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マルフィに起きた大異変

61話 山形県にて天狗と遭遇

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 ストラウスが転移して、大広間にはソファーに座った私とマルシャしか居ない。 

「今聴いた話、どう思う?」
 マルシャが腕を組みつつ呟いた。

「全部は鵜呑みにできないけど、少なくとも、人間が動物や魔物に転生するようになった事は確かだよ。私、リーディングで実際に観たから。
 途方もない異変が世界に起きてるのは間違いないね」
 私は髪の毛先を触り気分を落ち着けつつ答える。

 「そうなんだ.......これからどうする?」

 「ストラウスが言っていた”彼”ってエルトロンの事だと思う。
 場合によっては戦闘になるかも、と聴かされた以上、放ってはおけない。
 ストラウスを見つけ出し同行するか、ストラウスよりも早くエルトロンと出会って危険を知らせることができればいいのだけど......」

 ただ、エルトロンと私が深く関わると、悪魔を駆逐するための大戦が父によって引き起こされるって話は気にかかる。

 もし、それが真実である場合、取り返しがつかない事になるかもしれない。
 ストラウスもメゾニエルも他の悪魔も、それほど悪い存在とは思えない。
 彼らが酷い目に合うのは避けたい。

 でも、エルトロンに危険を知らせたいし、できれば、今後の事を話し合いたい。
 そのために、どうしたらいいのだろう?

 あ........そうか。
 簡単な話だった。

 エルトロンと接触する役割をマルシャにしてもらえばいい。

 「もし、エルトロンの場所が分かったら、マルシャが代わりにエルトロンと話す役割をしてもらえるかな?お願い!」
 私は両手をパンッと合わせて、マルシャにお願いをした。

 「うん。いいよ~!」
 事情を理解しているためか、すんなりと了承してくれた。

 「ただ.......どうやってエルトロンを探そうか。ストラウスも正確な位置を把握できてないぽかったけど......」
 マルシャは頭を抱えて悩んでいる。


 私も腕を組んで一緒に考え込もうとした瞬間......

 心の内側から"探知魔法を使えばいい”という思いが湧いた。

 え!!?私、探知魔法なんて使ったこと無いけど。

 そういえば、覚醒してからドタバタが続いて忘れていたけど、私の事は私よりも高次元にいる誰かが見守ってくれているはずだ。これは天使の常識である。

 私を見守る存在からのアイデアだろうか?


 転生して荒川恵美としての個性が加わった事で、適性が広がったのかもしれない。
 何はともあれ、試みてみよう。
 

 以前、探知魔法の使い手からやり方を聴いたことがある。

 えーっと、確か、自分の身体から意識がはみ出し、世界を包み込むような感覚を持つように......


 私の意識が世界を包み込んだ感じがした瞬間、私の脳裏に山の映像が浮かんだ。
 同時に、私は思い出したかのようにその山の名前が分かった。

 山形県にある鳥海山だわ。
 親戚の家が山形にあって、この付近に何度か遊びに来た事がある。

 マルフィにもあるのね。
 それで.....その山の麓に洞窟があって、そこを進んでいけばエルトロンに会える....と。

 そこで探知魔法は切れ、なぜか、そこにいたる方角や道までも思い出したかのように当たり前に分かる状態になっていた。
 すごいじゃない、これ!!

 荒川恵美の性格である、神経質で、新しい場所に行くのに事前に調べなきゃ気が済まない性質が探知魔法を習得させたのかしら??

 「マルシャ!位置が分かったわ!!」
 喜びを爆発させ胸を張りつつ叫ぶ。
 
 「うわぁ!!............なんで分かるの?」
 突然私が叫んだので、マルシャはソファーの端まで飛び退き驚いた。

 「心の声のままに探知魔法を使ってみたら出来たの。あと、荒川恵美としての性格に探知魔法が合ってたみたい」
 
 「そ....そうなんだ。じゃあ、早速行って見ようか!」
 次の行く当てが見つかってマルシャも安心したようだ。

 あれ......性格といえば、私は荒川恵美としての性格は今でも残っているけど、マルシャは私の母、荒川恵梨香としての性格が残っていないように見える。
 なんでなんだろう......まあ、考えても仕方がない。

 今はエルトロンの所に速く向かわないと。

 危険を知らせたいのもあるが、やはり、愛する人の近くまでいける喜びが強い。
 直接は関われないかもしれないけど.......


