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妖精界の騒乱

29話 破壊神イド

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 俺が怒号を発した事で周囲が静まり返っている。
 この場にいる全員が俺の豹変に驚いているようだ。実体を引きずりだそうとしたアガパンサですらも.......

 「ムカつくぜ........気分は最低だ。全部オメーが悪りぃんだからな、アガパンサ」
 
 

 俺はこの屋敷が大爆発し跡形も残らないようイメージした。
 その瞬間、周囲は爆発の炎に包まれ、隣の壁が吹き飛び、天井が浮いた。

 ドバァアアアァアアン!!!

 耳をつんざくような轟音が響き、建物は木っ端みじんになる。



 ........................


 舞い降りてくる雪。
 俺の深紅色のオーラに触れると融けて消えた。

 目の前にいる連中はそうもいかないようだが。


 
 どうやら野田周がニルバナとルーティア、アテナ、ムスカリ.....そして、アガパンサにまで魔法障壁をかけたらしい。

 アァ?何やってんだアイツ、お人よしにもほどがあるだろ。
 まあ、アガパンサなら魔法障壁なんてかけずとも生き残るけどな。



 「あなたエルトロンじゃないわね.............なんなの?」
 アガパンサが張り詰めた表情で私邸を吹っ飛ばした俺を睨む。
 龍にしておくにはもったいないイイ女だ。

 「俺をあんなヘタレと一緒にすんな。名前なんざドーでもいいんだが、俺は破壊神のイドとか呼ばれている」

 「イド!?1200万年前の大戦以降消えたと聴いていたけど......」

 「神に死が存在し無いのはオメーも知ってるだろうよ。俺が入れるぐらいお人よしの器さえあれば、いつでもそこに現れるさ。たく..............親父も面倒な法則を創ったもんだ」

 「メグルさんはどこに行ってしまったんですか!!?」
 ニルバナとかいう妖精が俺に向かい、顔を赤くして叫ぶ。
 俺はロリ趣味じゃねーがこの嬢ちゃんは可愛いな。んあ??コイツは.........もしかして................まあ、いいか。

 「野田周は俺の中にいる。だが、もう表に現れる事は無い。俺が現れたという事は野田周としてのお役目はゴメンだからだな。今まで周に神としての力を貸し与えていたのは俺だ。今度は俺が自分のために神の力を使ってやる」

 「っ!!.........」
 嬢ちゃんはショックを受けすぎて言葉も無いようだ。

 「アハハ、ニルバナ。見たでしょ?人間なんてどれほど良い人間に見えても、こんな化け物の器になるどうしようもない存在なのよ」
 これ以上ないドヤ顔で言うアガパンサ。俺のこと言えねえぐらいコイツも変わったみたいだが。

 「お褒め頂きありがとう。さあて、アガパンサ。そろそろパーティーの時間だぜぇ!!」

 俺はアガパンサが向こうの崖まで吹っ飛ぶイメージを浮かべた。
 まあ、目には目をってヤツだ。さっきは良くも壁に寝んねさせてくれたじゃねえか!!
 瞬時にアガパンサは吹っ飛び向こうの崖へ激突した。

 ズガアァアアアアン!!

 という音を立て、巨大な崖の一角が大きく抉れた。
 それと同時に、衝撃で飛散している岩の全てを灼熱の光球に変え、アガパンサのいる場所へと衝突させるイメージをした。
 瞬時に衝突の衝撃で宙を舞っていた岩の全てが灼熱の光球に変わり、アガパンサのいる場所に襲い掛かる。
 
 再度、ズドオォ!ドガァ!ドッドドドドドォ!!!と地響きのように連続して爆発が起こる。

 アイツ野田周は相手を傷つけることに抵抗がありすぎて、イメージ神としての力を自由に扱えていなかった。が、そんな抵抗の無い俺には自由に扱うことができる。

 光球の全てが撃ち込まれ、辺りに静寂が訪れる。

 「ア、アガパンサ様....嫌ぁ...」
 「アガパンサ様ー!!!」
 妖精達二人があの女を心配しているようだ。
 
 
 コイツらはあの女の正体を知らないのか?

 アガパンサはこんなもんで死ぬような女じゃない。
 メルシアでは龍として顕現しているらしいが、その実体はヘリオグラープという男神だ。
 実体と顕現体けんげんたいで性別が異なることはよくある。
 ただ、龍として顕現しているのはヘリオの性質が関係しているだろう。

 この辺りの妖精界全土に吹雪を起こすことが出来たのも、神としての力が関係している。




 ヘリオ............信じていたんだが。

 俺を陥れたアイツの顕現体とこうしてやりあっているのも何か意味があるのかもな。チッ........気に食わねえ!!

 瓦礫の隙間から青いオーラが一瞬漏れたかと思うと、瞬時に、俺の背後にアガパンサが転移してきた。神の領域にいない人間にはオーラが見えず、ただアガパンサが出現したように見えるだろう。
 神同士では互いのオーラを認識することで次の行動を予測できる。

 ア?青いオーラが周辺の雪に見え始めた。
 ガチガチッ!という音を立てながら、ブルジョワ趣味の槍に変形していく。
 心格とかいう階級主義のアイツらしい趣味だ。

 アガパンサは俺から半径10mほどの地面に積もる雪を無数の氷の槍に変え、飛ばしてきた。
 俺は今の場所から上空20mに転移する。

 眼下にはアガパンサや他の連中、瓦礫と化した豪邸が観える。


 ん?視界の隅で、俺の背後に青いオーラがちらつくのが見えた。
 俺が振り向くと氷の大きい結晶のような物が浮かんでいる。
 
 チィッ!!読んでやがったか!

