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フォンルージュ家編

51-悪夢の女

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別荘から帰りラルクに速攻抱かれてからしばらく経った頃、あれから僕とラルクは毎日をする仲になってしまった。兄弟以上恋人未満の歪んだ関係。

ルークの身体は僕の気持ちとは裏腹に性欲が大勢な方で、毎日ラルクとするのを喜んでいた。

ラルクは痛みより快感で虐めてきてタチが悪い。
抱かれる度に頭が空っぽになりそうなくらい何もわからなった所を狙って意地悪なことを沢山言ってくる。

前は何回も謝らせてきたが、今はどうやら僕にわざわざ状態を説明させるのにハマってるらしい。

ほんとに、褒めてないけどそういう性悪なとこ、アーノルドに似てるよラルク。ほんとに。

褒めてはないけど。


アーノルドとは手紙でやり取りをしているが、別荘を貸す代わりに国王に課せられたノルマを達成するのに忙しくて中々会いに行けないとのことだった。

いや非常に助かる。ラルク+アーノルドの性悪獣2匹なんて今で精一杯な僕には耐えきれない。

それにあの二人が次会ったら何をしでかすか分かったもんじゃない。

僕の断罪の時は仲良くしてくれるのかな。仲良くして欲しいなぁ(願望)





そんなこんなで日常を過ごしているとついに母上が帰って来る日が来た。


『アレを決して怒らせるなよ。面倒だから別邸に行かせたものを…あいつに地位などなければ切り捨てたいところだ』


父上の言葉を思い出す。父上は断罪の時にアニメでもモブとしていた。でも母親はアニメでも見たことがない。

母親が出るということは、そこまで設定が考えられていたんだろうか。
それともこの世界は、僕が知ってるアニメの世界のようで、似てるだけの違う世界なのか。


…父上があれだ。母上もまともではないだろうな。

僕自身あまり母親っていい思い出がなくて苦手なんだけど…、ここで躓いては断罪されない。


「…兄上?」


隣にいるラルクが訝しげに僕を見る。
大丈夫、大丈夫。僕は今1人ではない。
僕の母親ではないし。他人だし。
だから、大丈夫、大丈夫。


ラルクと僕は食卓の椅子へと腰をかける。


「お母気味がおいでです」


後ろにいたメイドが僕らに話しかける。何故か使用人たちもいつもよりピリピリと気が張っている。


ツカツカツカツカ…


高いヒールで力強く歩いてくる音がする。


僕の嫌いな歩き方だ。プライドが高い人の特徴的なうるさい早歩き。
心臓がバクバクと早く脈打つ。

使用人たちが扉を開けて足音の主が現れる。

そこには紺色の長い髪を後ろの豪華な髪留めで束ねた、ルークの顔を大人の女性にしたような美人が立っていた。

ブルーの沢山の宝石に黒に近い紺の重そうなドレスを身にまとい、指と首にはジャラジャラと惜しげも無く金と色んな色の宝石を飾らせている。


「あら、ルークじゃない。久しぶり。
相変わらず顔だけは可愛いわね。流石息子ね」


「…お久しぶりです、母上。

お褒めいただきありがとうございます。
お元気そうでなによりです」


苦手意識を無理やり抑え、フォンルージュスマイルで応対する。


やばい、この人の雰囲気、仕草、何より顔に滲み出ている性格…僕駄目かもしれない。



ーーー



「私がどれだけやってきたか、わかる?
ほんっとあそこの国の伯爵家はダメね。
私ならあんな風にはしないわ。どう考えたって愚策ですもの。やっぱり頭が足りないのね。

私を見習って欲しいくらいだわ」


「母上、さすがです」


私が、私が、私が。

さっきからこの話ばかり、相槌を打たないとこの手の人間は不機嫌になり面倒臭い。僕はよく知ってるから、持ち上げるように返事をするが、昔を思い出しかけてて辛い。食事が喉を通らない。


