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番外編
東京は午後の二時
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――すまん、今晩無理だ。
日中に上津原さんから電話が入ったからなんとなくそうかなと思った予想通りに、今晩一緒に夕食を食べに行く予定キャンセルの連絡だった。
「なんとなくそうかなって気がしました」
『ああ? なんだそりゃ』
「え、だってこの間ちょっと難しそうな治療してるって言ってたし」
『あーまーそれとほか諸々だ。たぶんそっちにも寄れねぇ……たまには早く寝ろ』
はい、と答えながら色々重なったんだなと思った。
朝布大学獣医学部内科学第三研究室、教授・上津原聡。
大学附属の動物病院で週一回診察も担当している、研究者で獣医。
普段は無精ひげで強面の怖い四十過ぎのおじさんだけれど、きちんとすれば渋いイケメン獣医なんて呼ばれるくらいで、TVの教養番組なんかにも出て、大学の広告塔的な存在でもあるらしく……。
とにかく、一体、いつ休んでるんだろと思えるほどずっと仕事をしている人だから、こうして予定変更になる事は珍しいことじゃない。
むしろ仕事じゃないのに、出来る限り時間を作ってくれたりするから、うれしい反面ちょっと申し訳ないような気もする。
こちらだって人の事はあまり言えなくて、原稿が進まなかったり急な仕事が重なったり、彼と同じようにごめんなさいとなる時があるので。
『……張合いねぇな』
「え?」
『結構残念なんだが? 俺は』
塔子、と少しだけ熱ぽいような調子で電話越しに囁かれてどきりとする。
上津原さんに、名前を呼ばれるのに実はまだちょっと慣れていない。
彼もそれをわかっていて、時々からかってくる時がある。
「なっ……またそうやって、こっちの反応楽しむのやめてください」
『はあ? ったく、明後日あたり時間出来そうだから、また連絡する。ちゃんと寝て食えよ』
「いつも疎かになってるわけじゃないですから」
『どうだか……じゃあな』
なんとなく慌ただしい気配で電話は切れた。
たぶん仕事の合間で、いま連絡しなければ約束の時間より先に電話は無理な状況なんだろう。
メールでも大丈夫なのに、この手の連絡は必ず電話でくる。
「ふーん、結構残念ねー。ドタキャンしておいてねー」
後ろからした声に慌てて振り返ると、打合せに家に来ていた松苗さんがにやにやして立っていた。
「声でかいから漏れ聞こえてるっての、メールで済むことわざわざ電話で言ってくるなんて愛されてるじゃないの」
「ちょっ、松苗さんっ!! なに聞いてんですかっ」
「だって気になるじゃない。塔子の話聞いてるとなんかでれっでれぽいし。てか、なにあの男は。バツイチの癖に恋人になったら甘々になるタイプ?」
「それ、バツイチは関係ないんじゃ……あとでれっでれなわけでも」
愛想がなくて怖いのは、カドワカの雑誌で対談していた頃と変わらない。
上津原さんと出会ったのは、この目の前にいる、私が作家デビューした時からの担当編集者、出版大手カドワカ・書籍部の松苗さんがきっかけだ。
恋愛経験ほぼゼロな恋愛小説家で引き篭もり人間だった私に疑似恋愛を経験させるためだけに、松苗さんは、雑誌部にいる後輩の若手編集者早坂さんを経由して、彼が雑誌で担当している『動物と人の距離感』のコラムをまとめた本がベストセラーになっていた人気イケメン獣医な上津原さんとの恋愛対談連載企画をかなり強引に通した。
連載自体はそこそこ好評だったようで、それをまとめた本も出ている。
対談ページを撮影していたカメラマンの|弓月(ゆづき)さんの写真の良さもあって、ほとんど上津原聡写真集のような扱いで、女性客を中心に本は売れているそうな。
それはともかく、紆余曲折あったものの、つまりは、松苗さんの掌の上で踊らされた上で、本当に上津原さんとお付き合いすることになってしまっているわけで、だから松苗さんに上津原さんの事をからかわれると恥ずかしさは倍増してしまう。
松苗さんもそれをわかっててからかってくるんだから、人が悪い。
「あの仕事最優先、年間休日実質一桁男が隙あらば会いたいって連絡してくるんでしょう? それをでれっでれと言わずしてなんと言うのよ」
背後から抱きついてきて、耳打ちしてきた松苗さんに思わず顔が熱くなる。
ふわりと松苗さんのつけている香水が鼻先をくすぐったのに小さくくしゃみが出た。
「松苗さんっ」
「ねーねー上津原氏とのデートなくなったんなら、あたしとデートしない? 神楽坂に日本酒美味しいお店があるの。最近、行ってなくて」
「いいですけど、早坂さんは?」
「なんで早坂が出てくんのよ」
「え、だって……」
たぶん早坂さん、松苗さんを好きなんじゃないかなあと。
この間も、松苗さんの好きなお菓子屋さん聞いてきたし。
本人は「最近忙しそうで気が立ってて松苗先輩……ここらでご進物でも入れとかないとまた連れ回されますから」、なんて言ってたけれど。
でもって松苗さん、確かに社交的だけど仕事付き合い以外であまり自分から人誘ったりしないの、たぶん早坂さん知らないよね?
