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フォンルージュ家編

52-闇の魔法

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僕はラルクを連れて部屋に戻り鍵をかける。

あの顔が…あの人の顔が…声が…頭から消えない…。

忘れろ、忘れろよ。お願いだから。
ああ、死にたい。今すぐに死にたい死にたい消えたい消えたい。

頭の中のあの人トラウマが、僕に死の呪文を唱え続けている。過去の情景がリフレインして止まらない。

自身の手を強く掴みすぎて爪がくい込んで血が出ているが、今の僕にはどうでもいい事だった。


「兄上、大丈夫ですか…?」


ラルクが心配そうに僕の肩に手を置いて顔を覗いてくる。


……ぁ……そうだ、抱いてもらえばいい。
抱いてもらえば忘れられる。快楽で足りないなら、あの苦痛を忘れるくらい痛くして酷くして貰えばいい。


僕たちはセフレなんだから。いいよね。



僕は衝動のままラルクの胸ぐらを掴み、齧り付くようにラルクの口にキスをする。


「あにっ…んん…ふっ…あにうえッッ!」


ラルクが僕を突き放す。


「ッ…兄上!なにして…」


なんだよ…いつも僕を手篭めにしてるくせに、僕からやったらダメなの…?

ラルクに近付き、首の後ろに手を回し誘うように下からラルクを見て、顔を寄せる。


「…抱いてよ。いつもしてるだろ?

今最高にそういう気分なんだ。酷くして、痛めつけて、壊れるくらい気持ちよくして…?


ね、いいでしょ…?」


早く早くはやくはやくはやく。
忘れさせて、おねがい。

ラルクの後頭部を掴み、下唇を甘えるように口で引っ張る。


「ね、おねがい…?」


僕を罵って嬲って蹴落として甚振って。
酷くして。おねがいラルク。

冷たい冷静な目が僕を見る。


「…いいですよ。分かりました兄上」


やった!抱いてもらえる!忘れられる!
はやく、はやく!


「準備しますから、ベットに横になっててください」


「ッ…そんなのいいから、今すぐ抱いてよ!」


「ダメです。準備しないと抱きません。

いいんですか?おれに抱かれたいんでしょ?」


ラルクに一喝されて渋々ベットに上がり、ラルクを待つ。

ラルクは部屋にある高そうな装飾がされた棚から何かを取り出して持ってくる。

動物性の革で出来たベルトみたいな手錠だ。


「兄上、両手を合わせて前に出して」


言われた通りラルクの前に手を差し出す。
そのまま両手首に手錠が嵌められ、締められる。両足も同様手錠と同じタイプの足枷が嵌められ、海老みたいにしか動けない。

期待に胸が高鳴る。後はラルクを煽って怒らせて酷くしてもらえばいい。

僕って最低だな。早く消えたい。
早く死んじゃうくらい、抱いて欲しい。


ギシ…


ラルクがベットに上がる。その重みでベットのスプリングが音を出す。

ゴクリと期待で喉がなる。自然と口角が上がってしまう。


はやく、この声を消して。


僕の横に寝そべったラルクが僕をギュッと抱きしめる。ラルクの腕が僕の背中を摩り、腕枕にしている方の手で頭を撫でる。

ラルクの胸に顔が当たり、ラルクの匂いと鼓動が感じられる。


抱き………は?


「…何してるの?」


「なにってるんですよ。兄上を」


何の冗談?面白くない。


「違うだろ、ぼ…俺を抱けと言ったんだ。こういう事じゃない。早く、セックスしてよ。こんな前戯いいからさ。早く、ねぇ」


手と足を拘束されているおかげでラルクを襲うことも出来ない。

なんで、なんで。やめて、こんなの望んでない。早く抱いて。エッチしよ。いつもやってるじゃん。なんで意地悪するの?

なんでなんでなんで。


「…こんな顔してる兄上を抱きたくないです」


……はぁ…?何を今更……僕が今までやめてと言っても止めなかったのに、なんだよ、なんだよそれ…ッッ!


「ふざけるなッッ!お前がしたくないとか関係ないッ!僕が抱けと言ったんだ!!今更かまととぶるなよ…ッ!

僕がやめてって言っても止めなかったくせに…ッ!なんで、なんで……!」


ラルクもアーノルドも…ッ…なんで急に優しくするの…?ずるい、ずるいよ…ッ!!

僕が幸せになんてなるわけないのに!
どうせ僕のことなんて好きになってくれるわけないのにッ!

僕のことなんて何も知らないくせに!

僕の中に入ってこようとするなッ!!

中途半端に期待させるようなことをしないで…ッ!!


僕がこれを受け入れてしまったら、受け入れた後に嫌われて捨てられてしまったら、



僕はもう耐えられない。





黒い感情に支配されていくのがわかる。
それが大きくなり、身体から溢れ出てくる。

溢れ出た黒いモヤは集合し、黒い触手に形を生していく。

この触手は闇魔法特有のものだ。この世界的に見た目が他の魔法より不気味で、使い方によっては簡単に人を傷付けることもでき、尚且つ使用できるものが少ないため毛嫌いされてる魔法。

使えるだけで差別される魔法だ。


どうやら僕の負の感情に反応して発動したらしい。

一気に増えた太い触手がラルクを押し退け、ベットに押し倒す。


「ッぁ…あにうえ!」


押し倒したラルクの両手を触手でまとめあげ僕についてる手錠のようにラルクの自由を奪う。


触手を使いラルクに付けられた革の手錠と枷を切り、身体が自由になる。

ここまでこの魔法を使いこなすのは初めてだ。

前まで小さい触手を1本程度しか出せなかったし、自分の意思でここまで自由に動かすことは出来なかった。僕に魔法の才能はないと思っていたが…

アニメではこの魔法は物語で人に危害を加える際によく使われていた。
ルークは影からこの触手を出し、主人公を階段から突き落とす。
そこにアーノルドが遭遇し、主人公が虐められていることに気付くのだ。

この世界では魔法で人に危害を加えることは重罪に値する。
だから今みたいに、ラルクの意思に反して体の自由を奪うこの行為は完全に犯罪。牢獄行き。
ルークみたいに人の命に関わるようなことをすれば死刑になる可能性すらある。

…安心したよ。僕はちゃんと悪役ルークなんだね。


僕は身動きが取れずもがいているラルクの上に跨り、自身の服を手で、ラルクの服は触手で脱がせていく。


「…ラルクが悪いんだ。抱けって言ってんのに、何時までも僕を焦らすから……」

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