 大きな氷の結晶はパアァアアアアン!という破裂音を立てて砕けた。
 
 俺の右半身が一瞬で凍り付いた。

 刺すような痛みが右半身を襲う。

 クソ!!痛え!
 同格の神からの攻撃であると痛みを感じる。
 魔法障壁なども同格の神に対して大きな意味はない。

 俺はアガパンサを見下ろす崖に転移した。

 おお?よく見るとアガパンサも俺のさっきの攻撃で火傷を負っているのが見える。
 氷のドレスも少し破れてるな。
 
 「やるじゃねえか!ヘリオの最高傑作は伊達じゃねえな!!」
 俺はアガパンサに大声をかける。

 「ヘリオ?.............あんた何を言ってるの?」
 んあ?コイツ、自分の実体がヘリオグラープだって事知らねえのか?
 めぐるのこと全然言えねえじゃねえか。

 という事は、アガパンサには相当分厚い自我があると判断できる。
 アガパンサとしての生き方の中で、随分と、親父世界の意志に反したことをやってきたのだろう。
 心格だのなんだのに囚われているのはその証拠だろうな。
 ニルバナの話では以前はそうではなかったらしいが.........


 もしや、ヘリオに何かあったのか??


 ま、いいか。俺には関係ない。

 俺は右半身を固める氷が蒸発していくイメージを浮かべた。
 すぐに氷は消え去り、腕には凍傷が残っている。しかし、それも数秒後には消えてなくなった。

 アガパンサの傷は治っていないようだ。
 それはアガパンサの分厚い自我によるものだろう。
 自我への執着が強いほど傷の治りは遅くなる。

 俺の方は野田周という自我を脱ぎ、実体であるこの俺になれた。
 メルシアという上層とも言えない真相界で顕現しているだけなので大した力は発揮できない。しかし、自我が薄い分だけ、傷の治りが速い。

 この時点で勝負は決したようなものだ。

 それにしても.......
 
 「おい!!オメーなんでエルトロンごと周を殺そうとした!?エルトロンの奴を好きだったんだろうがよ」

 アガパンサに向かって叫んだ後、俺は話がしやすい位置まで転移した。
 破壊神とされている俺が話し合いを始めようとした事が意外だったのか、アガパンサは驚きの表情を浮かべている。
 攻撃はされないようだな。

 戦闘狂の俺が何で話し合いをしようと思ったのか、自分でも正直分からない。ただ、本能的にそうした方がいいと思ったからだ。

 「..............彼が復活したら人間を守ろうとするでしょ?そうすれば、妖精達は薄汚い人間のために犠牲になっていくまま。それが耐えられなかったのよ」
 アガパンサは腕に負った火傷の傷を抑えつつ、戸惑いながら答える。

 「まあ、奴ならそうするだろうな。そもそも、お前はなぜ妖精が犠牲になると考えるんだ?純粋な魂のままアースで転生した人間が、アースで酷い目に合わされるからか?」

 「そうよ。人間は相手が”優しい人間(自分にとって都合の良い人間)”だと分かると、それをいいことにあらゆる悪行を繰り返す。そんな奴らがいる場所に妖精達が転生してしまう事にも嫌気がさしたわ」

 「親父の擁護をするわけじゃないんだが、純粋な連中を踏みにじる奴らは親父の創った法則によって罰を受けることになるだろう。アースにいる段階から人格崩壊を起こし、死後はその崩壊した人格に相応しい真相界に行く。踏みにじられた純粋な魂を持つ者たちは踏まれた分の強さを備えて、相応しい世界に行けるだろう。何か不満があるのか?」

 「ええ、不満よ。妖精達が痛い目に合うだけならまだしも、人間の悪習慣にまみれて心格を堕とし苦しい世界に行くのを観ていられないの。私の目には、苦しい世界に転生した妖精達に対しどれほどの対価があるのか分からないわ」

 そうか。アガパンサの分厚い自我は”妖精達への愛ゆえ”ということか。その愛ゆえに親父の法則に反したことで盲目になっちまった........。だから、人間に転生した妖精達の苦しみの先にあるものが見えなくなっている。

 愛国心も過ぎれば他の国を見下し戦争を引き起こす。
 (小さな善を取ることで大きな善を損なう)

 人間の善性に関し、周にそう言っていたが、そのまま今のオメーに当てはまるな、アガパンサ。
 
 
 「まあいいや。オメーがそう考えるなら自由にしろ!俺には関係の無い話だ。なんか興ざめしたし、今日の所は見逃してやる」

 暴れる気にもならないので、俺は元居た世界であるフィエルノに行くことにした。
 破壊神や堕神、堕天使などが多く住む界である。
 せっかくシャバに出られたんだから馴染みの界に行くぜ。
 
 フィエルノの景色をイメージし、いざ転移...........できない?
 なんだと??

 「残念だけど.....それはさせられないわ、イド」

 俺が驚き振り向くと、周の母親、ルーティアが俺を睨んでいた。
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