どこかに愛情を

今日から閻魔

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愛の輪廻

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 何となくだけれども何年か頭の隅にぼーっと考えていることがあります。よく宗教で輪廻とか転生とかを説いているように愛情にも輪廻があるんじゃないかな、と。

 僕の感覚ですが、愛情はある時代の人から次の時代の人へと渡されていくように感じています。僕の祖父母から僕の両親への愛情を子供の頃はよく感じました。僕宛のものもありました。そして、祖父母が亡くなってしまった時、両親や親類が止め処なく泣いている姿を見て彼らが祖父母のことを深く思っていたことをきちんと感じました。祖父母が亡くなったのと同時に祖父母から愛されていくことはもう叶わなくなった、そんな当たり前な事実がとても大きな壁や穴となって祖父母に愛された人々、祖父母を愛した人々の心を揺さぶっていました。祖父母への愛こそ続くことは出来ますが、祖父母からの愛はもう今日より過去にしかないのだと子供ながらに漠然と認識したのを覚えています。葬儀の日は実感が湧かず葬儀場の駐車場に絵を描いて遊んでいましたが、2.3年して友達の祖父母が死んだという話を聞いた時、なぜか急に大泣きをしました。何となく全てが思い出されて、温かい空間が懐かしく切なく感じられて。
 こうした祖父母が愛したり愛されたりをした影響は僕の両親の愛情の中にもきっとあります。僕に向けた愛情の中にもその要素のいくらかが絶対に含まれているでしょう。それを受け取りながら育っていく僕の心にも彼らから受け継いで育てた愛情がきっとあります。両親の愛情も与えられた時間が止まるまで僕に影響を与え続け、僕の愛情のいくらかを形作っていくのだと思います。それを僕もまた未来で自分の子供にしっかり引き継がなければならないのでしょう。そういう意味で愛情にも輪廻のようなものがあると思うのです。

 その愛情の輪廻の中には、受け取って、深めて、渡す、そんな3つがあるような気がししてます。大体1人の人生の中でこの3つをこなして終わると思うんですね。それを誰かがしっかり務めるおかげで世の中から愛情がなかなか消えることはないんだなと考えています。

 冒頭の祖父母の話の通りですが愛情を受け取る段階は、本当に幼少期に親や先生などある種の拘束力を持った立場にある人から愛されるという意味です。小さい頃の人の暖かさや愛情をぼんやりと知って感じていく中で好きと嫌いという感情が育っていく。まだまだ可愛いレベルの自我の形成といえるかもしれません。この段階で愛される時間が少ないとのちのちに歪んだりするのかなぁと昨今のニュースを見ながら感じてまして、非常に残念に思います。大した効果は無いかもしれませんが、つまらなさそうな子供と目が合ったら変顔をして笑わせることにしてます。どんな子にも愛情を渡せるぞってほど出来た人間じゃありませんが、はぶて気味の子供に、せめて数秒の笑いくらい届けられればいいなと思う次第です。

 愛情を深める時期は、ずばり思春期です。これは同年代の誰かとしかできない特別な時期だと思います。誰かに恋したり、誰かと喧嘩したり。嫉妬して、憎んで、喜んで、応援して、抱きしめて、抱きしめられて。何か1つのことを誰かと一緒に目指して。
 そういった良くも悪くも必死になれる時期が愛情や愛情に対する考え方を深めていくのかなと。まだまだ僕自身の器が小さかった頃ですが足が速いというだけで人のこと妬んでました。まぁそんなくだらない何かでさえ、どこかの時点をきっかけに人を好きになったり大切に思ったりするきっかけになるんですよ。
 僕は、高校生ぐらいでは足が速いチームメイトが大切だなって真剣に思ってました。サッカーで言えば足の速い人はかなり重宝します。自分にできない何かを託すことができました。チームスポーツはそういう自分に無い誰かの個性を大切に考えるところに醍醐味の1つがあります。チームとして一番重要な個性を最後まで発揮させてこそ、勝ちが近づきます。そのために自分がどうあるかを考え始めた時、だんだんチームメイトのことを理解して大切にしていこうと思えるんです。
 何となく聞いていたら、結局良い数字を持つか持たないかという悲しい響きもあるかもしれません。でもそう思うかどうかは、その数字を叩き出したのが最終的に結果をもたらした人間だけではない、という認識を持てるかどうかです。過程に挟まれた人間たちにも確固たる意地があります。努力もあります。最終的に結果を手にした人がそれらを大切に思う人で、過程に立った人たちがその結果を出した人を大切に思う人たちなら至高のチームです。一生、そこにいれた方がいいです(笑)
 誰かと素直に触れ合える思春期があってこそ自分の中で愛情という価値観が大きく成長していくのだと思います。まぁ何歳になっても成長は止まらないもので、思春期限定とはなかなか言えませんが。個人的に言えばまだだ成長期でこれから先も成長していく感じがあります。

 そして、深めたものを次の世代に渡していく。1番難しいのはここなのかなと最近はとても思います。愛情の解釈は、文章や言葉として形を与えるには困難を極めるでしょう。僕は、感情の全ての中で愛情が1番一義的という考え方から離れたものだと感じています。なんせ単純に男女が告白するだけでも発信者と受信者では感想が大きく異なりますから。
 でも絶対に逃げられないテーマだとも思うんです。自分の考え得る愛情のあり方全てを惜しみなく伝えなければ、次の世代はまた遥かに後ろからスタートしてしまう。非行や戦争の何もかもが一切好転しないのではとたまに焦ります。愛情がどれほど暖かく雄大で隙間に染み入る繊細なものなのか。どれだけそれを早く知れるかはその人の人生の内容に直結すると思うわけです。だからこそ愛情は渡していかなければ。受け取ったものを深めて渡さなければ。人生観や価値観が落ち着けば落ち着くほど、人を大切にする余裕もあるはず。がむしゃらに生きる可愛い後続の人々のために、いつか風化していくような物ではなく失えないほどの暖かさを残したい。
 

 こうしたサイクルの中を生きている自分が、将来的にどれだけの愛情を置いて去れるかは分かりません。ただ段々廃れていきそうな心のあり方に、愛情というテーマのもと風穴を開けてやりたいなーとたまに思います。片手間に書くこんな文章でもどこかの誰か温めれるものであればなぁと願う日々です。
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