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マルフィに起きた大異変

54話 洞窟内で魔物に遭遇しただと!?

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 二人の姿を見送った後、手ごろな岩に腰を下ろし胡坐あぐらを組んで瞑想の姿勢を取った。
 アリシャを思い浮かべる。
 
 その瞬間、俺の脳裏にアリシャと同じ視界が開けた。

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 アリシャ視点

 周さんの前では強がってみたけど、やっぱり少し怖い。
 ていうか、トンネルの中暗すぎじゃない!?

 どうやって前に進んでいけばいいのかな?

 少しでも明かりがあればいいんだけど......

 と思った瞬間、私の脳裏にトンネルの壁全体が光り輝くイメージが浮かんだ。
 
 直後、トンネル全体が実際に輝き、暗かった先の方まで見渡すことができた。
 トンネルの中なのに、真昼のようである。

 す..すごい!!これが天使の力なのね。
 隣で手をつないでいるムスカリ君も「うわぁ」と言って驚いている。

 明るくなって分かったけど、トンネルの内部は漆黒の壁に覆われている。
 ただ、近くでよく見てみると漆黒の中にも虹色が浮いて見えて綺麗だ。

 私達は足元を探りながら慎重に足を進めていく。
 道などは無く、足場は異常に悪い。
 
 「ムスカリ君、ゆっくりで大丈夫だからね」
 「うんっ!」
 なにこの可愛い子。おばちゃんとろけちゃいそうよ。
 アースでは子供を産まなかったし、それほど好きというわけじゃなかったけど、子供ってこんなに可愛いのね。
 
 20年のグランディ生活で容姿も変わってきたけど、考え方も変わってきた。
 子供を可愛く思うようになったのはそれも関係してるのかな。

 何があっても私があなたを守ってあげる!!

 っていう、母性が湧いてくる。


 それにしても、このトンネルってどこまで続くのかな。

 もう少し速く進めると良いのだけど.....
 と思った瞬間、私の脳裏に一つのアイデアが閃いた。

 足を強化しムスカリ君を背負って進めばいい!

 へ??私、そんな魔法使えない....

 と思っている間に、体は自然と足に手を添え、脳裏には岩から岩へと飛び移り高速で移動する私の姿が思い浮かんでいる。

 足元に魔法陣が浮かび、私の足が何か固いもので包まれた感じがした。
 パッと見何もないけれど。

 そうだ。こけた時のため魔法障壁も二人にかけておこう。

 という考えが浮かんだ。

 ええ!?そんな魔法、私、使えないよ!?

 すると、静電気が皮膚の表面をなぞったようなぞわっとした感じの後、体の周囲に透明の膜が出現した。ムスカリ君にも出てきた。
 今回は魔法陣は現れなかったけど。

 足を強化するのも、魔法障壁についても、周さんがやったに違いない。
 魔法陣が出る、出ないの違いはよく分からないけれど....

 そう思った瞬間、私の脳裏に、

 ”魔法陣が出るのは私自身を通じて周さんが発動した魔法で、また、周さんをきっかけにその魔法に私自身が目覚めたことを意味する。
 魔法障壁の方は、私を通じては発動できなかったので、周さんが発動した”

 という考えが浮かんできた。
 
 これは....周さんの考えが私に共有されているのかな。
 
 魔法の発動を通じ、周さんが近くに感じられて安心感が強まった。
 これならどんなことがあっても乗り越えられる気がする!

 早速、ムスカリ君を背負い、目標とする岩へと飛び移ってみた。
 
 ズドン!!という音がしそうな勢いで、ムスカリ君を背負った私の身体が飛び上がった。
 ここのトンネルは天井まで20メートル近くありそうなので、頭をぶつける心配は無い。
 8メートルほど先の岩へと着地。すぐさま、次の岩へ飛び上がり...着地。

 ぐふふ.....これなら早くトンネルを抜けられそうね。
 周さん、ありがとう!!


 そうやって進むこと5分ぐらい。

 大空洞の崖のような場所に出た。
 崖の途中に穴があり、私達はその穴からこの空洞に出てきた。

 左斜め方向を観ると、壁から湧き水のようなものが出てきて、池を作っている。
 今は視界の範囲のトンネルが照らされているので、水の色まで見ることができ、紺色と紫色の混じった美しい色合いだった。

 遠い真正面向こうには、見通す事ができない大穴がポッカリと口を開けている。
 

 地面までは一軒家の屋根から飛び降りるぐらいの高さがあるけど、今の足なら問題ないだろう。
 
 ムスカリ君を背負い、ざっ!という音を立てて着地する。
 膝まで覆っている何か固いものが衝撃を吸収してくれた。

 
 湧き水が小規模の滝のように流れ込んでいるが、水が少しずつどこからか抜けているのか、水位は増えないらしい。
 美しい自然の芸術を横目に進もうとしたら、視界の片隅で何かが動いた。
 池のあたりである。

 私はビクっとした後、池をジーっと食い入るように見つめた。
 池の中央あたりに先ほどは無かった、黄土色の球体がある。

 え!!?それはアザラシにタツノオトシゴのような口がついた、異形の生物であった。
 頭の大きさはサッカーボールほど。

 ひ...ひぃ!!な..なに!?あれ......

