12 / 180
第一部 婚約と攻防
12.父と娘
しおりを挟む
一日の仕事を終えて、魔術師の邸宅に戻って――あてがわれている王宮の自室に帰りたかったけど、父と共に招かれてしまっているのだから仕方がない――迎え出たオドレイさんと挨拶していたら、父様も外から帰ってきた。
「お帰りなさいませ。ジュリアン様。杖、お預かりいたします」
「ああ……こりゃ、どうも」
手にしていた黒檀の杖を恐縮しながらオドレイさんに渡す。先端はかなり土埃で汚れていた。
もしかして、ずっと外にいたのと尋ねればまあなと父様は答えた。
「久しぶりだから挨拶したい人もいたし、お土産もあるし」
「お土産? 特になにも持ってなさそうだけど」
杖以外はなにも持っていなかった父様の手元を見れば、途中までは抱えていたんだが……書店の店主が見かねてそれまで買った荷物もあわせて明日ここに届けてくれることになったとの説明に、一体どれだけ買ったのとちょっと呆れる。
「伯爵家やドルー家や領地の子供等とか……」
「紙とか本とか種とかおもちゃとか買い込んだのね」
話しながら、なんとなくオドレイさんに促されるように応接間に入って、気が付けばお茶のカップを手に父とソファに寛いでいた。あまりに自然な流れで落ち着いてしまったものだから、部屋の隅で控えているオドレイさんに賞賛のまなざしを送ってしまう。
意識させずに人を寛がせるのは、使用人の高等技術だ。
彼女は魔術師の従者なのに、まるでベテランの執事やハウスキーパー並みの働きをする。
見習いたい。
「美麗な紙や本は田舎では手に入らんだろう。育ててみたら面白そうな作物の種もあったし、小さな子等が喜びそうなものとか……」
そう言って父が胸元から取り出した小さなメモを見て、なるほどと納得した。
形の良い文字がびっしり書いてあって、きっとお土産の大半は伯爵夫人の頼まれものねと思った。
伯爵とは、元々ユニ家が仕えていた、現ユニ領を含む王国の西方から北にかけた広大な農地を領地として治めていたモンフォール伯爵家のことだ。
その夫人は後妻で四十過ぎ。モンフォール伯とは二十離れている。
高齢のモンフォール伯が、長い移動は堪えると誕生祭を欠席したので、王都に行けないのを残念に思っていたのに違いない。
ユニ家は、高祖父の代に冷害に強い葡萄の品種改良を行った功で、現在の領地を自分の土地として与えられた。
モンフォール伯はただ土地を与えただけでなく、領主としてその地を治め、独立することも高祖父に許した。
独立してもユニ家は、伯爵家を主として敬っている。
そんな伯爵家の遠戚筋にあたるのがドルー家で、現主人の次女が私の母様だった。
父が王都の学校の試験勉強のために伯爵家の客分としてお世話になっていた頃、母も行儀見習いとして伯爵家にいた。同じ屋敷で度々顔を合わせる、年も近かった二人は恋に落ちた。
父が王都に出たあとも文通を続け、二人の気持ちは変わらなかった。
貴族の親戚筋のお嬢さんと農夫の息子では身分違いなのだけれど、一応、ユニ家は小規模領主ではあり、伯爵家の口添えと当時困窮していたドルー家の事情もあって、縁談は揉めることもなく円満に進んだらしい。
だから結婚してたった七年で母様が病気で亡くなってしまった時は、父をはじめ皆ひどく悲しんだ。
「帰る時どうやって持って帰るつもり?」
「一つにまとめてしまえばそう大したものでもないさ」
「ふうん」
「大体、お前がこうして王宮勤めなのもお祖母様を説得してくれた伯爵様のおかげだ」
「たしかに」
わたしは母様そっくりな孫娘と、ドルー家のお祖父様とお祖母様にとても可愛がられている。