 私達は駆け足で宮殿を出る。


 ・・・・・・・・

 ニンファルから連れ去られて最初に来た場所。
 悪魔の街を見渡せる高台まで来た。

 眼下にはピンクと白を基調とした可愛らしい街が広がっている。
 遠くには海と隣接した灰色の街が霞の中に少し見える。アースに意識を囚われた人間が無自覚に作り出した街だろう。

 
 ここが日本のどこに位置するのかはさっぱり分からないが、山形県の鳥海山の位置は手に取るように分かる。
 
 「あっちの方角へまっすぐ飛べば、山形県の鳥海山なの。その麓にある洞窟を進むとエルトロンと会えるみたい」
 緑の山々が聳える方角を、指を指しながらマルシャに説明する。

 「私達、マルフィの中で飛べるのかな?」
 もっともな疑問をマルシャが口にする。
 
 「さっき、ストラウスが”怒ってウラノスに飛び立たなくて良かった”って言ってたから、飛べるんじゃないかなぁ」
 
 といい、私は早速、飛翔魔法を使うべく、意識を集中させた。
 やり方は簡単。

 自身の身体が宙に持ち上がったような感覚を持つようにするだけである。
 すぐさま私の足元に魔法陣が広がり、体が宙に浮く。

 「やったぁーー!!」
 私はロングスカートを押さえつつ、空中でクルクル横に回った。
 
 続いてマルシャも飛翔した。
 久しぶりの飛翔なので、勝手を掴むために二人で空中を動き回ってみた。
 
 問題なく自由に動かす事ができる。
 

 「それじゃあ、山形県の鳥海山へしゅっぱーつ!!」

 ズギュン!!とロケットのような加速で私達は飛び出していった。
 

 
 霞がかった中、緑の山々や川などを眼下に見つつ、まっすぐ飛ぶ事10分ほど。
 鳥海山に到着した。

 私達は鳥海山の麓に近い駐車場のような場所に降り立つ。
 ただし、車は一つも見当たらない。

 ここからは歩いて2、3分だと思う。

 私達が洞窟の方向へ向けて歩き出そうとした......その時である。

 「お主ら、ここへ何用で参ったぁーーー!?」

 何かに大声で引き留められた。
 私達はビクっと体を震わせ、二人で体を寄せ合って周囲を確認した。

 少し霞がかった景色以外、何もいない。
 
 が.......その直後、背後でズガァアンと何かが落ちてきた音がした。
 咄嗟に私達は振り向く。

 そこには巨大な天狗がいた。
 赤い顔に長なすのような鼻、羽織を着て、高い下駄を履いている。
 どこからどうみても天狗としか言いようが無い。

 身長は2m50センチはあるのではないか。

 「客人とは珍しいな。儂はこの山の管理者をしておる、鳥海坊ちょうかいぼうと言う。お主らは?」

 「ユリアナです」
 「マルシャです」

 私達は緊張しつつお辞儀をした。
 
 マルフィの山々には天狗や様々な妖怪がいるというのは聴いたことがある。

 そして、その妖怪達の行動によりアースの山々に影響が及ぶとも。
 メルシアの龍達ほどの影響力は持っていないようだが、少しはアースに影響が及ぶらしい。
 時折、アースにいる霊感の強い人間がマルフィにいる妖怪達の姿を視る事がある。

 ちなみに、マルフィの妖怪達は神庁とは全く関りが無く、神庁もマルフィの妖怪達とは関係を持っていない。
 それは、天使側の創造主が天使達にマルフィを意識させないようにしているからだと思う。

 「もう一度問うが、何用で参ったのじゃ?」

 「私の探している人が鳥海山の洞窟の奥にいるみたいで.....その人に会うために来ました」

 
 「洞窟?ああ、ディ..ディ..メ..ルバ..ケ..ケイブのことじゃな」
 発音が上手くいかないのを煩わしそうに口にした。

 「ディディメルバケケイブ?」
 私が聞きなおす。

 「いや、ディ...メ..メルバ...ケイ...ケイ...ブ。横文字は言いにくいのぉ!!誰がこんな名前つけたんじゃ!!」

 「ディメルバケイブ、ね」
 マルシャが鳥海坊に助け船を出した。
 
 「そう、ソレじゃ!あそこは他世界への入り口じゃが....今は魔物が湧いていて危険じゃよ。あの洞窟から魔物が這い出てきては、儂や他のみんなで退治しておるんじゃ。
 封鎖してもすぐに元通りになっちまうし、困ったもんじゃ」

 「魔物が出るの.....?」
 予想外の事に私は顔を引きつらせる。

 「あぁ.....それはもうアホみたいに。それでも行くなら止めんが、気いつけてな。お主らが魔物を駆除する力量があるなら、できるだけ退治していってくるとありがたい。お主ら、マルフイより高次の場所から来たのじゃろ?」
 マルフィが発音できず、マルフイと言っている。

 「え、なんで分かるんですか?」
 鳥海坊が分かった理由は何となく分かるが、マルシャが驚いて見せた。

 「さっきお主ら、空を飛んできたじゃろ。マルフイで飛翔できるのはここよりも高次の存在に限られる。まあ、儂も飛べるがな!!」
 天狗らしく、顎を持ち上げた鼻高々にしている。

 「それに、お主らのようなベッピンさんは高次の世界の存在と決まっておる。それじゃ、探し人に会えるといいの.....」
 天狗は少し屈むと、ズドオォンという音をさせ、異常な跳躍力で天高くまで跳び、山の中腹へと入っていった。

 
 良い天狗さんだったようで本当に良かった。
 できるだけ争い事は避けたいから。

 私達は引き続き洞窟へと歩き始めた。
 その洞窟はディメルバケイブと言うらしいが。
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