上 下
58 / 83
マルフィに起きた大異変

58話 カウンター型の時間魔法

しおりを挟む
 あの黒球に触れたら私は一瞬で消えちゃうの?
 マルフィで肉体を無くしたら、私はどうなるのだろう?

 様々な考えが脳裏をよぎるが、その全てが私にとって足枷になるのは間違いない。
 真相界においては恐怖に突き動かされた行動は最悪の結果を産む。

 
 だが、やはり死への恐怖は大きい。
 特に得体のしれない攻撃によるものなら尚更である。

 怖いよぅ........
 
 ああ!!
 足がすくんでいる間に、ヤギミイラが二つ目の黒球を飛ばしてきた!!
 
 足をもつれさせながら、横に一回転しつつ回避した。
 回避中に、私達の元居た場所を黒球が跡形も無く消失させたのが見えた。

 背中のムスカリ君は大丈夫だろうか?でも、周さんの魔法障壁のお陰なのか、いくら地面に体を打ち付けても痛く無い。おそらく、ムスカリ君も同様だろう。

 その事実に周さんの存在を感じて、少しだけ冷静さを取り戻してきた。

 
 ヤギミイラの動きをしっかり見れば対処できるはず!!

 と、アイツが三つ目の黒球を飛ばす瞬間を見定めようと目を向ける。

 ヤギミイラは視線の先にいて、ただ立っているだけだ。
 まだ次の攻撃はしないのかしら?

 が.......何か違和感を感じた。

 アイツの傍に黒球が残り2つ浮かんでいるはずなのだけど、1つしか浮かんでいない。


 え.........ウソ......

 その事実に私の背筋は凍り付く。

 周囲を見渡そうと左を見ると、すでに50センチほどの距離まで黒球が迫ってる!?

 直線に飛ぶ黒球に私の注意を引きつけ、別の黒球を操作し私の視界の外から飛ばしていたらしい。

 もはや回避など出来るはずもない。



 思わず両手で全面を庇い、顔を背け目を瞑った。

 ごめん、ムスカリ君....周さん.........
 

 そして、私の脳裏には走馬灯が灰色の映像で一気に流れる。

 アースに居た時にいつまでも母親の帰りを待っていたこと。
 アナント君のこと。私に声をかけたおじさんのこと。
 写真家を目指していた時のこと。
 ヨガ教室をしていた時のこと。
 ヒマラヤでの最後のこと。
 グランディで友達が沢山出来たこと。
 看護師の仕事が楽しかったこと。
 周さんに会った事......


 ん??..........走馬灯長すぎない??

 私は黒球の方に顔を向ける。
 黒球はダンゴムシが歩くほどの速さで接近してきている。
 
 なぜだか、世界がスローモーションになっていた。

 視界の片隅で地面が光っていたので目を向けると、足元の魔法陣だった。
 私が目を向けた瞬間、魔法陣は消えた。

 ふらつきつつ、急いで黒球の直撃ルートから回避した。
 ミイラも黒球もいない場所へと10mほど離れた場所へ移動する。

 私が回避した後も、まだ黒球はノロノロと進んでいっている。

 これは周さんが私を通じて発動してくれたのかしら。
 魔法陣が出たという事は、私が時間魔法を習得できたってこと?

 すると、心の内側から

 ”時間をスローにする方法は、世界の速度が落ちたようイメージするのみ。ただ、この魔法に関しては分からない事が多いから過信しない方がいい”

 という思いが湧いてきた。
 おそらく、周さんからの助言だろう。

 はぁはぁ........今になって緊張が解け、息切れがした。

 どうやらムスカリ君はスローモーションの状態でも普通に動けるみたい。
 今も、この状況に戸惑ってキョロキョロしつつ私にしがみついてる。

 普通に動けるのは、発動者である私の身体と接触していたからなのかな?