本当は行儀見習いもお祖母様からドルー家に来るよう言われていたのだけれど、領主といっても爵位がない家の娘で五歳の時に母を亡くしていることを案じてくれたモンフォール伯が、折角父親が王都に伝手を持っているのだからと渋るお祖母様をとりなして紹介状を書いてくれた。
いずれお嫁にいくことを考えたら、地方の貴族縁の家より王宮勤めの方が箔がつく、母親がいなくてもそれだけきちんとした教養と礼儀を身につけている証明にもなるし、良縁に巡り会う確率も増す……かもしれない。
王宮の行儀見習いに応募するには二通の紹介状がいる。
一通が法務大臣様で、もう一通がモンフォール伯だったから、田舎領主の娘でも身元は確かと判断された。
「そんなことより公爵様とのことだ。お前はどういった考えでいる?」
突然切り出されて、ぐふっとお茶が気管に入りかけて軽くむせる。
公爵様――ルイ・メナージュ・ヴァンサン・ラ・フォート公爵、最強の魔術師ならぬ大大大悪徳魔術師その人。
公爵といっても王家筋ではなく、元々王国建国以前の小国の王の家系で、それよりも魔術師として有名過ぎるがゆえに彼を爵位で呼ぶ人はあまりいなくて不意打ちだった。
どういったもこういったも。
「ええと、その」
「父親に相談もなく婚約したと聞いて驚いたが……お前は彼の求婚を完全に受け入れたわけではなく譲歩しての婚約だと言うし。彼の手前きちんと聞けずにいたが、もしお前に気がないのならはっきりお断りしなさい」
「断って、いいの?」
頷いた父に、うーんと手にしたカップのお茶を見つめる。
「でも……」
「フォート家が大貴族だろうが小作人だろうが、求婚されたのがたまたま王の誕生祭で立会人が多かったとかそんなことはどうでもいい。それにお前に求婚した彼にも失礼だろう。王の誕生祭ならもう婚約期間も半ばではないか」
そう。なんだかんだとばたばたと日々を過ごしているうちに、気が付けばそろそろ二十日、婚約期間の半分が過ぎようとしていた。
断りたいなら、父親である儂が身分をわきまえて許さなかったといえば角も立たないが、これ以上引き伸ばしてしまったら角を立てずに済むものも、だったらなぜ早くそう言わないと禍根を残すことになると諭される。
「それとも躊躇っているのか?」
「え?」
「家や身分のことを気にして応えられないでいるのなら、父として申し訳ない……」
「あ、あのねっ……父様、そうじゃなくてっ!!」
うなだれた父様に、慌ててカップを置いてその肩を揺さぶってそういえば、じゃあなんだ、お前が幸せになれる相手かどうかが第一だと真剣な表情で再び尋ねられて、その……と、今度は自分がうなだれて膝に置いた自分の手元を見つめた。
「その……好きとか嫌いとか、身分の違いとかより……」
勿論、それらも大事なことではあるのだけれど。
それよりも。
「結婚とか、まだ考えられない……かな、なんて……」
「はあ? お前……」
自分がいくつだとと言いたげな父様の言葉に、わ、わかっているのよっと自分がいま十九歳で行き遅れ寸前、故郷においては完全に遅れをとっている娘だということはっ、と言い添えた。
「でもなんだか……結婚自体にぴんと来ないというか」
「ぴんと来ない、それは儂と母さんが恋愛結婚だからそう思うのか……?」
ため息まじりなんてことだと言わんばかりの父様に、ああそれもちゃんとわかってるの恋愛結婚自体が珍しいことだものと答える。
そう、普通はお見合いで双方それなりに釣り合いがとれて好意が持てそうならそれでいい。
あるいは見初められて、よほど嫌な相手でなければお受けするところだ。
王宮で権力争いしているような貴族のお嬢様だとそういったわけにもいかず、なんだか気の毒に思えてしまう冷えたご夫婦もいらっしゃるけれど、そういったことはわたしには縁のない世界のことで大抵それでまあなんとなく上手くいっているし玉の輿なんてそれこそ儲けものだ。