「なによ。あっ、そういえば、来月からの野人時代の新連載、担当早坂なんだって? あいつある事ないこと塔子に吹き込んでないでしょうね?」
「ないですないですっ、ま、松苗さんっ肩がくがくしないで~」
「ならいいけど」
解放されて、はあっと息を吐いて松苗さんを盗み見れば、まったくなんで早坂なのよ……いやでも他の奴はちょっとやだけどなんてぶつぶつ言っている。
普段、仕事では厳しい編集者で、友人としては年上の頼れるお姉さんみたいな松苗さんだけれど時々私よりよっぽどかわいらしく思えるところがある。
どんな反応返ってくるか怖いから、絶対に本人には言えないけれど。
「や、でもほら松苗さん早坂さんにすごく目をかけてるみたいだから」
「そりゃ舎弟だもの」
「舎弟……。春先にテートパレスでランチデートしたんですよね?」
「元はといえばあんたが失踪なんかするからっ、早坂に色々付き合わせてちゃってそれでよ。お詫びよ。あとデートじゃないから、麻雀で早坂から巻き上げたお金であたしが奢らされただけだから」
「平日夜にご飯ならともかく、休みの日は一人で過ごしたいタイプな松苗さんが休日のお昼になんて珍し過ぎて……」
「あいつが昼がいいって言ったのよ。仕方ないでしょ、あたしたちは勤め人なんだから……って、もう梅雨も明けたのにいつの話してんのよ」
セミロングの髪をかきあげながら、「最近、塔子がタチ悪くて嫌んなっちゃう」とダイニングテーブルの椅子に座り直し、松苗さんはティーカップのお茶を飲んだ。
午後一の打合せを終えて、松苗さんの手土産のシフォンケーキをお供にちょっとお茶していた最中だった。
「まああんた、元々結構タチ悪いんだけど……上津原氏と付き合ってからなんか磨きがかかってない?」
「うっ、最近それ上津原さんにも言われます。お前ちょっとタチ悪いって」
「でしょうねー。あんた根は結構ふてぶてしいもの。それはそうとあんた達、目と鼻の先に住んでんだからいっそどっちかの家に移った方が早くない?」
「まだ付き合って半年で、月一位しかまともに会ってないのに、それはちょっと早計では?」
「まともにでしょ、隔週で夜に互い通ってんでしょ。そっちのがやらしーわよ。純粋箱入娘な塔子さんがすっかりオトナになっちゃってお母さんかなしいったら」
「松苗さん……それにお互い資料とか荷物が、いまの家では無理です」
「あーそれはそうか、特にあんたは……」
松苗さんの言葉にうんうんと頷いてしまった。とても無理だ、整理するにも手をつけたくもない。
かといって寝室も資料庫その二になりつつあるから、上津原さんがこちらに移るのも無理がある。本当にそうするならもっと広い家を探すしかないだろうし、お互いそんな暇も当面はない。
「まーそれはもっと先の話か」
「ですね、続いていればですけど」
「あんたそういうとこ本当冷静よね」
「うーん、恋愛仕様じゃないみたいだから仕方ないです」
「そうかもだけど、その割には……ね、そんなにいいの? 上津原氏」
突然の、あまりな質問に飲んだ紅茶が気管に入って盛大にむせてしまった。
なんて事を真昼間からっ。
「ま、松苗さん……それ、いま聞きますっ?」
「だってあんた酔うまで飲ませると気分悪くなったり寝ちゃうし、酔ってない内に聞くなら昼でも夜でも一緒でしょ」