 私は恐怖のあまり固まる。
 背中のムスカリ君は大丈夫だろうか。

 アザラシは黒い目をキュッと尖らせたかと思うと、顔を少しのけ反らせ......

 水球を吐き出してきた!?

 私は反射的にジャンプして回避した。
 元居た場所に水球が直撃し、ズガァアン!という音をあげて岩が砕ける。

 私は空中でその様を観て、寒気がした。

 攻撃してきた!?
 
 私はグランディに来てから優しい世界にずっといたので、精神的に攻撃されることすらも無かった。ましてや、このように命を狙われ攻撃されるなんて体験はアースでも無い。

 大いに動揺した。ど、どうしよう。まさかこんな生き物に遭遇するなんて!!
 
 私が別の場所に着地した瞬間、アザラシは次の水球を吐き出してきた。
 今度は、4、5回ほど吐き出したように見えた!

 私は無我夢中で大岩の後ろに隠れる。

 水球が当たり、大岩を揺るがすような音と振動が私の背中越しからやってくる。
 アザラシはマシンガンのように水球を連射しているようだ。

 私は震えながらパニックになっていた。

 こ..怖い怖い怖い!!誰か助けて.....



 私が恐怖に支配されるその瞬間だった。


 アースで海外の旅行先でパスポート入りの財布を無くし、パニックになった時の出来事が脳裏に浮かんだのである。

 その時は、パニックを瞑想でおさめ心の動揺が消え去ると同時に、ふと目を向けたゴミ捨て場に、財布が置いてあった。財布の中身を観てみると、無くした時そのままの状態だった。
 ゴミ捨て場に置いてある財布は、まるで誰かが”ゴミ”と紛れさせることで保護したかのようだった。

 その時の出来事を思い出し、私は大岩に隠れ、心を落ち着けることにした。
 瞑想状態に心を持っていくのは50年ほどの経験があり慣れている。

 恐怖がおさまっていくのと同時に、一つの考えが浮かんだ。

 
 心をコントロールし不動のものにする事で、相手の水球を操ることできるのではないか?

 という考えだ。
 私には全く身に覚えのない考えなので、これは周さんの考えだと思う。

 同時に

 ”真相界というのは精神が主の世界なので、相手の攻撃に心が動揺しなければ対処が可能になり、相手の攻撃すらも利用することができる。その際にはイメージにより攻撃を変換すればいい”

 という解説が脳裏に浮かんだ。

 
 周さんがそう言うなら、きっとできるのだろう。

 私は動揺を抑えつつ、その上で、アザラシの撃ち出した水球がアザラシへと返っていくイメージを浮かべた。すると、突然、私の足元に魔法陣が広がった。

 と、同時に、大岩越しに「キュー!!?」という鳴き声とバッシャーン!!という水の音が聴こえて、大岩への水球の連射が止まった。

 どうやら試みは成功したらしい。


 ア...アザラシさん大丈夫かしら。
 私は大岩から顔を覗かせてみた。

 水球を食らったアザラシさんは仰向けに池に浮いていた。
 
 が......すぐに体を起こし、こちらにキュッと黒い目を尖らせた。
 私は心の動揺を鎮める。
 
 アザラシさんを殺したくないので、無力化しないといけない。
 
 と、次の瞬間、アザラシさんは再度水球を撃ち出してきた。
 
 きゃー!!
 と、いつもなら悲鳴を上げる所だけど、今の私なら大丈夫。
 
 私は水球がアザラシさんの元に返っていき、水の頑丈な檻になるようイメージした。
 魔法陣が足元に出現し、同時に、撃ち出された水球はアザラシさんへと向かい、当たる直前で広がりパクっとアザラシさんを包み込んで檻になった。
 ふわふわと宙に浮かんでいる。

 アザラシさんはきゅーきゅー言いながら暴れるが出る事ができないらしい。

 こう見てみるとすごく可愛い。でも、狂暴なのよね。
 
 ただ.....どうしよう。こんな生き物がいるなんて、この先進むべきなのかしら。
 ムスカリ君はアザラシが捕らえられた事で、少し落ち着きを取り戻したみたい。

 ん?あれ.......?

 私は奇妙な事に気が付いた。

 私の手の形....さっきと少し違うような。
 私の手はもう少し丸みがあったんだけど、今は少しホッソリとしてる。

 髪の色も、黒髪にほんの少し赤みがかかったような。
 な、なにこれ!!?


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 【アリシャをサポートする野田周視点】

 ま、まさかこんな化け物に出会うなんて。

 アリシャとムスカリ君を危険にさらしちまった。

 俺が動揺した分だけ、アリシャの動揺を煽っちまった。
 反省だ。

 それにしても、

  ”真相界というのは精神が主の世界なので、相手の攻撃に心が動揺しなければ対処が可能になり、相手の攻撃すらも利用することができる。その際にはイメージにより攻撃を変換すればいい”
 なんてアイデア、俺じゃ思いつかない。
 
 イドのアイデアなのだろうか?

 アリシャのつちかってきた力を見抜いた上での、最高の解決策だと思う。
 俺がただ助けるだけじゃなく、アリシャの成長にとっても最善なやり方だと感じた。

 ただ、あんな魔物に出会うんじゃ、これ以上進ませるわけにはいかない。
 二人を俺達の所まで戻そう。

 って、あれ.......なんか、アリシャの様子が変わってないか??
 
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