別に魔術師が嫌いなわけじゃない。
外堀を埋めて追い詰めてくるようなやり方には腹は立つけれど、基本的に自分の権力を嵩にして迫ってくるわけでもないし、他の貴族の方にありがちな田舎領主の娘だからと見下すこともないし、むしろ王妃の侍女であるわたしには敬意を持って接してくれていたりする。
あの裏表のあるひねくれた性格にも腹は立つけれど、たしかに王妃様が仰る通り心底悪い人ではないのだと思う。
けれど。
「あの綺麗な姿の隣で奥様然とする自分なんて、まったく微塵も想像できないといいますか」
「は?」
「王宮のお仕事は順調でやりがいもあって、まだまだ色々学ぶことも多いし……そんな時にまるで夢物語みたいな求婚なんてされても正直、戸惑ってしまうばかりで、仮に求婚してくれたのが他の人だったとしても……父様?」
マリーベル……と額を両手で支えるように俯いて唸るようにわたしの言葉を遮った父様に、あらと首を傾げれば、なんて娘だお前はっと耳がきーんとなるような大声が応接間に響いた。
「と、父様……?!」
「そんな身勝手な理由で、公爵様を悩ませていたなんてっ!!」
「なっ……身勝手ってっ?!」
「いくら王宮で皆からよくしてもらっているからといって、いつまでも娘気分でいるんじゃないっ」
「別にそんなつもりじゃ」
「お前が身分差のことで悩んでいるらしいと公爵様から聞き、公爵様の言い分はそうでも実際のところ彼が嫌で断りたくても断れずそう言っている場合もあると思って尋ねてみれば……お前は一体、この先どうやって生きていくつもりなんだ」
「どうって」
「いつまでも王妃様の侍女というわけにはいかないんだぞ」
「う……それは、そうだけど」
わかってるけど。
そもそも、歴代の王妃の侍女といったら相当な家の出の、結婚して一度王宮を出て、乞われてまた女官としてお勤めなさっているようなベテランで教養高い方が務めるものと相場は決まっているし、わたしがいつまでも独身でお仕えしていても王妃様にご心配をかけるだけだろう。
「お前のことだから、もう二、三年などと考えてるのかもしれないが……そんなことを言っていたら本当に行き遅れてしまう。後妻の口を待つしかないようなことになってもいいのか?」
「や、でもほらそうなったらなったで、お教室とか家庭教師とかで生計を立てていくとか、お父様の側でお仕事を手伝うとか……」
「そんな心配なこと許すと思うか!? 儂が死んだ後、女一人で生きていけるほど甘い世の中ではない……聞いての通りです、まったくお恥ずかしい」
「え?」
父の言葉に、応接間の入口へ目を向ければ……困ったような微笑を浮かべて魔術師が立っていた。
いつから、そこに?
オドレイさんを見れば、何故か壁に額を押し付けるようにして肩を小刻みに震わせている。
もしかして、笑ってる?
「オドレイ」
「失礼しました。あまりにマリーベル様が正直なものですから」
軽く咳払いして、麗人の従者はそう姿勢を正した。
そういえば、オドレイさんがこの部屋にいたの忘れてた。
「いつから……」
「私の妻としての自分の姿など微塵も考えられないといったあたりから……身分がどうのよりもそうじゃないかと薄々思ってはいましたけれど、はっきり言葉に聞くとそれなりに傷つくものですねぇ」
「本当に……申し訳ないとしか。早くに母親を亡くしたためかしっかりした娘ではあるのですが、いささか行き過ぎてしまったかあるいは妙なところで子供のままなようで」
「いえ、だからこそいま立派に王女の侍女として務めているわけですし、彼女のそういった面に惹かれたわけですから」
なんだろう。
なんだか……わたしをおいてけぼりにして、二人で会話してない?