「そ、そういった質問は……ノーコメントで……」
「えー、だってあの男、塔子の前は取っ替え引っ替えだった訳でしょう」
「いまもその取っ替えの最中かもですよ」
「半年でその付き合いなら違うでしょ。性欲だけ満たすには効率悪過ぎるもの」
「ですか……」
まあ自分がそんなに肉体的に魅力があるとも思えないから、そうかなとは思ってはいるけれど。でも。
ちょっと溺れてしまいそうで、怖い。
たぶん、会うと触れたくなってしまっているのはこちらの方だ、そのあたり向こうはどう思ってるんだろ。
学生じゃあるまいし……などとぼやきながら、少し熱を帯びた低い声で名前を囁き、性急さを抑えているような手つきで服を脱がして口付けるけど……って、私なに思い出してるの。
「あー、なんかちょっと羨ましくて腹立ってくるわねー」
「松苗さんっ」
ああ……絶対、さっきなに考えたか読まれてる。
この調子だと夜にごはんの場でどんな追及されるやら、わかったものじゃない。
「も、そろそろお互い仕事に戻りましょ」
「そうね、楽しみはまた夜に。あとでお店の場所送るから現地集合で」
「はい……」
時計を見れば14時はとうに回って、半を過ぎている。
これから他誌のゲラを直したものをもう一度見直して17時には切り上げられそうかな。
「わっ、次のアポ急がなきゃ。ここでいいから、じゃまたね、塔子」
「気をつけて」
慌ただしく立ち上がって、玄関へ向かって行く松苗さんに手を振って、ああ……夜、松苗さんの追及をどうかわそう。やっぱり早坂さんの話題かなと考えながら、うにゃ~とテーブルの上に突っ伏してしまった。
日中に上津原さんから電話が入ったからなんとなくそうかなと思った予想通りに、今晩一緒に夕食を食べに行く予定キャンセルの連絡だった。
「なんとなくそうかなって気がしました」
『ああ? なんだそりゃ』
「え、だってこの間ちょっと難しそうな治療してるって言ってたし」
『あーまーそれとほか諸々だ。たぶんそっちにも寄れねぇ……たまには早く寝ろ』
はい、と答えながら色々重なったんだなと思った。
朝布大学獣医学部内科学第三研究室、教授・上津原聡。
大学附属の動物病院で週一回診察も担当している、研究者で獣医。
普段は無精ひげで強面の怖い四十過ぎのおじさんだけれど、きちんとすれば渋いイケメン獣医なんて呼ばれるくらいで、TVの教養番組なんかにも出て、大学の広告塔的な存在でもあるらしく……。
とにかく、一体、いつ休んでるんだろと思えるほどずっと仕事をしている人だから、こうして予定変更になる事は珍しいことじゃない。
むしろ仕事じゃないのに、出来る限り時間を作ってくれたりするから、うれしい反面ちょっと申し訳ないような気もする。
こちらだって人の事はあまり言えなくて、原稿が進まなかったり急な仕事が重なったり、彼と同じようにごめんなさいとなる時があるので。
『……張合いねぇな』
「え?」
『結構残念なんだが? 俺は』
塔子、と少しだけ熱ぽいような調子で電話越しに囁かれてどきりとする。
上津原さんに、名前を呼ばれるのに実はまだちょっと慣れていない。
彼もそれをわかっていて、時々からかってくる時がある。
「なっ……またそうやって、こっちの反応楽しむのやめてください」
