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人類の見守り役

47話 アガパンサとでオーラの観え方が違う.....だと!?

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 44話の続き

 野田周視点


 「見てると、バラックとメルミアが同じ人間とは全く思えないわね。あの子すっごく可愛いし。争い事は嫌いそうよ」
 ソファーに座るロマルスに、壁に背をもたれさせながらマルファーニが言う。

 「そうだね。バラックとしての前世を思い出した時、メルミアは受け入れられるのだろうか?そこは少し心配だと思う」
 ロマルスは両手を組み豪快な髭の顎を乗せ、神妙な顔で言う。

 「最近、私はアースの木下吾郎としての過去を思い出したけど、それとは比較にならないほどの変化が起こるんじゃないかしら」

 「僕は木下吾郎にも神にも感謝しなければならない。以前の君は烈火のようだったけど、今は炎の如き一凛の緋色の花だ。はぁ.....君はどこまで美しくなるんだろう......」
 ロマルスはマルファーニに熱視線を浴びせる。

 「ちょ.....ちょっと、やめてよ........」
 マルファーニは顔を赤くして俯く。

 「そういう反応も素敵すぎる。以前の君であれば、僕がこんな事を言えば、すでに僕は壁にめり込んでいただろうに」

 「ちょっと前の自分を思い返すと、あの頃の自分が怖いわ。なんであんなにイライラしてたんだろう?木下吾郎としての私は冷静で穏やかな性格だったから、それが私の個性に加わったのね。まあ、それでもまだまだ激しい性格だと思うけど......あははっ!」
 マルファーニは天心爛漫そうな表情で笑う。ロマルスが首ったけになるのも分かる女神のような笑顔である。

 「バラックは僕達だけじゃなくて、色々な人間や魔族相手にすら恐れられていたからな。暴力の化身としての自分を思い出せば、その影響はメルミアとしての人格を塗りつぶすかもしれない。
 そうなった時を考えると、正直、恐ろしいな」

 「それでも私達はやらなきゃいけないわね。いざとなったら私がメルミアを抑える必要があるかも。だからこそ、私が彼女の面倒見役になってるんじゃない?
 前世では暴力の化身だったのに、今世では魔物を鎮める力を持つなんて........神様のいたずらどころじゃなくて、神様の犯罪といってもいいかも」

 「あ、魔物と言えば........やけに君の帰りが速かったけど、ビツラウラ洞窟にはあまり魔物はいなかったのかい?」

 「魔物だらけだったわよ。信じてもらえるか分からないけど、早く帰れたのは.........突然、ワープしてベルガモア帝国に着いたからなの。私自身、今でも不思議で仕方がないのだけど」
 マルファーニは顔を斜めに傾げている。ワープ.....転移っていう概念に不慣れそうな表現だ。ニンファルにおいては転移できる人間はいないのだろうか?

 「ワープしてきたのか。まあ、君は色々と奇跡を起こすからな。僕はそれほど驚かないよ」

 「奇跡といえば、もう一つ。”スローター”と洞窟内で遭遇したの。かなり危なかったんだけど、突然、私の髪色と体がオレンジと銀が混ざったような色で輝き出して、スローターに勝つことができたわ........といっても、勝てそうな瞬間、ワープしてベルガモアに居たんだけど」

 「”スローター”と出会ったのか!!まさかそんな化け物に出会うとは.....無事で本当に良かった」ロマルスはマルファーニの元に駆け寄った。最愛の女性を失っていたかもしれない危機感を”スローター”という言葉に感じたらしい。ロマルスはマルファーニを抱きしめる。

 「でも、あのスローターはなんか変だった。攻撃魔法でミサイルを飛ばしてきたのだけど、そのミサイルはアースの旧日本軍が使っていたようなデザインだった。一体、どういうことなのかしら?」
 ロマルスに抱きしめられたまま、マルファーニは考え込んでいる。
 
 「僕はアースについて知らないが、あの化け物が文明的な攻撃をしてくるのは過去に例が無いと思う」

 「ええ。それ以外にも、あのスローターはカニとは思えない優れた動きをしてたの。まるで人間を相手にしてるみたいだった」

 「そんな化け物が地上に現れたら大変だろうな。でも、そんな化け物にも君は打ち勝つ事ができたんだから、すごいよ」
 マルファーニの髪をよしよしと撫でる。

 「もう少しで仕留められたんだけど、惜しかった。スローターを倒せたならもう数段強くなれるのは確実だったのに......」
 ロマルスの手を振り払ったあと、悔しそうに言った。

 「魔物が強いほど倒せば力が増すからね。昔はそうじゃなかったらしいけど、何でそうなったんだろうね?考えてみると不思議だな」

 そうか。やっぱり魔物を倒すと力が増すのか。ゲームのような世界だな。ただ、ロマルスの口ぶりからすると昔はそうではなかったらしい。一体なぜそんなことになったんだろう?