「申し訳ないと思いますが、娘のこのような考えを聞いたからには公爵様……」
「父様っ」
お断りするしかない、と。
父様の袖を握ってうんと頷く。
この後たぶん色々とお小言があるだろうけれど、もしかしたら王宮に迷惑のかからない時間をおいて戻るように言われてしまうかもしれないけれどそこは父様を説得必要があるけれど、私一人がなにをいっても魔術師に逆手に取られて、なんだか納得がいかないまま、トントン拍子に状況だけは結婚に向かって進んでいっているこの縁談をひとまず白紙に。
「まったく貴方の仰る通り。本来ならこんな娘の我が儘など、父の立場から言い聞かせて諭すのが筋であるというのになんて寛大な……」
「は?!」
「突然、引くに引けない状況で求婚してしまったのはジュリアン殿のご指摘の通りですし、マリーベルのために設けた婚約期間でしたが……彼女はなかなか本音のところを言ってはくれないし、やはり父親である貴方に聞いていただいて正解でした」
「え?」
「マリーベル。公爵様はお前が戸惑っている様子に婚約期間を設け、色々努力してみたもののどうにもお前と打ち解けられない気がすると。自分が尋ねても本当のところは言えないだろうからと、妻を持ちながら地位と権力を嵩に気に入った娘に手をつけ愛人にするような貴族も多いというのに……お前ほど幸運な娘はない」
「ええっ!? ちょっと、父様っ……なにを言って」
「お前が公爵様が嫌だというのなら考えもしたが……むしろこの縁談を断ったらお前のような娘が円満な結婚ができるとは思えないっ」
「ひどっ……ひどい父様っ、そりゃそうかもしれないけれど、そんな言い方っ」
「おや、“そうかもしれない”ですか? マリーベル?」
落ち着き払った静かな声に、父と私が同時に魔術師を見る。
ほとんど親子の言い争いに騒がしかった応接間が、しんと水を打ったように静まった。
そこへくすりと、魔術師が低く小さな笑みの声を漏らす。
「ある意味はじめて貴女から聞いた前向きな言葉ですよ、マリーベル」
「へ?」
「そうかもしれない……つまり、貴女自身もジュリアン殿同様、“私”でなければ円満な結婚は出来ないと、ちょっとはそう考えてくれていたということでしょう?」
一度、言ってしまった言葉は戻せない。
そうだ。
この人は。
人の言質を取るためならどんな手の込んだことも厭わない、大悪徳魔術師。
これはもしかして、ううん、もしかしなくても、まんまとこの人の術中に。
「それは、言葉の綾といいますか……」
「なんだそれなら儂も心置きなくこう言える。家のことなど心配せず公爵様の申し出を受けなさい」
嵌められた――!!
「と、父様でも、相手は大貴族様なのよ。それに見合う支度金は……」
「娘の幸せの為だ。父としてはいささか情けないが公爵様の依頼を受ける」
「依頼?」
「ああ、法務大臣殿からジュリアン殿は優秀だとお聞きして、フォート家の諸々の書類仕事をお願いしたいと」
「つまり法科を修めている父に、フォート家の契約書など難しい書類仕事の一部を任せたい」
「ええ、領主としてのお立場や仕事もあるでしょうから気が引けるのですが、適任な人もなかなか見つからず……結構古い記録から起こしてほしい契約などもあるもので。五年間の専属契約と依頼料込み金貨五千枚で打診を……」
は?
いま、なんて仰いました?
金貨……ご……。
「ご、せんっ!?」
「はい」
「金貨?」
「ええ」
「銀貨のお間違えでは?」
「なにを馬鹿な……仮にも一領主殿にお願いするんですよ。本来ならもっとしかるべきものをお贈りしてお願いするところです。無粋な上に失礼この上ない通貨で支払えばこれくらいは」
普通支払いに金貨なんか使わない。価値が大きすぎるもの。
金貨一枚で銀貨四十枚。
ええと、たしか今日書いた伝票。王妃様のローブや衣装諸々で銀貨二千七百五十枚。金貨にして七十枚にちょっと足りないくらいだ。ちなみに農夫の一家であればその半分にも満たない金貨二十五枚あれば一年遊んで暮らせる。
あらためて考えるとやっぱり王宮の生活は庶民には考えられない生活だ……なんてと呑気なことを言っている場合じゃない。
金貨五千なんて……たしかユニ家の年間収入って諸々合わせて金貨一千枚くらいだったはず……田舎領主だけど、小さな領地でも良質な作物に恵まれているユニ領の領地収入は馬鹿に出来ない。
王都のちょっと裕福な商人くらい、とはいえ領民のために使う諸々のお金もあるし蓄えも必要だからそれほど贅沢は出来ないけれど十分不自由のない暮らしができている。
つまり五年間分の謝礼を出しましょうってこと!?