『はあ? ったく、明後日あたり時間出来そうだから、また連絡する。ちゃんと寝て食えよ』
「いつも疎かになってるわけじゃないですから」
『どうだか……じゃあな』
なんとなく慌ただしい気配で電話は切れた。
たぶん仕事の合間で、いま連絡しなければ約束の時間より先に電話は無理な状況なんだろう。
メールでも大丈夫なのに、この手の連絡は必ず電話でくる。
「ふーん、結構残念ねー。ドタキャンしておいてねー」
後ろからした声に慌てて振り返ると、打合せに家に来ていた松苗さんがにやにやして立っていた。
「声でかいから漏れ聞こえてるっての、メールで済むことわざわざ電話で言ってくるなんて愛されてるじゃないの」
「ちょっ、松苗さんっ!! なに聞いてんですかっ」
「だって気になるじゃない。塔子の話聞いてるとなんかでれっでれぽいし。てか、なにあの男は。バツイチの癖に恋人になったら甘々になるタイプ?」
「それ、バツイチは関係ないんじゃ……あとでれっでれなわけでも」
愛想がなくて怖いのは、カドワカの雑誌で対談していた頃と変わらない。
上津原さんと出会ったのは、この目の前にいる、私が作家デビューした時からの担当編集者、出版大手カドワカ・書籍部の松苗さんがきっかけだ。
恋愛経験ほぼゼロな恋愛小説家で引き篭もり人間だった私に疑似恋愛を経験させるためだけに、松苗さんは、雑誌部にいる後輩の若手編集者早坂さんを経由して、彼が雑誌で担当している『動物と人の距離感』のコラムをまとめた本がベストセラーになっていた人気イケメン獣医な上津原さんとの恋愛対談連載企画をかなり強引に通した。
連載自体はそこそこ好評だったようで、それをまとめた本も出ている。
対談ページを撮影していたカメラマンの|弓月(ゆづき)さんの写真の良さもあって、ほとんど上津原聡写真集のような扱いで、女性客を中心に本は売れているそうな。
それはともかく、紆余曲折あったものの、つまりは、松苗さんの掌の上で踊らされた上で、本当に上津原さんとお付き合いすることになってしまっているわけで、だから松苗さんに上津原さんの事をからかわれると恥ずかしさは倍増してしまう。
松苗さんもそれをわかっててからかってくるんだから、人が悪い。
「あの仕事最優先、年間休日実質一桁男が隙あらば会いたいって連絡してくるんでしょう? それをでれっでれと言わずしてなんと言うのよ」
背後から抱きついてきて、耳打ちしてきた松苗さんに思わず顔が熱くなる。
ふわりと松苗さんのつけている香水が鼻先をくすぐったのに小さくくしゃみが出た。
「松苗さんっ」
「ねーねー上津原氏とのデートなくなったんなら、あたしとデートしない? 神楽坂に日本酒美味しいお店があるの。最近、行ってなくて」
「いいですけど、早坂さんは?」
「なんで早坂が出てくんのよ」
「え、だって……」
たぶん早坂さん、松苗さんを好きなんじゃないかなあと。
この間も、松苗さんの好きなお菓子屋さん聞いてきたし。
本人は「最近忙しそうで気が立ってて松苗先輩……ここらでご進物でも入れとかないとまた連れ回されますから」、なんて言ってたけれど。
でもって松苗さん、確かに社交的だけど仕事付き合い以外であまり自分から人誘ったりしないの、たぶん早坂さん知らないよね?
