。
 古代の街の半分を覆うほどの範囲だ。

 すると、大蛇の背後に......
 炎のような”光”が揺らめく鎧を着た、巨大な人間が浮かび上がった。

 もしかして、あれって光の大精霊じゃない!?


 まさかの大精霊召喚......

 なぜ、大精霊が魔物の味方をするの?そんなの今まで聴いたことが無い。
 もし、あれが大精霊だとするなら、私達に勝てるわけない。
 
 大精霊は属性の持つパワーの全てを供給する、源の存在。
 私の氷魔法も氷の大精霊の力が源になっている。
 精霊というのは元は一つなのだけれど、顕現体によってそのパワーは大きく異なる。

 あの光の大精霊は.......どう考えても私達の手に負えるような存在じゃない。

 
 大蛇の巨体の3分の2ほどの大きさだが、大蛇の背後で宙に浮く堂々たる佇まいは、私達に絶望をもたらした。
 大蛇とは比較にならないほどに。

 
 「うぅう......ユリアナ....次の転生で、また出会ったら仲良くしてね.....」
 マルシャが目をうるうるさせながら別れの言葉を言ってる。
 なに、その学校卒業の別れの挨拶みたいなの.....

 「諦めないで!!きっと、何か方法があるはず.....う!?」


 光の大精霊がいつのまにか目の前にいた。まさに光のスピードである。

 籠手こてのついた巨大な腕を私達全員に向ける。

 次の瞬間、大精霊の身体全体から握った拳へと光の束のようなものが無数に集中していく。
 何か撃ってくる!!躱せる距離じゃない。

 あぁ....もうダメだ.....

 と、私は自分の命を諦めた。マルシャ、巻き込んで本当にごめん。
 目の前の、私に似た女性も助けられなかった.......

 と、女性に眼を向けると......

 え??

 私に似た女性の周囲から漆黒のオーラのようなものがほとばしっている。
 すると、そのオーラは女性の目の前に集中しはじめ、1mほどの黒球になった。

 よく見ると、その黒球は高速回転しているようだ。


 「異界転送エーテルブラックホール

 目の前の女性は、ぼそっと呟いた。

 同時に、高速回転する黒球に合わせ、光の大精霊の腕が吸い込まれていく。

 一瞬にして片腕を飲み込んだ。

 光の大精霊は腕を飲み込まれたのが分かると、光の速度で後方に下がった。
 
 あのブラックホール....私達は吸い込まないのね。
 対象にのみ作用する魔法なのかな......

 って、この女性、闇魔法が使えるの!!?

 しかも、魔法陣も出現しなかった....え?じゃあ、この女性は神....?
 でも、闇魔法を使った所を見ると......まさか、邪神!?

 私には何が何やら分からない。
 
 ふと、マルシャの様子を見ようと、そちらに顔を向けたら.....
 そこにいたのはマルシャじゃなかった。

 青い目にウェーブがかった黒髪の長髪.....ストラウスである。
 マルシャはその後ろにいる。

 ぎゃーーー!!!
 なんでこんな所に!!?

 「助けにきた白馬の王子に向かって失礼ですね。全員さっさと離脱しますよ......ん?...な!!なぜ....」
 ストラウスが女性の顔を見た瞬間、顔を強張らせた。

 転移して逃げると思ったのか、光の大精霊はこちらに向かい両方の手のひらを合わせ、某地球育ちの戦闘民族の必殺技のような構えを取った。すでに腕は再生していたらしい。
 大蛇もこちらに向かってブレスを吐こうとしている。

 それを見たストラウスは、私達全員を転移させる。
 
 次の瞬間......目の前に例のマルフィの宮殿の大広間があった。

 「ぷはぁ....はぁはぁ....助けて..くれてありがとう。でも、なぜ、私達の場所が分かったの?」

 緊張が一気に解け、荒く息をしつつ、私はストラウスに聴いた。

 「いや、あれだけ大声で”(エルトロンの)位置が分かった!!”と、この大広間で叫べば、嫌でも聞こえますよ。廊下までユリアナの声は響いてました」


 .........私は恥ずかしくて顔が火照る。そりゃそうだよね。

 おそらく、ストラウスはエルトロンの詳しい場所が分からなかったので、私に探らせることにしたのだろう。だから、エルトロンがマルフィに入界した事を私達の前であからさまに話していたんだ。
 天使側の創造主の法則により私とエルトロンが引き合う力と、探知魔法が組み合わされば位置の把握も可能だろうと思ったに違いない。
 (なぜ、私が探知魔法を使えると分かったかは謎だが、以前、リーディング魔法の適正を見抜かれていたので分かってもおかしくない)

 「それで......なぜ、あなたがここに....セビュラ.....」

 ストラウスは女性の元にフラフラと親し気....いや、愛し気に近づきながら声をかける。

 「へ?? い、いえ、私の名前はアリシャですが.....」

 女性は困惑しつつそう答えた。
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