「もちろん最初は断った、しかし仕事を請け負うことには間違いないし」
「王都で法廷に立つ上級役人を五年抱えたなら同じくらいかかります。これは正当な報酬です」
きっぱりとそう言い切った魔術師に、わたしは信じられないと睨むことしかできなかった。
「お帰りなさいませ。ジュリアン様。杖、お預かりいたします」
「ああ……こりゃ、どうも」
手にしていた黒檀の杖を恐縮しながらオドレイさんに渡す。先端はかなり土埃で汚れていた。
もしかして、ずっと外にいたのと尋ねればまあなと父様は答えた。
「久しぶりだから挨拶したい人もいたし、お土産もあるし」
「お土産? 特になにも持ってなさそうだけど」
杖以外はなにも持っていなかった父様の手元を見れば、途中までは抱えていたんだが……書店の店主が見かねてそれまで買った荷物もあわせて明日ここに届けてくれることになったとの説明に、一体どれだけ買ったのとちょっと呆れる。
「伯爵家やドルー家や領地の子供等とか……」
「紙とか本とか種とかおもちゃとか買い込んだのね」
話しながら、なんとなくオドレイさんに促されるように応接間に入って、気が付けばお茶のカップを手に父とソファに寛いでいた。あまりに自然な流れで落ち着いてしまったものだから、部屋の隅で控えているオドレイさんに賞賛のまなざしを送ってしまう。
意識させずに人を寛がせるのは、使用人の高等技術だ。
彼女は魔術師の従者なのに、まるでベテランの執事やハウスキーパー並みの働きをする。
見習いたい。
「美麗な紙や本は田舎では手に入らんだろう。育ててみたら面白そうな作物の種もあったし、小さな子等が喜びそうなものとか……」
そう言って父が胸元から取り出した小さなメモを見て、なるほどと納得した。
形の良い文字がびっしり書いてあって、きっとお土産の大半は伯爵夫人の頼まれものねと思った。
伯爵とは、元々ユニ家が仕えていた、現ユニ領を含む王国の西方から北にかけた広大な農地を領地として治めていたモンフォール伯爵家のことだ。
その夫人は後妻で四十過ぎ。モンフォール伯とは二十離れている。
高齢のモンフォール伯が、長い移動は堪えると誕生祭を欠席したので、王都に行けないのを残念に思っていたのに違いない。
ユニ家は、高祖父の代に冷害に強い葡萄の品種改良を行った功で、現在の領地を自分の土地として与えられた。
モンフォール伯はただ土地を与えただけでなく、領主としてその地を治め、独立することも高祖父に許した。
独立してもユニ家は、伯爵家を主として敬っている。
そんな伯爵家の遠戚筋にあたるのがドルー家で、現主人の次女が私の母様だった。
父が王都の学校の試験勉強のために伯爵家の客分としてお世話になっていた頃、母も行儀見習いとして伯爵家にいた。同じ屋敷で度々顔を合わせる、年も近かった二人は恋に落ちた。
父が王都に出たあとも文通を続け、二人の気持ちは変わらなかった。
貴族の親戚筋のお嬢さんと農夫の息子では身分違いなのだけれど、一応、ユニ家は小規模領主ではあり、伯爵家の口添えと当時困窮していたドルー家の事情もあって、縁談は揉めることもなく円満に進んだらしい。
だから結婚してたった七年で母様が病気で亡くなってしまった時は、父をはじめ皆ひどく悲しんだ。
「帰る時どうやって持って帰るつもり?」
「一つにまとめてしまえばそう大したものでもないさ」
「ふうん」
「大体、お前がこうして王宮勤めなのもお祖母様を説得してくれた伯爵様のおかげだ」
「たしかに」
わたしは母様そっくりな孫娘と、ドルー家のお祖父様とお祖母様にとても可愛がられている。
本当は行儀見習いもお祖母様からドルー家に来るよう言われていたのだけれど、領主といっても爵位がない家の娘で五歳の時に母を亡くしていることを案じてくれたモンフォール伯が、折角父親が王都に伝手を持っているのだからと渋るお祖母様をとりなして紹介状を書いてくれた。
いずれお嫁にいくことを考えたら、地方の貴族縁の家より王宮勤めの方が箔がつく、母親がいなくてもそれだけきちんとした教養と礼儀を身につけている証明にもなるし、良縁に巡り会う確率も増す……かもしれない。
王宮の行儀見習いに応募するには二通の紹介状がいる。
一通が法務大臣様で、もう一通がモンフォール伯だったから、田舎領主の娘でも身元は確かと判断された。
「そんなことより公爵様とのことだ。お前はどういった考えでいる?」
突然切り出されて、ぐふっとお茶が気管に入りかけて軽くむせる。
公爵様――ルイ・メナージュ・ヴァンサン・ラ・フォート公爵、最強の魔術師ならぬ大大大悪徳魔術師その人。