「なによ。あっ、そういえば、来月からの野人時代の新連載、担当早坂なんだって? あいつある事ないこと塔子に吹き込んでないでしょうね?」
「ないですないですっ、ま、松苗さんっ肩がくがくしないで~」
「ならいいけど」
解放されて、はあっと息を吐いて松苗さんを盗み見れば、まったくなんで早坂なのよ……いやでも他の奴はちょっとやだけどなんてぶつぶつ言っている。
普段、仕事では厳しい編集者で、友人としては年上の頼れるお姉さんみたいな松苗さんだけれど時々私よりよっぽどかわいらしく思えるところがある。
どんな反応返ってくるか怖いから、絶対に本人には言えないけれど。
「や、でもほら松苗さん早坂さんにすごく目をかけてるみたいだから」
「そりゃ舎弟だもの」
「舎弟……。春先にテートパレスでランチデートしたんですよね?」
「元はといえばあんたが失踪なんかするからっ、早坂に色々付き合わせてちゃってそれでよ。お詫びよ。あとデートじゃないから、麻雀で早坂から巻き上げたお金であたしが奢らされただけだから」
「平日夜にご飯ならともかく、休みの日は一人で過ごしたいタイプな松苗さんが休日のお昼になんて珍し過ぎて……」
「あいつが昼がいいって言ったのよ。仕方ないでしょ、あたしたちは勤め人なんだから……って、もう梅雨も明けたのにいつの話してんのよ」
セミロングの髪をかきあげながら、「最近、塔子がタチ悪くて嫌んなっちゃう」とダイニングテーブルの椅子に座り直し、松苗さんはティーカップのお茶を飲んだ。
午後一の打合せを終えて、松苗さんの手土産のシフォンケーキをお供にちょっとお茶していた最中だった。
「まああんた、元々結構タチ悪いんだけど……上津原氏と付き合ってからなんか磨きがかかってない?」
「うっ、最近それ上津原さんにも言われます。お前ちょっとタチ悪いって」
「でしょうねー。あんた根は結構ふてぶてしいもの。それはそうとあんた達、目と鼻の先に住んでんだからいっそどっちかの家に移った方が早くない?」
「まだ付き合って半年で、月一位しかまともに会ってないのに、それはちょっと早計では?」
「まともにでしょ、隔週で夜に互い通ってんでしょ。そっちのがやらしーわよ。純粋箱入娘な塔子さんがすっかりオトナになっちゃってお母さんかなしいったら」
「松苗さん……それにお互い資料とか荷物が、いまの家では無理です」
「あーそれはそうか、特にあんたは……」
松苗さんの言葉にうんうんと頷いてしまった。とても無理だ、整理するにも手をつけたくもない。
かといって寝室も資料庫その二になりつつあるから、上津原さんがこちらに移るのも無理がある。本当にそうするならもっと広い家を探すしかないだろうし、お互いそんな暇も当面はない。
「まーそれはもっと先の話か」
「ですね、続いていればですけど」
「あんたそういうとこ本当冷静よね」
「うーん、恋愛仕様じゃないみたいだから仕方ないです」
「そうかもだけど、その割には……ね、そんなにいいの? 上津原氏」
突然の、あまりな質問に飲んだ紅茶が気管に入って盛大にむせてしまった。
なんて事を真昼間からっ。
「ま、松苗さん……それ、いま聞きますっ?」
「だってあんた酔うまで飲ませると気分悪くなったり寝ちゃうし、酔ってない内に聞くなら昼でも夜でも一緒でしょ」
「そ、そういった質問は……ノーコメントで……」
「えー、だってあの男、塔子の前は取っ替え引っ替えだった訳でしょう」
「いまもその取っ替えの最中かもですよ」
「半年でその付き合いなら違うでしょ。性欲だけ満たすには効率悪過ぎるもの」
「ですか……」
まあ自分がそんなに肉体的に魅力があるとも思えないから、そうかなとは思ってはいるけれど。でも。
ちょっと溺れてしまいそうで、怖い。
たぶん、会うと触れたくなってしまっているのはこちらの方だ、そのあたり向こうはどう思ってるんだろ。
学生じゃあるまいし……などとぼやきながら、少し熱を帯びた低い声で名前を囁き、性急さを抑えているような手つきで服を脱がして口付けるけど……って、私なに思い出してるの。
「あー、なんかちょっと羨ましくて腹立ってくるわねー」
「松苗さんっ」
ああ……絶対、さっきなに考えたか読まれてる。
この調子だと夜にごはんの場でどんな追及されるやら、わかったものじゃない。
「も、そろそろお互い仕事に戻りましょ」
「そうね、楽しみはまた夜に。あとでお店の場所送るから現地集合で」
「はい……」
時計を見れば14時はとうに回って、半を過ぎている。
これから他誌のゲラを直したものをもう一度見直して17時には切り上げられそうかな。
「わっ、次のアポ急がなきゃ。ここでいいから、じゃまたね、塔子」
「気をつけて」
慌ただしく立ち上がって、玄関へ向かって行く松苗さんに手を振って、ああ……夜、松苗さんの追及をどうかわそう。やっぱり早坂さんの話題かなと考えながら、うにゃ~とテーブルの上に突っ伏してしまった。
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