 分からない事が多い。


 一番気になるのは、このスローモーションはいつまで続くのかなってこと。
 それもまだ分からないから、今できることをしておこう。

 今の内にムスカリ君を物陰に連れていって隠れていてもらう事にした。
 強化された足で大岩の陰にムスカリ君を隠す。

 心細そうな顔をしていたが、おそらく、私といるよりも遥かに安全だろう。
 今だって二人まとめて死にそうになってたんだから。

 万が一.....私がやられても、もしかしたら周さんが助ける事もできるかもしれないし。

 
 私はムスカリ君を隠した後に、ムスカリ君を隠した場所から離れる。
 スローモーションが続く内にヤギミイラを攻撃する事を考えた。
 
 が...........その瞬間、スローモーションが解けた!!?

 黒球の速度が戻り、私が元居た場所へと着弾した。
 黒球は直径3メートル付近まで膨れ上がり、無音のまま地面をえぐり取った。
 音を伝える空気まで飲み込んでいるのかもしれない。

 
 ヤギミイラを遠目から観ると動揺の色が初めて伺えた。
 一瞬、私を見失い周囲を見渡していたが、私を見つけたようだ。
 私の背にムスカリ君がいない事に関してどう考えているのかは分からない。

 
 うーん.....こんなことなら私も別の場所に隠れておくべきだった。
 まあ、スローモーションが解ける条件なんて知らないから、仕方がない。

 
 それにしても.......

 私がヤギミイラへの攻撃方法を考えた瞬間、スローモーションが解けた。
 攻撃しようという意図とスローモーションは共存できないということ?

 となると、攻撃手段は通常時に考える必要がある。
 
 実質、戦闘においてスローモーション自体は回避にしか使えないということだ。
 
 しかし、逆を言えば、通常時にスローモーションが解けた後の攻撃手段を考えておけば、姿を隠した場所から奇襲をかけられるということなのだろうか?

 私の貧弱な攻撃でもダメージを与えられるかも!

 
 私は側にあるボーリングの球ほどの岩石を片手で持った。
 強化された力によってグッと指を岩にめり込ませ、しっかり掴む。

 試しにそのままの状態で時間がスローになったイメージをする。

 が.........何も起こらない。やはり攻撃の意図があるからだろう。


 私を発見し観察していた様子のヤギミイラだったが、残りの1つの黒球をこちらに発射してきた。

 私は急いで世界がスローになるイメージをする。
 この場合、ミイラや黒球がゆっくり動くのを脳裏に思い浮かべる。

 黒球がピタリと動きを止めた。
 そしてダンゴ虫が歩くような速度へと変わった。
 ヤギミイラはいつも動きが少ないから分かりづらいが、他のミイラが変な姿勢のまま、すごくゆっくりと動いている。


 やったぁ!!!スローモーションになった!!

 現状では、これは、回避・カウンター型の能力といっても良いかもしれない。
 相手からの攻撃に対してじゃないと発動できないのかも。
 まだ全然よく分からないけど。

 私は大きい岩を片手に持ち、ヤギミイラの15メートルほど後方へと走って移動した。

 そして、この岩が砲弾のように飛び、ヤギミイラの仮面の後頭部に直撃するイメージを浮かべた。

 瞬間、スローモーションが解ける。
 同時に、私の手のひらに魔法陣が描かれ、岩石はヤギミイラの後頭部へと一直線に飛び......

 ボグゥッ!という鈍い音と共に直撃した!!!
 
 ヤギミイラの仮面は砕け散り、前に両手両膝をつき倒れる。
 黒球も私が元居た場所へと着弾し、地面を抉り消失したのが見えた。

 
 うふふふ......やっと一矢報いてやったわぁ!!!

 ん.....?ヤギミイラの仮面が粉々になった後、黄土色の何かが出てきた。
 え、あれって、金髪?

 後頭部が少し陥没して、血を流しているが、あれは紛れもなく金髪である。
 え、え、なんで??

 ヤギミイラはゆっくり立ち上がり.......こちらへと向き直った。

 少し長めでウェーブがかったボサボサの金髪、無精ひげの生えた顎、ニヤリと笑うその表情。
 その顔は紛れもなく人間だった。欧米の顔つきだわ。

 ただ..........眼だけは人間とは違い、白目に当たる部分が赤かった。
 結膜炎とかそういうレベルじゃなく、完全に真っ赤である。



 「ハハッ......こんな場所で人間に会うと思わなかったよ。お前も俺を拷問しに来たのか?」

 目の前の”人間”が言葉を発した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...