公爵といっても王家筋ではなく、元々王国建国以前の小国の王の家系で、それよりも魔術師として有名過ぎるがゆえに彼を爵位で呼ぶ人はあまりいなくて不意打ちだった。
どういったもこういったも。
「ええと、その」
「父親に相談もなく婚約したと聞いて驚いたが……お前は彼の求婚を完全に受け入れたわけではなく譲歩しての婚約だと言うし。彼の手前きちんと聞けずにいたが、もしお前に気がないのならはっきりお断りしなさい」
「断って、いいの?」
頷いた父に、うーんと手にしたカップのお茶を見つめる。
「でも……」
「フォート家が大貴族だろうが小作人だろうが、求婚されたのがたまたま王の誕生祭で立会人が多かったとかそんなことはどうでもいい。それにお前に求婚した彼にも失礼だろう。王の誕生祭ならもう婚約期間も半ばではないか」
そう。なんだかんだとばたばたと日々を過ごしているうちに、気が付けばそろそろ二十日、婚約期間の半分が過ぎようとしていた。
断りたいなら、父親である儂が身分をわきまえて許さなかったといえば角も立たないが、これ以上引き伸ばしてしまったら角を立てずに済むものも、だったらなぜ早くそう言わないと禍根を残すことになると諭される。
「それとも躊躇っているのか?」
「え?」
「家や身分のことを気にして応えられないでいるのなら、父として申し訳ない……」
「あ、あのねっ……父様、そうじゃなくてっ!!」
うなだれた父様に、慌ててカップを置いてその肩を揺さぶってそういえば、じゃあなんだ、お前が幸せになれる相手かどうかが第一だと真剣な表情で再び尋ねられて、その……と、今度は自分がうなだれて膝に置いた自分の手元を見つめた。
「その……好きとか嫌いとか、身分の違いとかより……」
勿論、それらも大事なことではあるのだけれど。
それよりも。
「結婚とか、まだ考えられない……かな、なんて……」
「はあ? お前……」
自分がいくつだとと言いたげな父様の言葉に、わ、わかっているのよっと自分がいま十九歳で行き遅れ寸前、故郷においては完全に遅れをとっている娘だということはっ、と言い添えた。
「でもなんだか……結婚自体にぴんと来ないというか」
「ぴんと来ない、それは儂と母さんが恋愛結婚だからそう思うのか……?」
ため息まじりなんてことだと言わんばかりの父様に、ああそれもちゃんとわかってるの恋愛結婚自体が珍しいことだものと答える。
そう、普通はお見合いで双方それなりに釣り合いがとれて好意が持てそうならそれでいい。
あるいは見初められて、よほど嫌な相手でなければお受けするところだ。
王宮で権力争いしているような貴族のお嬢様だとそういったわけにもいかず、なんだか気の毒に思えてしまう冷えたご夫婦もいらっしゃるけれど、そういったことはわたしには縁のない世界のことで大抵それでまあなんとなく上手くいっているし玉の輿なんてそれこそ儲けものだ。
別に魔術師が嫌いなわけじゃない。
外堀を埋めて追い詰めてくるようなやり方には腹は立つけれど、基本的に自分の権力を嵩にして迫ってくるわけでもないし、他の貴族の方にありがちな田舎領主の娘だからと見下すこともないし、むしろ王妃の侍女であるわたしには敬意を持って接してくれていたりする。
あの裏表のあるひねくれた性格にも腹は立つけれど、たしかに王妃様が仰る通り心底悪い人ではないのだと思う。
けれど。
「あの綺麗な姿の隣で奥様然とする自分なんて、まったく微塵も想像できないといいますか」
「は?」
「王宮のお仕事は順調でやりがいもあって、まだまだ色々学ぶことも多いし……そんな時にまるで夢物語みたいな求婚なんてされても正直、戸惑ってしまうばかりで、仮に求婚してくれたのが他の人だったとしても……父様?」
マリーベル……と額を両手で支えるように俯いて唸るようにわたしの言葉を遮った父様に、あらと首を傾げれば、なんて娘だお前はっと耳がきーんとなるような大声が応接間に響いた。
「と、父様……?!」
「そんな身勝手な理由で、公爵様を悩ませていたなんてっ!!」
「なっ……身勝手ってっ?!」
「いくら王宮で皆からよくしてもらっているからといって、いつまでも娘気分でいるんじゃないっ」
「別にそんなつもりじゃ」
「お前が身分差のことで悩んでいるらしいと公爵様から聞き、公爵様の言い分はそうでも実際のところ彼が嫌で断りたくても断れずそう言っている場合もあると思って尋ねてみれば……お前は一体、この先どうやって生きていくつもりなんだ」
「どうって」
「いつまでも王妃様の侍女というわけにはいかないんだぞ」
「う……それは、そうだけど」
わかってるけど。