『私がどれだけ会社に尽くしてるかわかる?』

『私はあの無能な部長たちとは違うの』

『ほんとにあの子使えないわ。どうしてあんなんなのかしら。私だったらできるのに』

『私がいないと会社回らないから』


似てる、本当に。気持ち悪い。気持ち悪い。子どもを使って自分の承認欲求を満たそうとするその根性が、気持ち悪い。

ふと、目の前の高慢ちきな女が黙々と食事を摂るラルクに目をやる。


「あら、あなた誰?
何故ここで食事をしているのかしら」


え?今?
自分語りしすぎて気づいていなかったのだろうか。それとも自分以外どうでもいいのか。

父上も何も言ってないの?いくらこの人を毛嫌いしているとはいえ、ラルクのことも言ってないって…。関わりたくない気持ちは分かるけど。


「初めまして。ルーク様の義弟となりました、ラルクと申します。よろしくお願い致します。母上様」


ラルクが丁寧に挨拶をする。
女はラルクをまるで品定めするかのように上から下へと舐めるように見る。


「…ふーん、ねぇ、私が聞く前に挨拶するべきじゃない?失礼よね。礼儀も知らないでフォンルージュ家にいるだなんて。信じられない。

それに私はあなたのことなんて知らないし、あなたの母親でもないわ。二度と母上様なんて呼ばないで。気持ち悪い。

あの人も勝手にこんな鼠を家に入れて…何を考えているのかしら。やっぱり私がいないとダメじゃない」


…何だよ、何でそんなこと言うんだよ。
ラルクは何もしてないだろ。

ラルクの方を見るが、無表情で今の言動に何を感じたのかが分からない。平然としているように見える。

まるで目の前の女になど興味が無いみたい。


「承知しました。ご不快な思いをさせて申し訳ありません奥方様」


「ふん、まあ、今日はいいわ。明日からは私の目の前で食事は取らないでちょうだい」


「承知しました」


いくら、何も知らされてないとはいえ、ラルクは子どもだろ。なんでそういう事が言えるの。

なんで、なんでそうなんだ。
なんで、そんな…


「…あら、ルーク。何か私に文句でもあるのかしら?」


いつの間にか顔に出ていたらしい。
僕はすぐに表情を取り繕う。


「いいえ、何も」


「あんたも…離れている間に随分生意気になったみたいね。

…あなた…誰のおかげでそんな美しい顔になれたのか、誰のおかげでここの国の王子と婚約出来たのか、忘れてしまったようね」


『お前、誰のおかげで生きていけると思ってんの?』


あの人の、あの人の顔を思い出してしまった。


「ッ……!」


心臓を掴まれたように痛い。冷や汗が止まらない。身体が硬直して動かない。

だめだ…僕だめだ。この人嫌いだ。無理だ。一緒の空間にいたくない。


「躾し直さないとダメみたいね。

本当にあんたは顔だけは私に似て他の兄弟よりも可愛いのに、中身は出来損ないね。私の子供なのに」


『ほんとに、なんであんたはいつもこんなんなのッ!?ワタシの子供なのにッッ!!』


胸が痛い。痛い。痛い。痛い。
逃げる。逃げよう。機嫌なんて知らない。
こうなったらもうどの道OUT。もう終わりだ。こんな化物の相手なんて、無理、無理無理無理。

ガタッ!


僕は食事を中断して席から立ち上がる。


「…兄上…?」


そのまま驚いた顔のラルクの腕を掴み、引き継がれながら僕は部屋を出る。使用人たちが慌てて止めようとするも関係ない。


「ルークッッ!!」


後ろからヒステリックな女の金切り声が聞こえる。


「私に逆らってまともに生きていけると思わないことねッッッ!!!」


ガシャンと食器が割れる音がする。きっとあの女が暴れているんだ。

足早に自身の部屋へとラルクを連れて歩く。

ラルクはただ黙ってされるがまま、僕について来てくれた。
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