 「分からない。だけど倒して力が増すならそれは正しい事なんだと思う。今は魔物が人間を頻繁に襲うし、私が力をつけておかないと......
 あ!!そういえば、メルミアを助けようとした時、人間が邪魔をしに突然現れて戦闘になったの。私が追いつめたら消えちゃったけど....」

 「人間?メルミアをあの洞窟に連れ去った奴なのかな?」

 「いえ、それだったら、わざわざ私と戦わないと思う。はじめから、メルミアをもっと他の場所に連れ去る事ができたはずよ。多分、洞窟へと攫ってきた人間が他にいるんじゃないかしら?」

 「メルミアをビツラウラ洞窟に攫ってきた人間か..........見当もつかないな」

 
 「マハトーラを襲った人間から保護するためか、あるいは、私達にメルミアを発見させるためか.....メルミアを攫った人間がどういう意図を持っていたか分からないけどね」

 「まあ、今はそれを判断する材料も無さそうだし、マハトーラの言う通り、メルミアの覚醒に集中するしかないな」

 え!?この二人がメルミアの課題点が”複雑な概念を理解できる知能を向上させること”って知っていたのは、メルミアの父親が二人にそれを教えたからなのか?
 マハトーラ.....一体何者なのだろう。
 
 「そうね。まずは学校に通わせて、必要なら私が家庭教師をするのもいいかもしれない」

 「君は前世では優秀な教師だったからね。その経験を活かせるのも素晴らしい巡り合わせだと思う。ああ、僕がメルミアの立場になれたらどんなにいいだろう........」
 そう言うと、またマルファーニの唇にキスをした。
 
 「んんーーー!?」
 マルファーニは口を塞がれたままロマルスの不意打ちに驚きの声を漏らした後、また、ロマルスをソファーへと投げ飛ばした。

 ロマルスは心底幸せそうな顔でソファーで仰向けに倒れている。

 何だかんだ、この二人は仲がいいな。しかも、ただ仲がいいだけじゃない、強い繋がりを感じる。
 輪廻転生で何度も巡り合うっていうのはそれだけの縁があるってことなのだろうか。



 

 メルミアを攫ってきた人間やら、マハトーラの事やら、めちゃくちゃ気になるが、ムスカリ君の事を忘れてはいけない。
 また機会があればこの件がどうなったかを見に来よう。

 《よし、そろそろ帰ろうか。石橋さんの同僚やマルファーニにも影響を与える事ができたみたいだし、後は、俺の代わりの人間を相手に本番で実践するのでも問題ないか?》
 マルファーニとロマルスのキスを再度見て、隣で気まずそうにしていたアガパンサに確認する。

 《はい!周さんの導きは素晴らしかったです。私も見習わなきゃと思うことが沢山ありました。では、帰りましょう》
 アガパンサがそう言うと..........次の瞬間、俺たちはアガパンサの別邸のソファーに座っていた。目の前には大窓からの透明感のある光を発する、美しい花畑が見える。

 「あ、二人とも帰ってこられたわ!」というニルバナの声が後ろから聴こえた。


 「ふーっ!あれだけ別の世界を堪能してきて、帰りは一瞬だってのはまだ慣れないな。アースでは乗り物を乗り継いで何時間もかかったりするから......」
 身体は凝っていないが、何となく伸びをしながら俺は言う。

 「うふふっ、大丈夫ですよ。周さんもこれから転移で色々な場所に行かれるでしょうから、すぐに慣れると思います」
 アガパンサは口元に手をあてておしとやかに笑った。なんでこんなに上品なんだろう。あと、何かアガパンサの立つ距離がやけに近くて、冷涼感のある甘い香りがして困るのだが。

 
 「しかし、マルファーニから赤黒いオーラが出た時は、この勇者大丈夫かなって思ったけど、話を聴いていると案外優しそうだったな」

 「え、マルファーニから赤黒いオーラなんて出てました??私には美しい銀色のオーラが観えてましたけど......」


 なに........!?

 オーラの見え方にはそんな個人差があるのか?
 赤黒いのと美しい銀色とでは、個人差とかいうレベルじゃないんだが。

 「そ、そうなのか?じゃあ、メレディスとか言う女性はどう観えた??」
 俺は戸惑いながら尋ねる。

 「赤黒いオーラを出しておりました.........だから、メレディスという女性を助けた時、周さんは人間性で差別をしないお優しい人なんだわと感じておりましたよ」

 まあ、赤黒いオーラを出していようがいまいが助けていたかもしれないが、やはりアガパンサと俺では根本的にオーラの観え方が違うことがあるようだ。

 といっても、ここで俺流のオーラの観え方を主張しても仕方がない。

 「そうか........俺の見間違えかな。気にしないでくれ。アガパンサにそういってもらえるなら嬉しいよ。ありがとう」

 そう言うと、アガパンサは嬉しそうにほほ笑んだ。
 オーラの観え方が違う件に関してはとりあえず置いておこう。

 

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