そもそも、歴代の王妃の侍女といったら相当な家の出の、結婚して一度王宮を出て、乞われてまた女官としてお勤めなさっているようなベテランで教養高い方が務めるものと相場は決まっているし、わたしがいつまでも独身でお仕えしていても王妃様にご心配をかけるだけだろう。
「お前のことだから、もう二、三年などと考えてるのかもしれないが……そんなことを言っていたら本当に行き遅れてしまう。後妻の口を待つしかないようなことになってもいいのか?」
「や、でもほらそうなったらなったで、お教室とか家庭教師とかで生計を立てていくとか、お父様の側でお仕事を手伝うとか……」
「そんな心配なこと許すと思うか!? 儂が死んだ後、女一人で生きていけるほど甘い世の中ではない……聞いての通りです、まったくお恥ずかしい」
「え?」
父の言葉に、応接間の入口へ目を向ければ……困ったような微笑を浮かべて魔術師が立っていた。
いつから、そこに?
オドレイさんを見れば、何故か壁に額を押し付けるようにして肩を小刻みに震わせている。
もしかして、笑ってる?
「オドレイ」
「失礼しました。あまりにマリーベル様が正直なものですから」
軽く咳払いして、麗人の従者はそう姿勢を正した。
そういえば、オドレイさんがこの部屋にいたの忘れてた。
「いつから……」
「私の妻としての自分の姿など微塵も考えられないといったあたりから……身分がどうのよりもそうじゃないかと薄々思ってはいましたけれど、はっきり言葉に聞くとそれなりに傷つくものですねぇ」
「本当に……申し訳ないとしか。早くに母親を亡くしたためかしっかりした娘ではあるのですが、いささか行き過ぎてしまったかあるいは妙なところで子供のままなようで」
「いえ、だからこそいま立派に王女の侍女として務めているわけですし、彼女のそういった面に惹かれたわけですから」
なんだろう。
なんだか……わたしをおいてけぼりにして、二人で会話してない?
「申し訳ないと思いますが、娘のこのような考えを聞いたからには公爵様……」
「父様っ」
お断りするしかない、と。
父様の袖を握ってうんと頷く。
この後たぶん色々とお小言があるだろうけれど、もしかしたら王宮に迷惑のかからない時間をおいて戻るように言われてしまうかもしれないけれどそこは父様を説得必要があるけれど、私一人がなにをいっても魔術師に逆手に取られて、なんだか納得がいかないまま、トントン拍子に状況だけは結婚に向かって進んでいっているこの縁談をひとまず白紙に。
「まったく貴方の仰る通り。本来ならこんな娘の我が儘など、父の立場から言い聞かせて諭すのが筋であるというのになんて寛大な……」
「は?!」
「突然、引くに引けない状況で求婚してしまったのはジュリアン殿のご指摘の通りですし、マリーベルのために設けた婚約期間でしたが……彼女はなかなか本音のところを言ってはくれないし、やはり父親である貴方に聞いていただいて正解でした」
「え?」
「マリーベル。公爵様はお前が戸惑っている様子に婚約期間を設け、色々努力してみたもののどうにもお前と打ち解けられない気がすると。自分が尋ねても本当のところは言えないだろうからと、妻を持ちながら地位と権力を嵩に気に入った娘に手をつけ愛人にするような貴族も多いというのに……お前ほど幸運な娘はない」
「ええっ!? ちょっと、父様っ……なにを言って」
「お前が公爵様が嫌だというのなら考えもしたが……むしろこの縁談を断ったらお前のような娘が円満な結婚ができるとは思えないっ」
「ひどっ……ひどい父様っ、そりゃそうかもしれないけれど、そんな言い方っ」
「おや、“そうかもしれない”ですか? マリーベル?」
落ち着き払った静かな声に、父と私が同時に魔術師を見る。
ほとんど親子の言い争いに騒がしかった応接間が、しんと水を打ったように静まった。
そこへくすりと、魔術師が低く小さな笑みの声を漏らす。
「ある意味はじめて貴女から聞いた前向きな言葉ですよ、マリーベル」
「へ?」
「そうかもしれない……つまり、貴女自身もジュリアン殿同様、“私”でなければ円満な結婚は出来ないと、ちょっとはそう考えてくれていたということでしょう?」
一度、言ってしまった言葉は戻せない。
そうだ。
この人は。
人の言質を取るためならどんな手の込んだことも厭わない、大悪徳魔術師。
これはもしかして、ううん、もしかしなくても、まんまとこの人の術中に。
「それは、言葉の綾といいますか……」
「なんだそれなら儂も心置きなくこう言える。家のことなど心配せず公爵様の申し出を受けなさい」
嵌められた――!!
「と、父様でも、相手は大貴族様なのよ。それに見合う支度金は……」
「娘の幸せの為だ。父としてはいささか情けないが公爵様の依頼を受ける」
「依頼?」
「ああ、法務大臣殿からジュリアン殿は優秀だとお聞きして、フォート家の諸々の書類仕事をお願いしたいと」
「つまり法科を修めている父に、フォート家の契約書など難しい書類仕事の一部を任せたい」
「ええ、領主としてのお立場や仕事もあるでしょうから気が引けるのですが、適任な人もなかなか見つからず……結構古い記録から起こしてほしい契約などもあるもので。五年間の専属契約と依頼料込み金貨五千枚で打診を……」
は?
いま、なんて仰いました?
金貨……ご……。
「ご、せんっ!?」
「はい」
「金貨?」
「ええ」
「銀貨のお間違えでは?」
「なにを馬鹿な……仮にも一領主殿にお願いするんですよ。本来ならもっとしかるべきものをお贈りしてお願いするところです。無粋な上に失礼この上ない通貨で支払えばこれくらいは」
普通支払いに金貨なんか使わない。価値が大きすぎるもの。
金貨一枚で銀貨四十枚。
ええと、たしか今日書いた伝票。王妃様のローブや衣装諸々で銀貨二千七百五十枚。金貨にして七十枚にちょっと足りないくらいだ。ちなみに農夫の一家であればその半分にも満たない金貨二十五枚あれば一年遊んで暮らせる。
あらためて考えるとやっぱり王宮の生活は庶民には考えられない生活だ……なんてと呑気なことを言っている場合じゃない。
金貨五千なんて……たしかユニ家の年間収入って諸々合わせて金貨一千枚くらいだったはず……田舎領主だけど、小さな領地でも良質な作物に恵まれているユニ領の領地収入は馬鹿に出来ない。
王都のちょっと裕福な商人くらい、とはいえ領民のために使う諸々のお金もあるし蓄えも必要だからそれほど贅沢は出来ないけれど十分不自由のない暮らしができている。
つまり五年間分の謝礼を出しましょうってこと!?
「もちろん最初は断った、しかし仕事を請け負うことには間違いないし」
「王都で法廷に立つ上級役人を五年抱えたなら同じくらいかかります。これは正当な報酬です」
きっぱりとそう言い切った魔術師に、わたしは信じられないと睨むことしかできなかった。
10
お気に入りに追加
1,577
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
清廉潔白な神官長様は、昼も夜もけだもの。
束原ミヤコ
恋愛
ルナリア・クリーチェは、没落に片足突っ込んだ伯爵家の長女である。
伯爵家の弟妹たちのために最後のチャンスで参加した、皇帝陛下の花嫁選びに失敗するも、
皇帝陛下直々に、結婚相手を選んで貰えることになった。
ルナリアの結婚相手はレーヴェ・フィオレイス神官長。
レーヴェを一目見て恋に落ちたルナリアだけれど、フィオレイス家にはある秘密があった。
優しくて麗しくて非の打ち所のない美丈夫だけれど、レーヴェは性欲が強く、立場上押さえ込まなければいけなかったそれを、ルナリアに全てぶつける必要があるのだという。
それから、興奮すると、血に混じっている九つの尻尾のある獣の神の力があふれだして、耳と尻尾がはえるのだという。
耳と尻尾がはえてくる変態にひたすら色んな意味で可愛がられるルナリアの話です。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる